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    Tonfer

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    Tonfer

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    読んで字のごとく案その1
    ででうさ森時代(ガド)が亡くした弟子のミダを弔う話。
    文字数とオチが迷走したため、寄稿作品の原案となった案2に雰囲気や各設定等要素を引き継ぎつつ眠らせておいたブツ

    原稿案1(ででうさ森時代)弟子が死んだ。 
    無慈悲にも獣に喰われてしまった。
    いや、正確にその生を終わらせたのは彼の師であるガドだ。
    まだ男だとわかったばかりの、森の若木の様に細くしなやかで、折れそうなほど成育しきっていない身体。
    あちこちを食い散らかされてもなお辛うじて生きていた。か細い息を喉から鳴らしながら苦痛に耐える顔が今も忘れられなかった。その苦しみを少しでも早く終わらせてやりたくて、師であるガドの手で、その小さな胸に刃を突き立てた。
    そして、弟子のミダ・ディト=ジルダは終わりを迎えた。

    一族が護る森の奥の奥、その地にある古い儀礼用の神殿にミダの遺体は運び出された。
    壁に蔦の這う古い石造りの広間を、蝋燭の光と天井に開けられた穴から差し込む光が照らし出す。
    広さで言えば十数人ほど入るだろう広間の奥には、石を積み重ねて出来た祭壇があった。それを囲うように組まれた木の枠の中にミダの遺体は安置されていた。
    獣に喰われた時に身体より流れ出て、身体にこびりついていた血は水で綺麗に洗い流され、牙や爪、そして刃によって出来た傷は麻を紡いだ糸で出来る限り縫合されていた。そして、獣の皮で出来た外套と、獣の爪や色とりどりの石で出来た装飾品を見に纏わされている。
    何種類の香草を燻した匂いが辺りを満たす中、ミダの師であったガドは、ミダが生前に自分で作って使っていた小刀を握り、人の頭ほどある木片を削っていた。相当な時間を削っていたのであろう、木片は既に角の生えた獣のような形と成している。
     ミダの遺体を運び出し、こうしているのには意味がある。森に生まれ、森で死んだミダの身体を森へと再び返す必要があった。森とそこに生きている精霊にその意を伝える為の儀式、ヒトの理に例えれば弔いと呼ばれるものであった。
    森に生きた雄であれば、その魂を己が属する二極のどちらか、ミダの場合は天を意味するディトであるため天へと還す必要がこの森ではあった。森より頂いた身体を一度焼き、宿っていた魂を煙と共に天へと昇らせなければならない。その為には、肉体が燃えて灰になり、魂が天へと上り切るまでに火を絶やさず燃やし続け見届ける火守と呼ばれる役が必要だった。ガドが掘り続けている木片は、その儀式で火守が精霊の姿や意識を模すための道具として使う仮面だ。
    やがて、その仮面を掘り終えたガドが己の指の皮を噛む。破けて血が滲んでいる指を仮面に押し付けながら瞼にあたる部分に血で模様を付けた。更に瞼の端から頬にかけて一筋の模様を入れる。それはまるで涙のように見えた。
    「準備は出来たのか」
    「ああ」
    出来た仮面に紐を括り付け、額に被った所で背後から声がした。ガドが振り向くと彼と同じヴィエラの男がひとり、拾い集めた木の枝を抱えて立っていた。ガドは男に返事をすると、「おそらくこれで足りるだろう」と木の枝をがらがらと床に置いた。
    「すまないな、ノル。手伝ってもらって」
    「いや、いい。それに、ミダを喰っていた獣を狩ったのは俺であるし、その事をお前に教えたからには、関わった者として俺もこの儀を見届ける義務がある」
    ノルと呼ばれた男は眉一つ動かさず淡々と返事をした。ノルが言った通り、彼はミダが襲われ、ガドの手で命を落とすまで側にいた森の守護者の男の一人だった。どこまでも冷徹な態度をとる所はあるが、人格まで酷ではない。ミダを失った喪失感を必死にこらえているガドにとって、義務だとしてもこの場に居てくれることがありがたかった。
    そして、立ち上がったガドはミダが寝かされている祭壇へと近づいた。先ほどまで使っていたミダ自身の小刀を、天に還る彼の魂の護衛とするためにミダの胸に置こうとした所で手が止まる。
    ミダが死んだことは天命と言われればそうであろう。森では珍しくない、よくある出来事だ。だが、独り立ちするその時まで育ててやれなかった、守ってやれなかったという後悔が、ミダに突き刺した刀のようにガドの心に深く刺さっていた。振り切ったつもりであったが、ガド個人の感情を理屈だけで抑え込めるほど彼の心は単純には出来ていなかったらしい。これまでも、そしてこれからもどうしたらいいのか、わかるまでにもう少し時間がかかりそうであった。
    「すまない、ミダ。俺の我儘だが、こいつをもう少し借りてもいいか?代わりに俺のヤツを渡すからよ。それは返さなくていいからな」
    ガドはそう言って自分の腰に固定していた小刀を鞘ごと抜くと、ミダの胸にそれを置いた。ミダからの返事はもちろん無い。答えがわかるまで、ミダと一緒にいるように、戒めとして側に置いておきたいガドのただの我儘だった。
    そして、頭に被っていた仮面の淵に手をかける。
    この仮面を下ろしたら時より、火守としての役目が始まる。死者の魂が天へと上り、その身体が炎によって灰になるまで薪をくべ続け、時には燃える身体の肉を裂き、骨を砕かなければならない。
    そして全てが終わるその時まで、明確な声を持たないこの森の精霊たちの様に声を出してはならないのだ。
    「いつか返しにくるから。それまで、じゃあな」
    物言わぬミダへ最後の言葉をかけ、ガドは頭に被っていた仮面を静かに顔面へと下ろした。

    ガドがミダを失った事はすぐに森中に広がった。
    それもそのはず、誰かが神殿を使った跡があった事と、彼ら師弟が護っていた領域とは別の領域にも聞こえる程に賑やかで声の大きい師と反抗し逃げ回る弟子の騒がしい叫び声がぴたりと止んだのだ。
    当初は情を入れがちなガドの性格を知る同胞らからは彼に同情する声が多少あった様子だったが、広がった噂と一緒にすぐに忘れ去られていった。
    弟子を亡くすこと自体、一族の生活の中では別に珍しい事ではないのだ。日常と言っても過言ではない程にありふれた事象だ。それだけの事であるならば、森にとって何ら困ったことではなかった。森を護り、新たに生まれた男子を弟子に取る。その生活を続けていけばいい。
    だが困った事に、ガドはミダの弔い以降、同じ雄の同胞らの前はおろか、里にもまともに姿を現さなくなった。
    雄の前だけなら多少の協力をする事はあるとしても、本来孤独に生きていくものであるため関わる必要はあまりない。しかし、里に立ち寄らないという事は、里を介して行われる新たに命を生むための生殖の儀や、弟子となる男児の引き受けなどの男としての役割の一つを実質放棄したのも同然であった。同胞らからは掟破りだとして捉えて処する声も上がった程だ。
    その最中、守護者の一人がほんの僅かな間ガドと邂逅した。以前の彼であれば大振りに挨拶を返してきたはずの様子とはうって変わって何も言わず、憂い気な表情で守護者を見てすぐに何処かに去っていってしまったという。まるで喪に服し続けているようだった、と里長に報告した守護者が言っていた。
    森での当たり前の事象を割り切れず、里に近寄らない事は同胞らの掟としては重罪である。
    しかし、森が、精霊らが、ヒトとしての掟を破ったとしても彼の存在を許し、そこに生き長らえさせているとしたら?
    精霊らが声を発せず、見守る事に徹しているこの森で生きている事は、精霊に存在を許されていると同義である。ヒトの掟破りであったとしても、この森の存在そのものである精霊の意思として彼を放任させるしかなかった。
    そうして10回ほどの冬季が過ぎた頃、ガドがふらりと里に戻ってきた。
    自身が起こした事の重大さに対して「すまねぇな」と少し申し訳なさそうでありながらも、以前からよく知られているゆるみきった顔で里長に報告していたという。その様子に呆れかえった里長からしこたま言われたそうだが、すぐに「まだやる事がひとつある」と制止を求める声も聴かずにそそくさと里を後にしてしまった。
    その直後、偶然ノルが里に戻ってきた。少し怒った様子の里長からガドが戻ったという話を聞き、彼を追うために里を飛び出した。
    ノルの記憶の中で、ガドが「まだやる事」があって行く所への心当たりが確かにあったのだ。
    「やはり、ここに居たか」
    予想通りだった。10年前のあの時、ガドがミダを弔った神殿に彼は居た。あの頃と同じ場所で今は何もない祭壇の前に膝を折って、静かに祈りを捧げていたガドにノルは背後から声を掛けた。集中しすぎてノルの足音が聞こえなかったのか、誰かが追ってくることを想像していなかったのだろうか。突然の事に肩をびくりと震わせた後、驚いた表情でそろりとガドはノルの居る背後を見た。
    「あ・・・あぁ、ノルか?久しぶりだな。」
    「久しぶりって・・・。」
    呆れるノルの声とその主がノルであると確認したガドは、安堵し立ち上がってにかっと笑う。ノルもよく見知ったガドの気の抜けた笑顔だった。髭やら髪は必要最低限の整容しかしていない程度に伸びていたが、容姿そのものはヴィエラ族がそうであるように殆ど変わっていない。他に何かあるとすれば、その手には小さな小刀が握られている。
    「それは・・・」
    「あぁ、やっと返しに来たんだ。」
    ノルの視線に気が付きどうするのかをガドは答えた。あの時、一緒に還そうとしてそれを躊躇ったミダの小刀だった。
    「俺が強くなるまで、少しの間だけ借りようと思っていたはずだったんだが・・・まだだ、まだだと思っていたらいつの間にかアイツがひとり立ちするくらいまで経っちまってた。」
    ガドは小刀をじっと見つめながら、それを握った手にぐっと力を籠める。
    「それで最近やっと気が付いたんだ。いくら腕っぷしがよくなっても、そのまま籠ってたら、次を守ってやれないって」
    ガドが10年抱えてたどり着いた自分自身への答えを吐き出し、小さく「恥ずかしいよな」とつぶやいた後、身体を祭壇の方へと翻した。そのままゆっくりと歩いてゆき、祭壇の奥の、遺灰を流す水路の前に立ち止まり身を屈ませる。
    「悔やむのも、強くなろうとするのも一緒に抱えて進まなきゃいけないんだなって。だから俺のケジメとして、いや、借りたものだからヒトとしてちゃんと返さなきゃな。ゴメン。そして、ありがとう、ミダ。」
    微かに震えていたが優しく語り掛けるような声でガドは言った。言い終えた後に、少し目を閉じて手にした小刀を額へと近づけて黙祷したあと、小刀を握っていた手をゆっくりと開く。手のひらからするりと落ちた小刀は水路を流れる水にちゃぽと音を立てて落ちた。そしてゆっくりと流れてゆき、やがてガドの目には見えなくなった。地へと還るまで時間はかかるとしても、その小刀もいずれは分解されミダと同じこの森に還っていくのだ。
    「よし!待たせてすまねぇな、ノル!里に帰るか!!」
    つい先ほどまで、ミダへの最後の弔いをしていたとは思えないほど切り替えが早い、遺跡中に声が響き渡るような大きくカラッとした声でノルに呼びかけながら勢いよくガドは立ち上がった。ずかずかとノルに向かって歩いてきたガドは、その腕を大きく広げた後ノルの肩に乗せる。
    「お前、里に帰るって軽く言っているが、掟を破っているのを忘れるなよ?皆、相当怒っていたからな」
    「まぁ、それはええと・・・」
    逃げようもなくまぎれもない事実をノルに言い当てられてしまう。ガドはばつが悪そうに視線を天へと逸らした。
    「居なかった分、働いてもらうからな。女達も待っているし、丁度男子だと判った子もいるらしい。お前が役割を果たすことが、望み通りあいつへの弔いにもなるだろう」
    「そうだな・・・」
    ノルはガドの方を見ることはしなかったものの、よく知る同胞が戻ってきたことに小さく微笑みながらノルはガドに里の事を伝えた。10年分の務めを一瞬でという事は現実的ではない話ではあるが、ガドが出した答えを叶えるものとして十分であった。
    そして、わずかな時間を生きた小さな命への最後の弔いを終えたヴィエラの男二人は、これからも命を繋ぎ、守っていく森の中へと戻っていった。
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