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    バジル

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    バジル

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    田舎🟡🟣
    じぶんへのいましめチュートリアル
    2ヶ月

    五月蝿いくらいの蝉の鳴き声が響き渡る広大な空は片田舎のこの町にはお似合いで、いつもより暑いこの日は8月の最高気温を更新した。その事もあり、サニーの部活はいつもより早く終わっていた。空いっぱいから零れてくる太陽の光は、サニーにも暑さを及ぼし、汗を吐き出させていた。帰路にある見なれた扉をサニーは開ける。扉を開けると大凡の距離感は親戚と言ってもいいほどに親しい老人がいる。人口の多いとも少ないとも言えないこの町にある古いお弁当屋さん。田舎ならではの大ボリューム、低価格の弁当は育ち盛りで学生のサニーにとってはうってつけの店だった。加えて店主も気前がよく、ことある毎にサニーにサービスと言い惣菜をおまけしてくれたり商品の割引をしてくれたりをしてくれていた。その事もあってか、いつからか部活の練習が午前のみの場合はこの店で 弁当を買ってから帰るというのが習慣になっていた。今日もその例に過ぎず何を食べようかと思いながらサニーは扉を開けたのだった。だが、いつもいる店主はおらず、代わりに座っているのはどこかの国の美術館に飾られている人形のような人間だった。扉を開けた時に伏せられていた目は入店のベルの音と共にゆっくりとサニーへ向けられた。非常に整った顔立ちの男は、まるで窓から入ってきた風を追うかのように何一つ変わらない表情でいた。実際は1秒も経っていないであろう時間は、サニーにとってはとても長く感じるものだった。この不可思議な時間の沈黙を破ったのはサニーではなかった。
    あの…とサニーを伺うように声をかけてきたのは他でもない美しい男だった。たった二文字の、それも呟くような声だったのにも関わらずサニーの脳内には男の声が響いていた。妖艶な見た目から発せられる少しハスキーな声は、まさに人の心を鷲掴みにする声そのものだと感じられた。その圧倒的な美しさを今までの人生見たことも聞いたこともなかったサニーは言葉を失っていた。まじまじと男の姿を見るサニーは本来の目的などとうに忘れていた。返事のないサニーを不審がり、男は段々と声を大きくしていった。最初は小鳥のような声だったのにも関わらず今はもう普通の会話の声量よりも大きな声だ。なんの反応もないままの煌めくサニーに好奇心が募り男は人見知りというステータスは既に捨ててしまっていた。長年運動をやっていたサニーには、健康優良児に相応しいほどの筋肉があった。男はそれを見やり、つん、と人差し指で腹筋を押した。それと同時に閉ざされていたサニーの口からは素っ頓狂な声が出る。その声を聞いて男はさらに楽しくなったのかサニーの顔を見上げ、これまた妖艶な笑みを見せた。
    「やっと気づいた?」
    からかいを含めた声で男がそう言うとサニーは顔を赤らめた。それを見て男はまた笑った。その笑顔にサニーは耳まで真っ赤にさせえ、あ、と声を吃らせた。その様子を男は見守り椅子に戻った。
    「それで、お弁当は何にするの?」
    何事も無かったかのように注文を聞く男にサニーは反射的にのり弁当で、と答えた。
    「のり弁当って足りるの?大丈夫?絶対お腹すいちゃうでしょ。唐揚げとかにしとけば?」
    「じゃあ、唐揚げで…」
    今何よりも緊張が勝っているサニーは言われるが儘に頷くことしか出来なかった。男は店の奥へ行き注文を厨房へと伝えに行った。一先男の姿が見えなくなりサニーは安心したが、次の瞬間後ろからぬるりと腕が伸びてきた。ひぃっ、とサニーの口から声が出た。それをまた面白そうに、腕を伸ばしてきた男がくふふと笑う。
    「いい体してるね。何部?」
    他人の気持ちなど露知らず身体中の筋肉を触りながら聞く男にサニーは戸惑いを隠せなかった。この状況をどうにかしたいと思いながら口を開いて質問に答える。サニーの背中には男の顔が埋まっており、この人にはパーソナルスペースがないのかとサニーが考えている間に弁当ができたらしく奥から店主が出てきた。すると店主は目を丸くし笑い始め、浮奇くんに懐かれてるの珍しいね、と言った。
    「浮奇?」
    店主の口から出た名前をそのまま口にすると背中からもぞと顔が動く感覚が伝わった。
    「そう。俺のこと。浮奇ヴィオレタ。君は?」
    浮奇というこの男は自分の名前を名乗りながらも未だサニーの背中からは離れようとしなかった。
    「サニー、サニーブリスコー。」
    初対面の男たちが引っ付いている様子を面白そうに見る店主から弁当を受け取ったサニーはいい加減懐いた猫のような男を離れさせようとして自身の背中を見やった。すると上を向いていた浮奇と目が合った。男にしては大きく、ぱっちりとしている瞳、二重幅、長い睫毛、通った鼻筋、リップで保湿された唇、透明感があり少しふっくらした肌。
    「もう離して貰ってもいいですか」
    浮奇の顔に見惚れながら口にしたサニーの声は少し震えていた。やっと冷めてきたはずのサニーの体は再び熱を持った。少し寂しそうな表情に変わった浮奇は仕方が無さげにサニーから体を離した。
    「あ、ねえサニーって」
    サニーが店を出ようとした瞬間浮奇はそう言った。だがその言葉は続かれることは無く、声を発した浮奇本人からなんでもないと言えばサニーも大して気にしなかった。サニーは再度お礼を言い店を出た。空は変わらず眩しいほどに輝いておりサニー目を細めた。
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    バジル

    MAIKING田舎🟡🟣
    じぶんへのいましめチュートリアル
    2ヶ月
    五月蝿いくらいの蝉の鳴き声が響き渡る広大な空は片田舎のこの町にはお似合いで、いつもより暑いこの日は8月の最高気温を更新した。その事もあり、サニーの部活はいつもより早く終わっていた。空いっぱいから零れてくる太陽の光は、サニーにも暑さを及ぼし、汗を吐き出させていた。帰路にある見なれた扉をサニーは開ける。扉を開けると大凡の距離感は親戚と言ってもいいほどに親しい老人がいる。人口の多いとも少ないとも言えないこの町にある古いお弁当屋さん。田舎ならではの大ボリューム、低価格の弁当は育ち盛りで学生のサニーにとってはうってつけの店だった。加えて店主も気前がよく、ことある毎にサニーにサービスと言い惣菜をおまけしてくれたり商品の割引をしてくれたりをしてくれていた。その事もあってか、いつからか部活の練習が午前のみの場合はこの店で 弁当を買ってから帰るというのが習慣になっていた。今日もその例に過ぎず何を食べようかと思いながらサニーは扉を開けたのだった。だが、いつもいる店主はおらず、代わりに座っているのはどこかの国の美術館に飾られている人形のような人間だった。扉を開けた時に伏せられていた目は入店のベルの音と共にゆっくりとサニーへ向けられた。非常に整った顔立ちの男は、まるで窓から入ってきた風を追うかのように何一つ変わらない表情でいた。実際は1秒も経っていないであろう時間は、サニーにとってはとても長く感じるものだった。この不可思議な時間の沈黙を破ったのはサニーではなかった。
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