sc16受「もしも生まれ変わるとしたら」萩景 次もまたかならず見つけだす、だとか。
死んでもわすれない、だとか。
何度でも一緒になろう、だとか。
人は意外と不明瞭な今生のその先を軽率に約束する。なんて酷い生き物なのだと思う。
今生の約束さえいとも簡単に破ってしまうのになぜそんな不確定で不明瞭な『次』を約束するのだろう。ほんとうに酷い話だ。
こちらを見てはにかんで、ほんの少し照れくさそうに甘ったるい言葉を吐いた男だってそれから一年も経たずして、この規則正しく流れる時の中から簡単にはじかれてしまった。共に歳をとることもなければ、笑いあうことも泣きあうことも慰めあうことも、罵りあうこともない。もう交わることの叶わない時間に彼は置いていかれて、俺はずっと後ろを振り返り続けてるのに規則正しく次へ進んでしまった。時は戻らない。振り返ってもそれはただの思い出で、いまこの時間そこにはない。
一生懸命省みて、想いをつづった手紙を紙飛行機にして飛ばしてもそこには届かないし遠くの彼が気付いてくれる訳でもない。
来世の約束なぞするよりも、もっと今生を大切にしてくれる方がよかった。
だって、来世は会える確証も互いがわかる確証もないのだから。だったら出会って幸せだった今生の時間をもっと長く続けて欲しかった。
意外とロマンチストでなくて現実的なんだね。と言われたことがあった。
たしかにそうかもしれない。それに比べて彼は現実を理解して受け入れた上でのロマンチストだった。だからあんな約束をしたのだ。もしも生まれ変わるとしたら、なんてぼやけて甘くてふわふわした枕詞をつけて、幸せそうに話していた。彼のそういったところは好きだったけれど、でもやっぱり俺は現実的だったのだろう。生きて一緒にいられている現状が一番幸せで好きだとか思ってしまっていた。
「ね、諸伏ちゃん。もしも生まれ変わるとしたら今度はもっと早く会えるといいねえ」
「会える前提で話してるのすごいね萩原」
「ええー、こういうのはさ、想像したもん勝ちでしょ。誰にだって正解はわからないんだし」
「そうは言っても、そもそも生まれ変われるかがまずわからないよな。いまだって現に俺たち生まれ変われてないし」
隣の男を見る。ほんのり透けて青空が見えている。頭の上にはこれ見よがしに光る輪がふよふよと浮かんでいる。これはとてもわかりやすい。
かく言う俺も、下を見れば足は地面についていないし、彼と同じく身体が透けて地面が見えている。鏡で確認したことは無いが、きっと頭上には同じものが浮かんでいることだろう。
間抜けな話、ふたりとも規則的に続く時間の流れから弾かれてしまった訳だが。
「諸伏はもうちょっと気楽気生きていいと思う」
「しんでるってば」
「じゃあ気楽に死んでていいと思うな!」
「なんかちがうような……まあ萩原と一緒なら気楽に死んでてもいいとは思うけど」
「うそいま諸伏に告られた?」
「いや告ってない」
重力を失ったことをいいことに、俺を台風の目にした萩原がクルクルと辺りをまわっている。まるで犬だった。かわいい。足音は一切ないけれども。
「諸伏はあんまり来世とかの話好きじゃないみたいだけどさ」
「うん」
「やっぱ俺はあのときそういう話しててよかったと思うよ。だってサクッと俺しんじゃったし」
彼はあっけらかんと言ってのけるが、そんな軽く言う話ではない。しかしツッコミを入れる間もなく彼は少し俯いて言葉を続ける。
「人なんていつ死ぬか分からないんだから死んでしまったその後の話もするんじゃないかな。俺と諸伏の時間はこのあいだ止まっちゃったけど、次があると思えるならちょっと嬉しいじゃん」
「……うん」
「あれ、納得してない?」
彼の言っていることだって理解出来る。職業柄一般人よりも人生の幕引きが早まる可能性は高かったし、実際貧乏くじのごとくお互いすぐに幕が下りてしまった。いまはただこの世界を観ているだけの観客でしかなくなってしまったのだ。
でもそれは結果としてそうなったと言うだけの話で、本来であればきっともっと長く時間を共にできたはずなのだ。それが悔しくて、生まれ変わった先の話なんてするからだと八つ当たり気味の怒りさえ浮かんでしまう。
不満げなそれが顔に出ていたのか、萩原が横でケラケラ笑う。彼はよく笑う男だった。それは死んでからも変わらないらしい。
「じゃあ諸伏、もし生まれ変わるとしたらやっぱり前よりももっと早く出会って沢山遊んで笑っていろいろしたいんだけど、生まれ変われるまでのこの幽霊の時間もたくさん笑って遊んで過ごそうよ」
「また突然一人で先にいなくならないでね」
「がんばるー!」
べっとりと覆いかぶさってきた萩原の背を撫でる。温度は感じないけれど、それ以外は生きている時と余り変わらないその手触りが嬉しかった。