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    miya_ko_329

    @miya_ko_329
    完成できなかったネタはおもむろに増えてたりします。

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    miya_ko_329

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    晩年のボードウィン卿とかつての友を思わせる馬のはなし。

    鉄血/ガエリオと馬 その馬を見た瞬間、脳裏を過ったのはとうの昔にこの世を去った男の姿だった。

     栗毛の牡の仔馬、衆人環視に晒されようが大して気にも留めないのか歩様に乱れはなく、幼さの中に気概を感じさせた。
     古希を迎えたボードウィン卿がサラブレッドの競り市に臨んだのは、単なる偶然だった。若い頃ひどい大怪我を負ったという彼は、人生の大半車椅子での移動を余儀なくされたが、生来の屈強な体躯は老いてなお衰えることなかった。

     生まれた牧場でも同年の仔馬たちと遊ぶわけでもなく、一頭だけぽつんと立っていることが多かったという。

     ガエリオ・ボードウィン卿が亡くなった。
     最後の星が落ちたのだと、かつてのセブンスターズの威光を知る人々は一つの時代がいよいよ終わりを迎えたことを理解した。
     その死は唐突に訪れた。自身の所有馬が出走するレースの直後に起こった心臓発作で、数時間も経たない内にその人生に幕を閉じた。シーズンの最後に行われるグランプリレース。影さえ踏ませぬ孤高の疾走。そのゴール板を駆け抜けた瞬間、ぷつりと糸が切れたかのようにその歩様を乱した。異変に気付いた騎手が下馬し、その脚を見れば無残にも力無く揺れていた。その頃には関係者や観客のなかにもただならぬ状況を察して不穏なざわめきと、あるいはすすり泣くような声が広がりつつあった。誰が見ても、予後が芳しくない状態だった。

    「誰にも見せない心の内を、あの馬にだけは見せていたようでしたから」
     淡々とボードウィン夫人はそう語る。嫉妬でも悔しさでもなく、ただそう感じたのだという彼女の中の事実だけを述べた言葉だった。
    「足が不自由でしたから、あの子に会いに行くときは誰かと必ず一緒でしたけれど。別に何を話すわけでもないんです。仮に話していたとしても、馬も人の言葉は理解できないでしょうから、会話が成立しているわけではないんです。けれど、それでも種を超えた何かが、彼らにはあったのだと思います」
     色素の薄い、金のたてがみをなびかせてゆっくりと牧草地を闊歩する尾花栗毛のサラブレッド。馬主としてのボードウィン卿の生涯最後の、そして彼の所有馬随一の傑作。

    「あのひとは逝き、あの子は命を繋ぎました。……不思議なものですね、人の、生き物の生死とは」
     その婦人の視線の先で、父譲りの眩いたてがみを靡かせて若駒が駆けていた。
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    miya_ko_329

    CAN’T MAKE2ED後。いろんなひとのはなしを経て約束の場所にたどり着く2主が書きたかった。
    幻水/2主人公 僕らはいつも背中合わせの関係だった。
     小さい頃からずっとそばにいたから見るもの聞くものは同じものだった。けれど彼は僕みたいに前ばかり見ていないで、後ろのことも時々振り返って見ているような子だったので、「ヤマト、ほら落としてたよ」とポケットか何かに入れておいた僕の大事なものを拾い上げてくれるのなんてしょっちゅうだった。ナナミも「あー! またヤマト落し物して!」なんて言っていたけれど、自分だって彼に落し物を拾ってもらったことは一度や二度ではないはずだ。
     ともかく、僕と一緒に歩いていたはずの幼馴染は、前しか見えていない僕が見落としていたものもきっと多く知っていたはずなのだ。


     ハイランド皇都ルルノイエ陥落から数日が過ぎ、デュナン城の人の出入りは一層激しくなる。傭兵としての契約を終え出立する者、戦争終結に伴う事務処理のため招聘された文官、物資を搬出入する業者……コボルトやウイングボートも含むありとあらゆる人間がこの古城を旅立ち、あるいはたどり着く。とにかく人の往来が激しいので、そのどさくさに紛れてしまえば出るのはそれほど難しいことではなかった。城内の中枢はさすがに警備が厳しいが、商店が軒を連ねるエリアはほぼ誰でも出入りが可能だ。
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    miya_ko_329

    CAN’T MAKE書きたいところだけ(ガエリオとヤマジンの辺り)。CPメインじゃないはなしだったが、結局ガエジュリになったった。
    鉄血/ガエリオとジュリエッタ 永遠ではなく、けれど不変の。

     寒さは嫌いではない。互いの身を寄せ合うための格好の口実になるから。
     別に訳もなく引っ付いても許されるだろうけれど。

     温かさを保証する柔らかな寝具に包まれながら窓の外を見遣る。ほとんど白に近いような薄い青の空と、鈍い色の常緑樹や裸木の木立に目を遣る。温暖な海域を漂うことが多いヴィーンゴールヴにある自宅から見える景色と、色も空気も何もかもが違う。すべての景色の彩度は低く、太陽光は薄い雲の向こうから射していてどこか遠く感じる。慣れ親しんだ潮の匂いを多く含んだ大気はここにはなく、湿った土や木々を感じさせるものが取り巻いている。馴染みのないはずのそれらは、けれど決して不快ではなかった。たとえ自立が叶わない身ではあっても、大地に足を下ろしているのだと実感するからだろうか。宇宙空間とは明らかに違う圧倒的な安定感。それでいて絶えず変化する景色。薄い雲が流れて太陽がさっきよりもやや強い光を地上に落とす。一瞬たりとも同じ風景は無い。移ろう時間を感じられるのは大地の上で生きているからこそだ。あれほどに長く星の海に身を置いていても、結局自分が帰る場所はこの惑星の大地だった。
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