10月19日銃独の日のキスネタ入間さんはキスが好きだ。と、思う。
だって、隙あらば顔を近づけてくるし、顎を掴んで無理矢理振り向かせてから唇を奪われることも何度かあった。啄むようなキスを何度も仕掛けてくるのなんて本当に数え切れないほどで、その度に俺はその行動に振り回されているのだ。
でも、近づいてくるときに目を瞑ってその際立った顔面の美の暴力みたいなご尊顔を拝むのは嫌いではない。だって、それを見られるのは俺だけの特典なのだから。
(あ……また、キスされる……)
近づいてくる顔に、今回は潔く諦めてそのまま受け入れようとゆっくりと目を閉じる。けれど、思っていた感触が訪れることはなく、そのかわりに髪を優しく撫でられたような感覚がして、おそるおそる片目だけを開けた。
そこに映っていたのは驚きに見開かれる両目で、瞬時に自分の失態を理解する。目の前の男の口から出た言葉は少しだけ戸惑いが乗っていて、けれどそれも喋っているうちに段々、笑いの含まれたものに変わっていく。
「いや、すみません。髪にゴミがついていたのでとりあえず取ったんですけど……えっと、もしかして、キスとか期待してました?」
「は、はぁ?!ちが……っ!だってそれは!」
その反応に、羞恥が身体中を巡って頭まで到達してしまって上手く言葉にならない。その間にも距離がどんどん縮まって逃げられなくなる。
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ。すみません、勘違いさせてしまったんですね」
「っだ……!だから、違うって言って……あんたの頻度が明らかに多いから、今回もそうだと思って……!っちょ、近づかないでください!」
じりじり近づいて、遂に密着してしまったと同時に腰を抱かれてしまい、もう背中を反ることくらいでしか抵抗することができなくなっていた。あぁもう、こういうときいつも強引なんだ、この男は!
「そう言わないで。……してあげますから、こっち向いてください」
「や、だめだって……こっち、こないで……っ、んぅ?!っ、ふぅ……っは、舌っ、入れな、っで……ん、むぅ……っは、ぁ?」
最初に軽く口付けられて、少し離されたかと思えばすぐにまた塞がれてその拍子に薄く開いた唇の隙間から舌を入れられてしまう。散々好きに口内を蹂躙したあと、小さなリップ音を立ててから離れていくのを眺めていれば、そのまま舌でぺろ、と自身の唇を舐めるのがダイレクトに目に入って背筋が震えた。
「ん……大丈夫ですか?無理をさせすぎましたかね?」
「っは、ぁ……っ!あんたほんと、いい性格してるよな……っ!」
「お褒めに預かり光栄です」
「ぜんっぜん褒めてないです……」
楽しそうに唇を歪めながらこちらの様子を窺う目は、まだこのあとに続くであろう行為を信じて疑わない目をしていた。まぁたしかに。久しぶりに会ったのだし、俺だってこのあとのことをまったく考えていないと言えば嘘になるけれど、それにしたって弄ばれている感じがして釈然としない。
抱かれていた腰に添えられた腕の片方はそのままに、これから足を向けようとしていた方へ方向転換をされて促されるままその一歩を踏み出す。密着した状態が心地いいやら恥ずかしいやらで、どうにかこうにか着いていくのがやっとだった。
「それにしても、さっきの貴方はとても愛らしかったですよ。目を瞑って震えているなんて、喰ってください、と言っているようなものでしょう?」
「うるさいです……もうそういうのいいですから、早く行きますよっ!」
抗議すると、なにがおもしろいのか声に出して笑う入間さんが歩く速度を速くする。
「ははっ!なんだかんだ貴方もノリノリなんじゃないですか。……なき疲れないでくださいね?」
「そっちも、へばらないでくださいよ」
売り言葉に買い言葉で目的地のホテルまで急ぎ足で歩く俺たちは、周りの人たちからすれば滑稽に見えただろう。それでも、俺たちにとってはこの距離感が心地よかったりするのだ。
これは朝までコースだろうな、なんて下世話なことを考えつつ、このあとのことを考えると気分が高揚する自分がいて、前を見据えた入間さんにバレないように口元に小さな笑みを浮かべた。