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    はなの梅煮

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    はなの梅煮

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    初のo天ワンドロ・ワンライ開催おめでとうございます🙌✨
    ワンライに参加するのが初めてなので、「これで大丈夫なのか…?」と不安な部分もありますが、なんとか時間内に形にできました。

    お題「残暑」
    毎度ながら、縁側で酒を飲み交わす業殿と道くんの話です。

    8/25 ワンライ お題「残暑」「道真……って、おい」
     業平は御簾を上げ、嘆息をついた。
    「あー……久しぶりですね。半月ぶりでしたか」
    「そうだな、半月ぶりだ。だというのに、なんだその体たらくは……」
     足を踏み入れながら、持っていた笏で京紫の布に包まれた頭を軽く叩く。
     無理もないだろう。半月ぶりに出会ったというのに、道真は文机に突っ伏して目線だけを業平に向けるという態度。歳も身分も上の業平に対して。
    「……仕方がないでしょう。こんなに暑いんですから」
    「あぁ、確かに暑い」
     業平は頷く。確かにこの頃はずっと暑い。夏も終わりに近づいているというのに、身体に纏わりつくような熱が京全体を覆っている。
     衣の下でじんわりと汗をかいている。それは前に座る道真もそうだろう。道真の頬には汗の粒がある。
    「暑いだけじゃなくて、こうもじめじめとしていたら何もする気になりません」
    「だから書を読んでいないのか。珍しいこともあるものだと思っていた」
    「腕に紙や木簡がひっつくのもの不快ですしね」
     道真は言いながらようやく身体を起こす。そして、ようやく身体ごと業平に向き直った。
    「で?こんな暑くてじめじめした夜に、あなたは何の用事があってうちに?また面倒ごとじゃないですよね?」
    「面倒ごとなら日中に来るさ」
     業平は立ったまま、道真に笑いかける。
    「でしたら何故」
    「お前と庭でも見ながら飲もうかと」
    「……私が『いいですよ』と言うと思いましたか?こんなに暑いのに」
     道真の眉が寄せられ、目は鋭くなる。
    「お前は暑くなくても嫌だと言うだろう」
    「まぁ、そうですね」
    「形式的に確認はしたが、実際のところお前の返事は聞いていない。是善殿には許可を得ているからな」
    「はぁ!?」
    「よし、私の邸に行くぞ」
    「えっ、今から!?しかもうちじゃないんですか!?」
    「いつ菅家で、と言った?」
    「あぁもう!あなたって本当に卑怯な大人ですね!」
     業平はからからと笑いながら喚く道真の腕を掴み、半ば無理矢理立ち上がらせる。そして、白梅に「道真を借りていく」と言い残し、乗ってきた牛車に未だ納得していない様子の道真を押し込んだ。


     ☽ 

     
     ところ変わって縁側。在原邸の縁側だ。庭が一望できる縁側に座り、業平と道真は赤みがかった半月を眺めていた。
    「…………暑い」
    「言うな。もっと暑くなる」
    「では、この暑さをどうしかしてください」
    「お前の頭も暑さでおかしくなったか。無理に決まっているだろう」
     業平は呆れながら隣に座る道真を横目で見る。
     道真の首筋に汗が滲んでいる。目はぼんやりとしているし、どうやら本当に暑さにやられているらしい。こんな馬鹿げたことを言い出すくらいに。
    「言ってみただけですよ」
    「ほう、珍しい。長谷雄のようだな」
    「長谷雄と一緒にしないでください」
     道真は手の甲で首筋の汗を拭う。今日、何度も見た光景だ。
    「あー、もう暑い……。やっぱり家に居た方が良かった気がします」
    「だが、もう終わる」
    「……何がです」
    「夏が、だ」
     業平は怪訝そうにこちらを見る道真を見て笑う。そして、持っていた盃を一度傾けた。視線を上げる。冬の時に比べて、月の位置がやや低い。けれど、日を重ねていくうちに、また月は高い位置に登るのだろう。
    「夏が過ぎれば秋が来て、冬になる。日々が過ぎるのはあっという間だ」
     口を酒で潤し、道真を見る。
    「お前はどのようになるのだろうな」
    「……何の話ですか」
    「お前は世を変える者になるのだろうか、と」
    「私は政には関わりたくないと言っているでしょう」
     嫌悪を隠しもせずに吐き捨てる道真に業平は、そうであったなと笑う。
     そうだった。道真は政を毛嫌いしている。けれど、道真は若竹のように真っ直ぐで、呆れるほどに清く、聡く、機転がきく。
     これから道真が学だけでなく、世を知って。権力を求めてばかりの内裏を疎み、正そうと政へと足を踏み入れたとしたら。
     ――どのような世になるだろうか。
     その日まで、夏は何度くるだろうか。こうして酒を飲み交わすことが何度できるだろうか。
     そう思ったところで、一人自嘲する。そもそも、道真が内裏に上がってくると決まった訳ではないか、と。現に本人は嫌だと言っている。けれど、どうしても、「もしも――」と考えてしまうのだ。
     道真がこれからどんな道を選ぶのかは分からない。けれど、本人が決めた道ならばどれも真となるだろう。それを傍で見ていたいと思う。そのためにも――。
    「長生きせねばならぬな」
    「……何を思っているかは知りませんが、まぁほどほどに頑張ってください」
    「お前は本当に生意気な奴だな」
     業平は笑いながら盃を床に置き、ごろりと身体を横に倒す。顔を上げると、月がある。道真が背負っていた。初めて出会った時のように。
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