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    mayooh07Z

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    mayooh07Z

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    夏に上げたかった夏のお話です
    なので微妙〜に夏の気配が残っています

    社会人炭善、年齢操作あり

    #炭善
    TanZen

    社会人炭善「お、おじゃまします……」
    「うん、傘はその辺に置いてくれ」
     駅から歩いて十分程、家と家の間に田んぼを挟んだ風景を見ながら辿り着いたのは、こじんまりとしたアパートだった。新卒四年目で地方に転勤になった炭治郎は、本社にいた頃より少しだけ階級が上がっているはずなのに、住むところには頓着しないらしい。鈍い音を立ててドアが閉まる。炭治郎の腕が頬の横を通り過ぎてスイッチを押した。少しだけ心臓が跳ねる。

    「何もない部屋だけど……」
    「いや、本当に何もねえな」
     明るくなった部屋に見えるのは、まずキッチン。綺麗に整えられており、毎日使われている感じだ。居間にはソファがあり、テレビが置かれている。隣は多分寝室だろう、遮光カーテンが見えていた。
    「適当に座っててくれ」
    「や、俺も手伝うよ」
    「そうか?」
     俺を駅まで迎えに来たついでに、スーパーで買い物をしてきたらしい。炭治郎は本日休日にも関わらず出勤していたそうで、ノーネクタイのワイシャツは胸元が涼しげに開けられていた。
    「じゃあにんじん洗ってもらおうかな」
    「何作るの?」
    「野菜炒め。でいいか?プルコギ風」
    「めっちゃうまそう」


     炭治郎とは、会社の新人研修で出会った。初めてグループワークをするとなった際に、隣に座っていたのがこいつだ。そこから何かと飯やら飲みやら一緒につるむようになり、二年目に部署移動で同じフロアになってからは早かった。互いの家を行き来したり、ちょっとしたことで電話したり。
     少し、行き過ぎていたかも、と思う。互いに酔った頭で、何も考えず体を寄せ合ったり。寒いからと言って、冬の日に同じ布団で寝たり。当たり前のように「あーん」をやりあったり。
     もしかしたら、もしかして。互いにそう思っていたことは分かっている。だけど、互いに踏み出したくないと思っていることも分かっていた。大人っていうのはやっかいで、変なところで保守的になる。あと五年若かったら、もしかしたら何か行動を起こしていたかもしれない。でも俺たちは多分、変化が怖かった。
     そうしている間に辞令が届いた。炭治郎が地方に転勤になったのだ。うちの会社ではよくある話で、見込みのある若者が地方で研鑽を積み、再び本社に戻って出世する。次に会う時は上司と部下か、なんて笑って肩を叩いていたんだ。

    『盆休み、うちに来ないか?』

     グループメッセージで、同期とやり取りをしていた時だった。突然、炭治郎から個人メッセージが送られてきた。

    『我妻、ミヤガワさんと結局どうなったの』
    『え、何それ』
    『我妻今日告られてたんだよ』
    『まじで!?!?詳しく教えろよ』
    『何もないよ、断った』

     えー、と一斉に湧くグループメッセージ。めんどくさ、と思ってスマホをベッドに放ろうとしたら、ブブ、と小さく震えた。
    『盆休み、うちに来ないか?』
    「何、とつぜん……」
     かまどたんじろう、の文字を目で追う。もう一度、メッセージを読む。うちに来ないか、だって。
     ごくりと唾を飲み込む。
     いつ、と聞いたら善逸に合わせる、だって。盆も正月も、欠かさず実家に帰るような真面目男なのに。じゃあ、と盆休み後半の日程を伝える。俺はいつも墓参りのために数日実家に帰るだけなので、問題ないだろう。
    『楽しみしてる』
    『俺も』
     炭治郎とやり取りをしながら、ぽこぽこと当事者である俺を抜きにしてグループメッセージが溜まっていくのを目の端に捉える。炭治郎も同期だから、このグループに入っているはずなのに。俺が告られたという話を聞いて、それには何も反応せずにただ俺に個人メッセージを送ってきたのは、どういう心境なのだろうか。
     炭治郎とは、一年と少し、一度も顔を合わせていない。
    「ちゃんと話せるかなあ……」
     溜息のような言葉が、一人しかいない部屋の隅に吸い込まれていった。


     結果として、炭治郎と顔を合わせた瞬間から口が回るのを止められなかった。一年と少し前までは、毎日のように話して話して話しまくっていたのだ。言いたいこと、知ってほしいこと、あまりにもたくさんありすぎる。
     それに、炭治郎は嬉しそうに笑って「そうか」と相槌を打ってくれる。その声が聞きたくて、俺はアパートに着くまでの間、どこからか聞こえるカエルの声をBGMにずっと喋っていた。

    「ピーラー、それ使ってくれ」
    「ほーい。てか炭治郎、もしかしなくてもめっちゃ料理してるね?」
    「ん?まあそうかな、ずっと一人暮らしだし」
    「なんかもう、置いてあるものが男の一人暮らしを超えてンのよ……」
     ちら、と奥を見ると棚に綺麗に並んでいるのは香辛料の類だろう。炭治郎は凝り出すと深いところまでハマる人種だ。それに、後ろの棚に置いてあるのは多分ホームベーカリーと、圧力鍋。ちょっと料理します、という範疇じゃない。
    「悪いけど今日は簡単なものだぞ、仕事終わりだし」
    「もちろん。忙しいのに押しかけてすまんね」
    「いや、呼んだのは俺だ、休みのはずだったのに急に出勤になっちゃったから……」
    「何かあったの?」
     意外にも、こちらでの仕事の愚痴をぽつぽつと語り始めた炭治郎に相槌を打ちながら、俺は玉ねぎの皮を剥く。涙出てきた。
    「それで、……ああごめん善逸、タオル使ってくれ」
    「ありがと……」
     タオルで目元を擦る。炭治郎は野菜を素早く切ると、肉と一緒にフライパンで炒め始めた。動きが淀みない、慣れているといった感じだ。
     適当な調味料を足して、美味しそうな匂いが漂ってきた。
    「米は予約で炊いてあるんだ」
    「お、さすが」
    「皿、そこに入ってる中から適当に出してくれるか」
     シンプルな白いプレートを出して置く。そこに、美味しそうなソースを絡めた肉や野菜がなみなみ注がれた。
    「超良い匂い」
    「時間ないときによく作るんだ。向こうのテーブルに持っていってくれ」
     湯気の立つ皿を二つ、小さなテーブルに運ぶ。このテーブルはきっと、冬にはこたつになるのだろう。冬にもまた来れるといいな、とほんの少し、頭の片隅で思う。
    「善逸、ご飯はこれくらいか?」
    「うん、ありがと……あ、もうちょっと多めで」
    「分かった」
     こんもり持った茶碗を受け取り、プルコギ風炒めの横に置く。うん、この匂いだけでもお茶碗何杯でもいけそうだ。

    「お茶、好きなだけどうぞ」
    「ありがと」
     炭治郎はさらに美味しそうな白和が入った小鉢と、卵スープを持ってきた。すごい、いつの間に作ったんだ。手品みたいだ。
     そう言うと「作り置きしてたんだ、スープは簡単なものだし」と照れたように笑った。同じ一人暮らしでも、俺だったら肉と米で終わりだろう。こういうところが違うんだなあと感じる。
    「いただきます。やっぱり炭治郎はすげえよ……ん、うま」
    「いただきます。別にすごくないよ……うん、うまい」
     タレを絡めた肉は少し味が濃いめで、野菜ともよく合う。
    「ところでさあ」
    「うん」
    「炭治郎は……」
     不自然なタイミングで言葉が切れる。炭治郎は米から目線を上げてこちらを見ていた。
     今、何を聞くというのか。ふと口が緩んで、全く計画無しで話し出してしまった。
    「あー……炭治郎は、こっちで良い人、できた?」
    「良い人って」
     肉を噛んで飲み込んだのだろう、炭治郎の喉仏が大きく動くのが見えた。
    「恋人ってことか?」
     真っ直ぐな目線とぶつかって息が詰まる。うん、と頷いてもまだ、炭治郎はしっかりとこちらを見つめていた。
    「……善逸は、どう答えてほしいんだ?」
    「……質問に質問で返すなよ」

     どうしてこの話題を振ってしまったのだろう。

     いやしかし、これが聞きたくてここまで来たのだ、と言っても過言ではない。──一番の目的は、やっぱり炭治郎に会うことだけど。
     ただの友人に、恋人がいるのかどうか聞きにわざわざ電車で何時間もかけて来たのか、と聞かれたら、そうだと答える。おかしなことだとは分かっている。しかし炭治郎はちっとも変な顔はしなかった。多分、炭治郎が俺に聞きたいことも同じことのはずだ。画面越しでは曖昧だったが、彼が俺と同じところで、同じことを考えているのだということが、顔を突き合わせてよく分かった。

     炭治郎は大きなため息を吐くと「いないよ」と言った。
    「俺に恋人はいない」
    「……なんで」
    「言わせたい?」
     ぱちぱち、火花が散ったのかと思う。炭治郎の目は赤みがかっていて、俺はその色が大好きだった。出会った時から、その眼にずっと惹かれていた。それが今、俺だけを見て、その熱量を伝えてくる。
    「炭治郎」
    「好きだ」
     俺の掠れた声に被せるように、炭治郎が言った。
    「善逸が好きだ。善逸以外の恋人はつくらない」
     炭治郎は真っ直ぐだった。言葉も、瞳も。
     逃げてばっかりの俺に、いつも真っ直ぐ向き合ってくれる炭治郎。そんな彼に、俺はいつも救われていた。
     何か言わないと、と俺が口を開いた瞬間、炭治郎が自分の髪の毛をくしゃりと掴んだ。
    「はああ……」
     大きなため息を吐いて前に崩れるものだから、俺は驚いて目を白黒させた。机に額がぶつかったのか、鈍い音がする。無事か、机。
    「え、炭治郎、どうした?大丈夫か?」
    「いや……、……大丈夫」
     だいぶ間のある「大丈夫」だな。
     そう思いつつも、ゆっくり呼吸を整える炭治郎を待つ。今本人の手で乱されてしまった髪も、目と同じで赤みがかっている。その髪色もまた、炭治郎の好きなところの一つだった。
    「俺も炭治郎が好きだよ」
     ころ、と飴玉でも転がり出たかのような告白だった。言った俺が目を丸くさせていると、目の前の炭治郎も同じ顔で頭を上げた。予想外の自分の言葉にあたふたしてしまう。
    「あ、えと、」
    「こんな風に伝えるつもりじゃなかったけど」
     炭治郎は、プルコギも白和も卵スープも、全部越えてこちらに身を乗り出してきた。箸を取り落とした手をぎゅうと握られる。

     炭治郎の手は、こんなに熱かっただろうか。強く握られると火傷しそうだった。燃えるような目に捕らわれて、頭の中がスパークする。
    「善逸のことが好きだ。たぶん、出会った時からずっと好きだった。俺の恋人になってください」
    「は、はい……」
     俺の返事を聞いて、炭治郎は安心したように笑った。
    「良かった、嬉しい」
    「うん……」
     頭がぼうっとしてしまって、あまり何も考えられない。そんな俺をじっと見ていた炭治郎は、ふいに顔を寄せてきた。
     ちゅっ。
     軽いリップ音が鳴ってふわりと唇に温もりが残る。照れ臭そうな顔の炭治郎を目の前に、俺はあんぐり口を開けた。
    「お、おま、お前ええ!手ぇ早すぎだろうが!」
    「ごめん、善逸が好きだって気持ちが抑えられなくて……」
    「は、はああ!?好きだって言っておけば何でも許されると思うなよ!?」
    「ごめんな……もう一回だけ、いいか?」
    「っな、はぁ!?……ええっ!?」
     机を回り込んでこちらに来た炭治郎は、俺の返事を聞かずにまた唇を奪った。今度はしっかり、温かさを感じるくらいゆっくり。
    「はあ、善逸……」
    「お、おいおい、これ以上はしないぞ!?」
    「分かってる、もうちょっとだけ……」
     肩に炭治郎の顎が乗って、そのまま強く抱きしめられる。何だ何だ、急に一体どうしちゃったんだ。
     だがまあ俺も満更でもなく、その背へと腕を回す。背中で組まれた腕がさらにきつくなった。
    「なに、随分甘えただなあ炭治郎」
    「これでも結構不安だったんだ」
     肩口に埋もれた炭治郎がもぞもぞと喋る。普段のしっかりした炭治郎とは随分様子が違って、少し笑えてきてしまう。
    「不安って何が?」
    「……善逸、女の子に告白されたって」
     ああ、と頷く。確かに、グループメッセージで同期にバラされたあの話は本当だった。
     彼女は春から同じチームになった後輩で、年齢的にも俺が一番面倒を見ていた。好意を伝えられたのには驚いたし、それが他人の目もある飲み会だったことも予想外だった。でも、
    「俺も、炭治郎しか目に入ってないよ」
     背中に回した手を伸ばして、炭治郎の後頭部を撫でる。汗で少し湿った髪だ。固くて短くて、指につんつん刺さる男の髪だった。
     自分が男を好きになるなんて、考えてもみなかった。しかし、思えば炭治郎と出会ったときから、こうなることは決まっていたのかもしれない。

    「善逸、明日には帰っちゃうんだな……」
    「うん」
    「帰したくないな……」
     盆休みはあと二日、ギリギリまで居座ったとしてもここに居られるのは最長で明後日までだ。切なそうな炭治郎の声に、俺の心臓も甘くきりきりと痛んだ。
    「寂しい……」
     素直に気持ちを伝えてくる炭治郎が可愛くて、愛しくて、堪らず今度はこちらから唇を寄せる。慣れないキスはぎこちないし、ぷちゅ、という音は恥ずかしかったけれど、驚いた炭治郎の顔が見れただけで気分が高揚した。
    「じ、じゃあ、もうちょっとだけ続き……する?」
     離れても寂しくないように。そう言った俺は、そのときはよく想像できなかったんだ。

     明後日の夕方、この家を出るときにどれだけ辛くなるのか。心も──あと、ついでに腰もね。
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    mayooh07Z

    MOURNINGワンライお題「月下」で書きたかったものです…きりの良いところまできたので供養します🙏
    ここから、枝で切った怪我を優しく治療してもらえた善逸は炭治郎に惹かれ、炭治郎もかっこよくギャップのある善逸のことが気になり、交流が続きます
    月下の出会い 強い風が吹いて、咄嗟に目を閉じる。瞼の裏で夜の闇が濃くなったのを感じ、それはすぐに月を隠している人物がいるからだと分かった。
     空高く跳び上がり、空を仰ぐ炭治郎と月の間に浮かんでいるのは──月下の美しい剣士だった。


    「炭治郎ちゃん、今日はもういいよ。それを片付けたら戻って休みな」
    「ありがとう叔母さん。でも、あと少しだから」
     目の前に広がる稲穂を抱え、鎌を入れる。今日はもうどれだけの稲を収穫しただろう。こうして稲作を営む縁戚の家に炭治郎が手伝いに来るのは、毎年の恒例だった。
    「そうかい?そうしたら、暗くならないうちに戻るんだよ」
    「うん、分かってる」
     炭治郎の家は、裕福ではない。父の炭焼きの技術は一級品だが、それでもそれだけで家族六人が食べていくにはぎりぎりだった。こうして炭治郎が、知り合いの家や親戚の家に手伝いに行き、小金を稼ぎだしたのは十を過ぎた頃からだろうか。数日間だけだが、泊まっている間はご飯も食べさせてもらえる。農家の繁忙期には猫の手も借りたい。そんなときに炭治郎は猫の手ならぬ虎の手並みの働きを見せ「炭治郎は働き者で素直で良い子だ」と、親戚中でも評判だった。
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