種/シンとアスラン つかみどころのない人だなって。
ぽつりと落とされたその呟きを拾い上げて、アスランは小さく笑う。
「俺もそうだよ。キラのことは子供の頃から知ってるけど、未だにわからないことばっかりだ」
「そういうもんですか」
「そういうものだ」
そっか、と妙に納得しかけて、うん? とシンは首を傾げた。
「俺キラさんのことって言いましたっけ?」
「いや。違うのか?」
「違いませんけど……」
「お前がそんな風に言う人は、きっとあいつだけだと思ったんだよ」
「……もうそれなりに長いこと一緒に仕事してるけど、たぶんあんたと過ごした以上の時間になってるけど、何かやっぱりわかんないんです」
「言ったろ、そういうもんなんだよ。あいつはそういうやつだ。俺だって20年くらい付き合ってるけど、わからない」
「幼馴染なのに?」
「だから余計にだ。まあ、わからないってことがわかっただけ良いのかもしれないけどな」
わかったつもりになって勝手に期待したり裏切られた気持ちになったり、そういうのはなくなったかな、と苦笑いの表情でアスランが続けたので、シンは次の言葉を継ぐべきか少しだけ迷った。
「キラさんって、普段は落ち着いてるっていうか、動じないっていうか、のんきにしてるっていうか」
「まあ間違っていないな」
「締め切り間際になって一瞬顔面蒼白になって、それでも期限ギリギリに報告書上げるとか、区画一つ間違えて迷子になりかけたり……迷子ってあの人もういい歳なんだけど」
「いつものキラだな」
「そんな人が、あんな風に『フリーダム』に乗っていたなんて、信じられなくなる」
憎悪ではなく、ただ当惑してシンはその言葉を口にした。
「――お前にとっては、『フリーダム』のパイロットは今でも仇か?」
「正直、まだよくわからない。あの人のことも」
「そうだな、俺もわからない」
「あいつは譲れない信念を持っているくせに、それが正しいことなのかいつも疑ってもいる。戦いで得るものなどないのに、そうしなければ失くしてしまうものがあることも知っている。最強の矛と盾みたいなものだ」
「矛盾、ですか」
「そうとも言うかもな」