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    はなの梅煮

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    はなの梅煮

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    お題「衣替え」「ハロウィン」
    ※+30分、現パロ
    出掛ける前に衣替えするとか言って逆に服を散らかしているハセヲと道くんと業殿の話

    10/25 ワンライ お題「衣替え」「ハロウィン」「で?長谷雄はまだ家にいるのか」
    「はい。約束の時間に間に合わないかもしれないから、家で待っていてほしいそうですよ」
     休日の昼。業平は道真に連れられ二階建てのアパートの階段を登っていた。
    「何をやってるんだ、あいつは。せっかくアウトレットモールに連れて行ってやろうと声をかけたというのに」
    「だからでしょう。あいつ、朝から衣替えをしてるんですよ。新しい服を買うつもりなんでしょうね。というか、業平さんがアウトレットモールって……。意外です」
    「普段は行かないが新しくできたようだからな。興味がある」
    「へぇ」
     道真は興味のなさそうな気の抜けた返事をしながら辿り着いた玄関の鍵を開ける。
    「お前のことだから午前中、自分の部屋で本でも読んでたんだろう。長谷雄の衣替えを手伝ってやれば良かっただろうに」
    「何で僕が。確かに読書はしていましたが、暇じゃないんで」
     道真と長谷雄はルームシェアをしている。リビングは共同だが、それぞれ個室がある。家事は分担しているようだが、今回の衣替えは確かに自分で済ませるべきだろう。
     玄関の扉を開けてすぐの直線に走る廊下を進み、右手側にある二つ目の扉の前で止まると扉をノックする。
    「長谷雄。業平さん、連れて来ましたよ。衣替えは終わりましたか?」
     道真が声をかけると、どうぞ〜と扉の奥から籠った声が返ってきた。
     扉を開けて中を見た瞬間、示し合わせた訳ではないが、道真と同時に顔を顰めてしまった。
    「……どういう状況だ、これは」
    「さっきより酷くなってるじゃないですか」
     そこには重なりあいながら乱雑に置かれた大量の衣類の中心で何故か笑っている長谷雄がいた。
     クローゼットやタンスの引き出しが全て開いているため、そこに入っていた衣類なのだろうが、それにしても量が多い。放り投げられた服で床が見えない。よくこれらが全て収まっていたな、と感心するくらいだ。
    「いや〜そうなんですよね。衣替えを機にもう着ない服は捨ててしまおうと思って持っている服を全部出したらこうなっちゃってぇ」
    「はぁ……まぁ、なんか長谷雄らしいというか……」
    「で?着ない服は捨てることにして?その捨てる服はこの中のどこにあるんですか」 
    「そう!そこが問題なんです!もしかしたらまた着るかもしれないと思うと、どれも捨てられない……っ!」
     長谷雄は泣き叫ぶように言うと、自分の周りを囲む積まれたくしゃくしゃになった服たちを勢いよく抱き込む。そして、悲劇のヒロインのようにおいおいと泣く振りをするも、業平と道真からの反応がないことを横目で確認すると、すんっと表情を消した。そして、媚を売るように首を傾げて数度瞬きをして、業平と道真を見上げた。
    「ということで、衣替え手伝ってくれません?」
    「嫌です」
     食い気味の拒否の言葉と共に即座に踵を返した道真の腕を業平は掴んで引き止める。
    「待て待て待て待て。手伝ってやってもいいんじゃないか?このあと出掛けるんだろう。長谷雄がこんなだったらいつまで経っても出掛けられない」
     長谷雄の自業自得なところはあるが、手伝ってやればすぐに出掛けることができる。だからここで待っている方が時間が勿体無い、と思ってのことだったが、道真は薄情だった。
    「じゃあ長谷雄は置いて行けばいい」
    「酷い!」
    「そう言うな。大変そうじゃないか。良いだろう?」
    「そうですよ!お願いします!ね!?」
     宥める業平と足元に縋り付く長谷雄に、道真は少し考え込む様子を見せたあと、これ見よがしに大きなため息をつく。そして、乱雑に服を除け、服に埋まる長谷雄の横に腰を下ろした。
    「今回だけですからね。次の衣替えは自分でやってください」
     その言葉に長谷雄と業平は密かに顔を見合わせて笑った。



     ❇︎



     
    「この服なんてこの夏一回も着てないでしょう。見たことない。このシーズンで一度も着なかったら今後も着ませんよ。はい、これ処分」
     長谷雄は端へとのけようとする道真の手からシャツを取り返す。
    「ダメー!それはダメです!だってそれ高かったけど奮発して買ったやつなんです!」
    「じゃあこっちはどうだ?皺が残っているし、当分着てなかったんじゃないか?」
     今度は業平が言いながら紺色で無地のTシャツを手に伸ばすと、それより前に長谷雄は奪うようにTシャツを胸に抱く。
    「それはこの服に合わせたら良い感じになるかもしれないのでまだ着ます!」
    「……この襟がよれたやつは」
    「それはこの夏着なかったですけど、気に入ってるので!」
     道真が指を差した服は、長谷雄の手によって再びタンスの中へと戻っていく。
    「じゃあ僕たちはこれで」
    「できることはないようだから」
     埒が開かないやりとりに、早急に見切りをつけて二人揃って立ち上がった。流石に付き合いきれない。
    「えぇええ!?」
    「百歩譲ってあと三十分だけリビングでお前の衣替えが終わるのを待ってあげます。それでも終わらなかったら本当に置いていきますから」
    「まぁ、頑張れ」
     道真はビシッとしょげた顔をした長谷雄を指差し、業平は手をヒラヒラと振りながらそう言い残して扉を開け、閉めた。そんなぁ!という情けない声がしたが、きっと気のせいだろう。


     ❇︎

     
    「三十分過ぎたな……」
     リビングのソファに並んで座り、それぞれスマホや本を読んでいて過ごしていた。
     業平がふとネットニュースを見ている視線をスマホの左上に映した時、長谷雄を放置してから三十分を少し過ぎたことに気づき、呟いた。けれど、相変わらず長谷雄は衣替えらしきことをしているようで、リビングには一度も来ていなかった。
     パタンと道真が読んでいた本を閉じる。
    「じゃあ置いていきましょうか」
    「こら、ちゃんと声をかけてやれ」
    「あいつの自業自得でしょう」
    「お前な……」
     長谷雄に対してもう少し優しさを、と思うのだが、これが道真と長谷雄二人の心地よい距離感なのだろう。正反対の二人だというのに、この二人は高校生の頃から成人している今の今までずっと一緒にいる。隣にいるのが当たり前のように。そういう関係が眩しく、羨ましいと思った時、ガチャッと背後のリビングのドアノブが鳴った。
    「お、ようやく終わったか?」
    「遅い」
     二人で振り返ると同時に扉が勢いよく開いた。
    「トリックオアトリート!!」
     そう満面の笑みで叫んだ長谷雄は、天井にぶさらがる蝙蝠のように黒のコートに包まれるような姿。
     軽い頭痛がした。 
    「………………長谷雄」
    「お前、その格好は一体なんだ……」
    「このコート、なんだか吸血鬼の仮装に使えそうだなって!もうすぐハロウィンでしょう?」
     満面の笑みでその場でくるりと一周した長谷雄のコートの裾が美しく靡く。けれど、その美しさに惹かれるということは全くといってなかった。
    「僕たち出かけますね」
    「じゃあそういうことで。何かチョコでも買ってきてやるから」
    「冗談ですって!ちゃんと衣替え終わりました!僕も一緒に行きます!連れてってください!!」
     二人揃って出掛ける準備を始めた姿に、長谷雄は焦ったように勢いよくコートを脱ぎ捨てたかと思うと、ぶつかるようにして業平の右腕と道真の左腕を抱き込んだ。
     思いの外、強い力にバランスを崩しそうになるが、ぶつかってきた張本人である背後の長谷雄を振り返ると弾けるような笑みがあった。
    「早く行きましょう、僕、楽しみにしてたんです」
     にっと歯を見せて屈託なく笑う長谷雄の顔に苛立っていた気持ちが薄れていく。こういうところが長谷雄の憎めないところだと思う。それはきっと道真も同じなのだろう。呆れた顔をしているが、口元は小さく弧を描いていた。
    「よし、じゃあ出掛けるか」
    「やったー!服買って、晩御飯も食べて、それから――」
    「買うもの買ったらすぐ帰りますよ。長居はしたくない」
     相変わらずの対照的な二人の反応に業平は声を立てて笑い、車のキーを持つ。
     半分以上は過ぎてしまったが、良い一日になりそうだ。
     
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