朝も悪くは無いと思った。眩しく差す朝日に目が眩みそうになりながら、ノートンがふらふらと廊下を歩いていた。
ところどころで「おはよー」と声を掛け合い、朝食をとろうと皆食堂へと足を向けていた。
「かなり眠そうだな」
オルフェウスが後ろから声をかけてきた。
「…おはよう作家先生」
「ああ、おはよう」
片手を上げて挨拶をかわし、目を合わせるでもなく肩を並べて食堂へと歩き出した。
「君、そんなに朝弱かったか?」
「低血圧ってやつですよ」
「それは辛いな」
「全くです」
立ち止まって、はぁ…と深く重いため息を落とす。
1歩前で立ち止まったオルフェウスが、ため息をついた拍子に下がってきた頭に目を向けた。
感じた視線になにかと訪ねようとノートンが顔を上げかけたが、それは叶わなかった。
原因は頭にぽふぽふと乗せてくる手だった。
「なんですか」
「いや、なんとなく…撫でたくなっただけだ」
「…そうですか」
「こういうのは嫌いだったかな?」
未だに頭に乗る手を思いながら思案し、首を横に振った。
それに気を良くしたオルフェウスが、撫で付けるように動かした。
窓から差し込む光が陰り、そこではたと思い出す。
自分たちはいま朝食を摂るためにここに来た。
「そろそろ食堂に行こうか」
「あ、はい」
こつこつと靴音を鳴らし、前を行く。
が、それを阻止するようにくんっと腕を引っ張られる。
後ろを振り返ると、袖の口を摘み微動だにしないノートンがそこにいた。
僅かに頬がほんのりと赤みを帯びているのは、差し込む陽の光が思ったよりも暖かったからか。それともまた別のものか。
「どうした?具合でも悪いか?」
「いや…え、と…」
歯切れの悪い言葉ばかりが口をつき、しどろもどろになる。
視線を左右に泳がせ、なかなか要件を言葉にしないノートンにオルフェウスが顔を近づけた。
ちゅっと軽いリップ音と、口の横に触れた柔らかいもの。
それを理解すると、ばっと仰け反った。
「これの続きは朝食の後にでもしようか、ノートン・キャンベル」
「ぅえ…は、い」
ひらりとひとつ手を振り、今度こそとオルフェウスは靴音を響かせて食堂へと歩き出した。