キスばっかりしてる銃独部屋に響くのは断続的に続く、ちゅっ、と鳴る音だった。
首や鎖骨の辺りに吸い付いてくる唇がキスマークをつけるときの音が寝室のベッドの上でする行為を彷彿とさせて、体が火照りそうになるのを我慢できなくなるのも時間の問題だと思った。少しだけ水気を帯びたその音が何度も鳴るのを聞いていると頭がぼーっとしてなにも考えられなくなる。
小さく漏れる声にはっきりとした欲が乗っているのを、目の前の彼はおそらくわかっているのだろう。嬉しそうにあがった口角がそれを証明していて、どうにかなりそうだった。
「は……ぁ、んっ」
でも、それでも。確かにこれはこれで気持ちいいのだけれど、俺はやっぱりそれよりもしてほしいことがあって、少し余裕をもって離れていったその顔を見ながらそっとシャツの裾を引っ張った。
「あ、あの、痕、あんまりつけないでください……」
「あぁ、すみません。痕をつけると、なんだか自分のものなんだと主張できている気がして、嬉しいんです」
「……それは、わかります。あの、でも、俺、入間さんとキスがしたい、です……」
「貴方本当にキスが好きですね?まぁ、構いませんけど」
「ぁ……いるまさ、ん……っ、ふ」
唇が重なる直前にわざと口を開いて舌を迎え入れやすいようにする。ぬる、と侵入を果たしたそれが自身の舌を絡めとったかと思えばゆっくりと嬲るように触れてくるのが気持ち良すぎて、声にならない息の抜けたような音を漏らすしかなかった。離れていく唇を追いかけて整わない息でぼんやりと見つめていれば唇の端をぺろ、と舐める仕草がダイレクトに視界に飛び込んできて背筋がぞわぞわと震える。
さっきまでその赤く艶かしい舌が己の舌に触れていたかと思うとなんとも言えない感情が湧き上がってきて興奮を抑えることができなくなった。
「あんまり物欲しそうな顔をするものではありませんよ?でないと、私のような悪い奴につけこまれちゃいますからね」
「んんっ……ぁ、まって。まだ、無理だから……っん、んん……ふ、ぁ、あ、っ……?」
ぐい、と顎を持ち上げられて、またキスが再開される。今度は少し荒々しく口内を掻き回されて、合間で息をするのがやっとだった。飲みきれなかった唾液が顎を伝って喉に流れる。苦しくて、でも気持ち良くて仕方なくなって、もうほとんどされるがままになってしまう。
それが不思議と嫌じゃなくて、もっとしてほしいと思ったところで唇が離れていってしまった。最後に舌を吸われて、そこから入間さんの舌に繋がっていた銀糸がぷつりと切れる。
「ぁ?……っは、ぅ……」
「キスだけで、もうとろとろじゃないですか」
はっきりとした言葉を紡ぐこともできない俺の惨状に軽く笑ったかと思うとそのままベッドに仰向けになるように倒されて、力の入らない俺の体は容易くそこに沈んだ。肩で息をする俺の顔のすぐ近くに手を置いたことでベッドが少し軋む。軽く体重をかけられて、うまく身動きがとれなくなった。
「ねぇ、これからどうしてほしいですか?」
「ぅ、ん?……どう、って……」
「今日は疲れてるだろうからって、これでも我慢してるんですよ?あんまり無防備だと、襲っちゃいますけど」
入間さんの言いたいことを理解すると同時に、今もまだ気遣われているのだとわかる。いつも強引なのに、こういうときだけ妙に優しいのはずるい。もっと我慢しないで、入間さんがしたいようにしてくれたっていいのに。この人にされることなら、なんでも受け入れてあげたいのに。
「いい、です……俺、入間さんになら、なにされたって嬉しい、から……っ、ほしい……!」
「っくそ……貴方って人はほんと、ずるい人ですね……っ」
ぐっ、と距離が縮まってまた唇を塞がれた。繰り返される啄むような口付けに翻弄されてだんだんと息があがり、やっと絡められた舌が触れ合う感触が気持ちいい。思わず両腕を首に回せば、一度唇を離してからまた口付けられて、今度は深く絡まる舌に喉をなぞる指先が加わって気持ちよさが倍増した。
「は、ぁ……っ、」
「……っは、手加減してあげられそうにないので、覚悟しておいてくださいね」
「ん……いいです。もっと、ください……」
「後悔、しないでくださいね?」
このあとも長い間口付けを交わしていた気がするけれど、快楽の波に意識を攫われてからは思考がどろどろになってしまって、もう目の前のことにしか集中できなかった。最後に見たのは幸せそうに微笑む恋人の表情で、自分も胸にあたたかいものを感じながら眠りについたのだった。