2週間ぶりのキス寒空の下で待つ必要もなく、職場の近くに停められていた車に乗り込む。運転席に座っていた恋人である入間さんが「お疲れ様です」と労いの言葉をかけてくれた。今回は前回からそれほど日があくこともなく、二週間ほどで二人きりの時間を作ることができた。明日はお互い仕事も休みで、このまま入間さんのところに泊まる予定だ。
この前は食事に行って、二人で酒を飲みながらいろんなことを話した。その大半は愚痴だったが、それも楽しい時間だということには変わりはなかった。別れ際、シンジュクまで来てくれた入間さんが駅方面へ向かう前に、路地裏に繋がるようなひっそりとした場所で触れるだけのキスを交わしたことを思い出して、途端に恥ずかしくなる。
そんな悶々とした気持ちを少しでも落ち着けようとスマートに運転をする入間さんの横顔を盗み見て、その美しさに小さく息が漏れそうになった。夜の道に照らされた街頭の影が顔に当たる瞬間ですらも彼を際立たせているようにしか見えなくて、そのままそっと見つめ続ける。
「まだ少しかかるので、寝ていてもいいんですよ?」
「……え、あ、いえ。大丈夫、です」
「そうですか?まぁ、無理はしないでくださいね」
赤信号で停まったようで急に話しかけられて、思わず空返事をしてしまってから我に返る。正直、眠気は少しだけあるけれど、今はそれよりも入間さんを目に焼き付けておきたかった。やけに唇に目線が集まるのは前回のキスを思い出していたからか。
一ヶ月以上会えないことも、体を重ねないことだってよくあるのに、今はすごく、この人の唇が恋しい。たった2週間程度でこんな風になるなんて思いもしなかった。再び前を向いた入間さんをさっきと同じように静かに見つめていたら、いつの間にか彼のマンションの駐車場に到着していた。
あれから、信号に引っかかることはなくとてもスムーズにここまでこれて、やっと彼の部屋で、彼と二人きりの時間を過ごせる。そう思うとふわふわと幸福な気分に包まれる。
しかし、いつもなら先に車から降りるはずの入間さんがシートベルトを外してすぐに俺の方へ顔を体ごと向けた。こちらを見つめる瞳が熱を孕んでいて、胸が高鳴った。
「あの、入間さん……?」
「さきほどからずっと見つめられていて、穴があきそうでしたよ」
「っ……き、づいて……」
車の運転中、ずっと見つめていたことが気づかれていたことに驚いたが、入間さんからは嫌そうな様子は見受けられない。それどころか嬉しそうに微笑むものだから、期待してしまうのは仕方のないことなんじゃないかと思う。
「あんなに熱い視線を向けられていて、わからないわけがないでしょう?」
「あ、あの。なんだか今日はすごく、入間さんに触れたくて……へ、変ですよね。まだ2週間しか経っていないのに、俺、我慢、できなくて……っ」
いつの間にか手袋が外されていて、言葉に詰まる俺の頬を彼が素手で撫でていく。それに小さく体を揺らせば微かに聞こえる、思わず漏れたような笑い声。その手に頬を擦り寄せて目を閉じると、その熱がじわじわと俺を蕩けさせていく。
「大丈夫ですよ。私も、観音坂さん。貴方に触れたい」
「……ん、うん。キス、したい」
はい、と耳に届いた入間さんの声は、砂糖菓子をさらに甘く煮込んだような甘美な響きで、そのすぐあとに唇に触れた柔らかい感触もまた、とてつもなく優しく、甘い味がした。たった2週間ぶりのキスはこれだけでは足りなくて、彼の寝室で何度も何度も離れていた時間を埋めるように唇を触れ合わせることになる。