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    すすき

    ブラカイ(カ受)/カプ無

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    すすき

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    ブラカイ版ワンライに参加しました!
    パラロイのブラカイになる前の二人です
    前呟いたネタを元にして書いてます

    お題「欲」「ワインレッド」「月夜」

    端末を開けば思わず声が出た。
    時刻はもう深夜二時を回っている。さすがの体力自慢のカインでも新しく何かをするには勇気が必要な時間だった。古めかしい窓ガラスの向こうは静まり返っている。顔を上げた拍子に、シャワーを浴びたばかりの髪から頬へと雫が垂れた。
    ほんの数分前に端末に届いたメッセージはひどく簡潔だ。ラーメン食いに行くぞ、とただそれだけ。差出人はブラッドリー・ベイン。頬に流れる雫をタオルで拭いながら小さく唸る。
    たぶん、断ることは難しくない。いくら上司からの連絡とはいえ、この時間だ。カインは明日も仕事がある。それを理由に行かないと返事をしたところで、明日からの業務に影響を出すような人じゃないだろう。わかっているから悩んでしまう。
    メッセージと同時に送られてきたピンは、カインの部屋からそう遠くないところにあるラーメン屋に刺さっている。値段は安いが量が多く、味もいい。カインも気に入ってよく通っているところだった。そういえば、最近は行ってないなと思うと途端に食べたくなってきてしまう。もう一度、唸り声を上げてしまった。
    こんな風に夜中に急に呼び出されるのは、何も今日が初めてじゃない。何度か同じように連絡が来て、その度に言われるがままに外に出てしまっている。何だかちょっとどうなんだと思わずにはいられない。
    やっぱり今日は断ろう、と指先を動かして、送信する前にふと手が止まる。一瞬脳裏によぎったラーメンのどんぶりが決心を鈍らせる。今日の夕食は、適当に買った安いサンドイッチだった。それだって決してまずいわけではなかったけれど、お腹がいっぱいになったかと言われれば肯定できない。胃のあたりがきゅっと縮んだような気がして唾を飲み込んだ。
    じっと端末を見つめて、時刻を確認して。結局、打ち込んだメッセージを削除してしまった。


    店の近くで、すでにブラッドリーが待っていた。
    「おせえ」
    「仕方ないだろ。シャワー浴びた直後だったんだから」
    さすがに濡れたままの髪では出掛けられない。これでも急いだ方だ。
    「あんたが急に誘わなきゃいいだけだろ」
    「こういうのは急に食いたくなるもんなんだよ」
    「それにしたって、もっとやりようはあるんじゃないか?」
    もう夜も随分深まっている。見上げた空には確かに月が輝いているが、あと数時間もしないうちに太陽が顔を出す時間だ。それまで待ってもバチは当たらないだろう。早起きは得意だし、朝一のラーメンなら喜んで行くのに。思わずため息が零れた。
    それでも、どうしてか別の奴を誘えとは口に出せなかった。
    「カイン」
    思考に沈みかけた体が大げさに跳ねた。誤魔化すようにブラッドリーの顔を見て、伸びてきた手に一瞬固まる。かさついた指先が頬にかかる髪を掬い上げた。何かを確かめるように動くのに、よくわからないまま呼吸の仕方を忘れてしまう。
    ブラッドリーが小さく喉を鳴らした。ゆるりと細くなったワインレッドの瞳がカインを見ている。
    「まだ濡れてんな」
    「そ、れは、あんたが」
    「俺が?」
    「待ってる、から」
    指先が離れていく。あっさりと視線を外し、ブラッドリーが店に足を向けた。早くしろと呼びかけられてはっとする。慌てて横に並べば、機嫌のよさそうな手のひらに背中を叩かれた。
    「ま、努力は認めてやるよ。だが次はもっと早くしろ」
    できるな、と仕事の時のように聞かれて頷きかけて、いや無理だと首を振る。髪を乾かす速さなんて、努力でどうこうなるようなものでもないだろう。
    「それこそ朝にすりゃいいだろ」
    「汗かいたままベッドに入りたくない」
    「何だよ、わがままな嬢ちゃんだな」
    「それ、あんたが言えることじゃないからな?!」
    ラーメンが食べたいからと夜中に呼び出した人には言われたくない。わがままはボスの方だろ、と言ってしまってから、さすがにこれは怒られるんじゃないかと気づいたけれど、撤回するのはやめた。だって事実だ。
    だけど、これから食事をするのに喧嘩したままというのも嫌だなと顔を上げる。前に、ぐしゃぐしゃに髪を乱された。抗議の声を上げて手を振り払う。
    睨みつけた顔は妙に穏やかで、思わず文句を飲み込んでしまった。
    「俺様のこれは強欲っつうんだよ」
    「……そんなに腹減ってたのか?」
    「さあな」
    その笑顔はどんな意味なのか。問いかけようとした言葉は、ラーメンの匂いにかき消された。
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    すすき

    DOODLE【ブラカイ/パラロ】
    ボスにキスしたいなって思うカインと、カインをかわいがりたいボスの話。
    誕生日ボイスがめちゃくちゃなブラカイで強すぎてしんで、何かもういちゃいちゃしてくれないと割に合わないなって思って書いました。
    いつものいちゃいちゃです
    あ、キスしたいなとふと思った。
    カインにとっては唐突なことではなかったが、うまそうにグラスを傾けるのを邪魔するのは少し気が引けた。今日はとっておきだと言っていたから。でもちょっとだけ、頬や額にならと考えて、それだと満足できないだろうなという結論に至って小さくため息を吐く。ほんの些細な吐息に気づいて、どうしたと聞いてくる視線に、やっぱり好きだなと思う。
    「なあ、ボス。……キスしていいか?」
    結局黙ったままではいられなくて、手元のグラスを置いた。ブラッドリーが楽しそうに喉を鳴らす。
    「さっきから考えてたのはそれか?」
    気づいてたのかとも言えずに頷くしかない。自分でもちょっと挙動不審だったかもと思う。
    テーブルの上のボトルはまだ残りがある。ブラッドリーがカインも好きだろうと選んでくれた酒なのは知っている。いつも飲んでる安いエールみたいに一気飲みして楽しむようなものじゃないのも分かってる。グラスに口をつけたままじゃキスはできないけれど、二人きりでゆっくり酒を飲んで話す時間も大切だ。
    1972

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