SW/レイとパドメとベン その星の美しさを謳う言葉なら何度も聞いてきた。水と緑に満ちた光あふれる穏やかな惑星。あらゆる意味での始まりの場所だと言っていたのは、フォースと一体となって久しい師たちだった。彼らのルーツの一つでもあるその惑星は、きっと良いところなのだろうと思いつつも、足を向けることにどこか躊躇していたのは、そこが自分にとっても縁がない場所とは言い切れなかったからだ。断ち切ってしまっても一向に構わない繋がりではあったが、好悪にかかわらず自分に流れる血は変わらない。流れる血は変わらずとも、自分の生き方は自分で決められるのだと、今のレイは知っている。
だから、そこに降り立つことを決めたのだ。
「綺麗なところ……」
噂に違わぬ景観に、思わず息を吐く。ジャクーの乾いた熱風とは全く違う、肌になじむ程よい潤いを含んだ大気の流れが、レイの髪を揺らす。
コア・ワールドの辺境、ナブー。師たちの母に当たる人物がかつて女王として統治していた場所であり、旧共和国の黄昏はあるいはこの地から始まっていたのかもしれない。
パルパティーンーーレイの血脈の一つもまたこの星から生まれたものである。
いつからそこに居たのだろう。レイよりいくらか年上だろうか、ただ立っているだけなのにその人が持ち合わせる気品のようなものは隠しようがなかった。フォースともまた違うその人が持ち合わせる不思議な魅力。有り体に言って、とても綺麗な人だったのだ。
「こんにちは」
その声は、想像に違わず確かに美しくはあったが、どこか少女のような透明さも感じさせる。
「こんにちは……」
突然かけられた声に、レイはそう返すだけだった。
「旅の人? ナブーの人ではなさそうだから」
「え? ええ、そうです」
「どちらからいらしたの? もし差し支えなければ、だけれど」
「んー……、色々なところを転々としたので、どこが出発点と言うと少し迷ってしまいますけど。……ジャクーでは随分長く過ごしていました」
「ジャクー。……アウター・リムの砂漠の星」
「そうです。よくご存じですね」
「ふふ。職業柄かしら。いろいろな星の人とお話することも多いから」
「どうしてこの星へ? 観光、というわけでもなさそうだけど」
「いろいろなことがあって、少しのんびりしたいと思って。ナブーは美しい星だと聞いていたので。……この星に縁がある人が近くにいたんです」
自分も含めて、とレイは心のなかだけで付け足す。
「そう。嬉しいわ。自分の故郷のことを良く言ってもらえて」
「あなたはずっとここに?」
「そうね……。外の星に出ることもよくあるけれど、私にとっての故郷はここだけよ」
「でも行かなければいけないわね。そうしなければいけないの。それがきっと私の運命だから」
やさしく揺れるそよ風とは違う、一際強く木の葉を揺らす突風が一瞬だけ吹いた。思わず目を瞑るレイは、その一瞬、表情に陰りを見せるその女性を垣間見た。
「ごめんなさい、急に話しかけてしまって。私ももう行くわね。さようなら、旅の人」
別れを告げた女性はレイの視界から消える。「アニー」と呼ぶ声に、反射的にレイが振り向くと、女性の歩く先に一人の青年が立っていた。長身で端正な造作をしているのに、笑うとどこか幼さを感じさせる不思議な人だった。青年が差し出す手にその人も手を伸ばして重ねる。
「……パドメ、さん?」
振り向いたその女性は笑顔をレイに向け、そして瞬きの後、そこには誰もいなかった。
「今のは、何……?」
『白昼夢だったんじゃないのか』
「うわ! ベン! いきなり驚くじゃない」
『ジェダイたるもの常に平静を保て。動じるな』
「じゃあ急に出てくるのも止めて。びっくりするでしょ。……せめて名前くらい呼んでよ」
言外の意図を察したが、ベンは、少しだけ不本意そうな表情で(あるいは気恥ずかしさか)、レイ、と小さく呼んだ。
「そう。そうして。……ね、今のは何だったのかしら」
「だから白昼夢だろ」
「私眠ってなんかいなかったわよ」
「お前のじゃない。……強いて言うなら、この場所の、だ」
「この場所? ナブーってこと?」
『星の記憶といったところだろう。あらゆるものにフォースは宿る』
「あの人は、やっぱりあなたのおばあ様なの?」
「たぶん。記録にあるアミダラ議員そのものだった、ように思える」
「あなたと同じように霊体ってこと?」
「いや、祖母はジェダイではない。そういった方法で生きている人間とコンタクトを取る術は持っていなかったと思う」
「だから、あれは星の見る夢なんだ。ナブーが秘めている、記憶の中のパドメ・アミダラ」
自分の中の父のようなものだと、ベンは思っている。
「そう。……ね、あなたのおばあ様はとても綺麗な方だったのね。それにおじい様も。想像以上にハンサムでちょっと驚いた」
「後のダース・ベイダーだが」
「わかってるわよ。そこは忘れてたんだから思い出させないで」
ベンは苦笑して、レイの隣に立った。すでにこの世から旅立った身には風は感じられない。すぐそばでレイの髪を揺らすそれを、ベンは感じることがない。寂しくないと言ったらきっと嘘になる。