ヴォックスは長い時間を生きてきた長命種であった。
どこからやってきたのかも分からない、どんな生き物かも分からない。人の心にするりと入り込み、絆て、懐柔する声だけが彼を彼たらしめるものだった。いわずがな彼は人ではなく、彼の声に宿る魔性を垣間見た者は皆口を揃えて【声の悪魔】と呼び畏怖した。
そんな彼にも昔は家族とも呼べる五百二十二人の仲間たちがいた。お互いを必要としあい良い関係を築けていたと思う。しかし激しい戦火渦巻く日ノ本の、時代の荒波に揉まれ全てを失った。
…
強く拒絶するかと思われたがヴォックスは周りが思うより、素直にミスタの死を受け入れたように見えた。
そうしてミスタが色も温度もない肉塊になって棺に納められた時、ヴォックスは彼の家族と彼に関わる人達にどうしても喪主を務めさせて欲しいと頼んだ。
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