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    はなの梅煮

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    はなの梅煮

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    お題「髪」+15分
    道とノブちゃんの話です。
    この時代にそんな髪型せんやろとか、ノブちゃんほとんど喋ってないやないかとかあるんですが、受け流してください…

    9/25 ワンライ お題「髪」「帰っていいですか」
    「良いわけないでしょう。少しは業平様をみならってはいかがです」
    「……業平殿の何を見習えと」
    「女人の姿を見て、綺麗だと誉めてあげるところとかですよ」
    「業平殿はその言葉を数えきれないほど誰にでも言ってますよ。ただのお世辞です」
    「お世辞でもいいんですよ。道真様、あと少しで終わるようですから、宣来子様のお姿、見てさしあげてくださいな」
     そう言って昭姫は背を向けて店の中へと入って行った。道真は店の外、入り口でその背を見送る。
     昭姫の姿が見えなくなったあと、道真は腕を組み、溜息をつく。どうしてこんなことになってしまったのか、と。

     遡ること四半刻前。
     道真は業平が持ち込んできた厄介ごとのことで、昭姫の店を訪れた。そこで待っていたのが、店の女人たちに髪を梳いてもらっている許嫁の宣来子と白梅だったのだ。
     確かに白梅には宣来子のところへ遣いに出してはいた。共に居ることは別段おかしいことではない。だが、ここへ居るとは思わないだろう。
     全く予想していなかった人物に、道真が何故ここにいるのかと宣来子に詰め寄るより先に、昭姫が道真と宣来子の間に割り入った。それからは「道真様を驚かせたいとおっしゃるので、まずお髪を変えてみようかと」「今見たら楽しみがなくなります」「外で待っていてくださいな」と口々に店の者たちに言われるだけでなく、無理矢理外へと追い出されて、今に至る。
     壁に背中を預け、空を見上げる。
     雲が高い。夏が過ぎ、雲の形も変わったように思える。
     そういえば、道真は昭姫に宣来子を紹介したことなどない。何故、昭姫が宣来子のことを知っているのか。店の者たちの様子からして、道真と宣来子の関係は確実に知っている。
     上を見ていた視線を横に向ける。そこには、あちこちに跳ねる髪をへなりと下げるような勢いで落ち込んでいる自分の女官。
    「白梅……」
    「も、申し訳ありません!これには色々と理由がありまして!」
    「……いいですよ。どうせ宣来子が無茶を言って白梅を連れ回したのでしょう。皆の様子からして、一回二回ではなさそうですね。すみません、手間をとらせました」
    「いや、あの、そんな……!」
     白梅は胸の前に両手を上げ、頭を横に振る。
    「いえ、白梅には感謝しています」
    「と、とんでもございません!私も宣来子様と過ごさせていただけて、とても楽しいです」
    「……そうですか」
     宣来子は白梅のことを気に入っている様子であるし、自分の知らないところで色々と連れ回しているのかもしれない。自分の代わりに宣来子の相手をしてくれる白梅をありがたく思うが、申し訳なくも思う。宣来子は一筋縄ではいかないだろうから。
     しかし、だ。
     ――こんな面倒なことになるなら来るんじゃなかった……。
     そう後悔し始めた時、後ろから「道真様」と声がかかった。どうやら終わったらしい。
     昭姫の後ろに付いて中へと入ると、店の者に左右挟まれて立っている宣来子がいた。いつもは腰まで垂れている髪の毛を一つにまとめ、頭頂部で玉のように纏めあげられている。
     腰に手を当てて、したり顔で笑う宣来子の姿は何故か偉そうだ。
    「涼しそうですね」
    「みっ道真様!違いますよ!」
     思った通りのことを言ったら、後ろに控えていた白梅が焦ったように言った。
    「違うって何が……」
    「そういうことではないんです!こんなに可愛らしいのに!」
    「かわ……?」
     もう一度の宣来子を見る。いつもと違う姿は珍しくはあるが、髪型に可愛いと言うのは違う気がする。そもそも可愛いとは一体どのようなことをいうのだろうか。
     そう思ったところで気づく。こんなことが前にもあったことを思い出したのだ。宣来子がべたべたと濃い唐の化粧やらなんやらをして菅家に居た時だ。
     なるほど、と一人頷く。どうやらあれは昭姫たちの仕業だったらしい。 
    「たまには良いんじゃないんですか」
     前回のような派手な化粧がないのならば、特に文句はない。
     道真は一つ溜息をつくと、くるりと踵を返す。 
    「宣来子、帰りますよ。島田の家まで送りますから。また何処かをふらふらされたら私が忠臣に怒られます」
    「これは道真の好みではないの」
     不満そうな顔をしながらも傍へと歩いてきた宣来子が見上げてくる。
    「派手な化粧よりかはいいんじゃないですか」
    「あらそう」
    「行きますよ、白梅」
    「あっ、はい!」
     宣来子と白梅を連れて外へと出る。
     くるりと後ろを振り返ると、いつも風に靡かれる髪がない。頭頂部でまん丸と居座っている。
     こういう姿は悪くないかもしれないと思った。

     

      
     
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