Devil of the Voice「何回言ったらわかるんだMysta!!」
家中に低い怒声が響いた。
「Vox?なんかすごい怒ってるね、彼。」
「多分あの二人でしょ。いつも通り手助けに行こう、Ike。」
聞いたことの無い怒声と罵声の嵐へ、ShuとIkeは飛び込んで行った。
「Daddyはしつこいよ!!ごめんって言ってるじゃん!!」
案の定、怒りの矛先はMystaに向けられていた。
「 …Shu、Ike!助けて!!」
泣きそうな顔をしてこっそり近づいてきたのはLucaだった。
「ah.Luca?ゆっくり説明できる?僕達よく分かってないから…」
落ち着かせるようにゆっくり、静かに説明を頼むと、小さく深呼吸をしたLucaは経緯を話し始めた。
①MystaがLucaといつものジョークでゲラゲラと笑って
②ティーカップを持ったVoxが傍を通り過ぎようとした。
③Mystaが『あ、聞いてよ、Daddy!またLucaが……』と袖を少し引いた。
④ティーカップが指先から滑り落ちて……
「ガシャンだ!」
手を大きく広げ、爆発したかのような素振りをする。Luca、君ほんとに困ってるんだよね?
だがこんな説明でも、第三者である2人が出した結論は等しくて。
「こーれは…Mystaくんだなぁ。」
「そうだねShu。Mysta、ファイト〜」
第三者として見届けることに決めた2人の目は、どこか遠くを見つめていた。
でもでも、とLucaは袖を引き話を続ける。
「オレも、悪いとこあったから『ごめん』って言ったんだけど…特に機嫌が悪かったらしくてさ。」
確かにVoxがここまで怒るのは珍しい。
何時もなら「……まぁ新しく買い直すか。次は無いからな。」と言って喧嘩が収束するのに。
激高の理由を探そうとShuが口論の仲裁に入ろうとした、ちょうどその時だった。
「あぁぁもう限界だ!!!Mysta!」
Voxの怒りは頂点に達したようで、声を荒立てていた。
そしてShuは気づいた。
彼の声に魔力が籠っていることに。
「Vox!言っちゃダメだ!」の言葉は手遅れで。
『Mysta、お前のその減らず口は、二度と聞きたくない!!糸で縫い付けてやりたいくらいだ!!』
途端。
「へー!それはこっちの…〜!〜〜〜?!」
突如出現した赤い糸が、ギザギザとMystaの口を縫い合わせ、ピッタリと閉ざしてしまった。
VoxAkuma。
その名が表すは『声の悪魔』という本性。
彼の声は万物を魅了し、一声『従え』と言えば生きとし生けるものは皆自然と頭を垂れる。
だがこれは彼が力を行使した時のみ。
普段は力を使わないと決めていた彼は、怒りのあまり自然と魔力を込めてしまった。
「Vox!オレとMystaが悪かったから、反省してるから!頼むからこの糸解いてくれ!」
Lucaは自らの非を必死に叫び訴えて。
「な、何これ?待ってMysta!暴れちゃダメだよ!」
Ikeは閉ざされた口に驚愕し暴れるMystaをとにかく宥めて。
Shuは自身の力を使って糸を解こうとするが、Voxの場合は呪いではなく唯の魔力。
力が及ぶはずもなくて。
Mystaは鼻から呼吸が出来ているようだが、混乱した彼なら強引に開こうとして流血しかねない。
「Vox!早く解いてあげて!」
Shuは呆然と立ちつくすVoxへ叫んだ。
「あ、あぁ、『糸よ。Mystaの口を今すぐ解け。』」
直ぐにMystaの口は自由を取り戻し、はぁはぁと息を整えた。
あぁ、良かったとLucaとIkeが胸を撫で下ろす。
一方でShuだけは、静かに肩を震わす男を見つめていた。
目は泳ぎ、身体は呼吸に合わせて歪み、2つの筋張った手で必死に口を抑えていたその男を。
その男の美しい瞳から涙が1滴頬を伝ったとき、悪魔は沈むようにとぷん、と影に溶けた。
俺は、自分の力で、仲間を、家族を傷つけてしまったのか。
自身の力の脅威に触れ、自らの家族を傷つけてしまった悪魔は、静かに嘆き苦しんだ。
「……嗚呼、この声が悪いのか。」
1つの結論を導き、苦笑すると古の友人に教わった『呪い』を発動させる。
鋭い爪を喉にまとわりつく紐に引っ掛け、呪文を唱える。
「汝҈̯͕̤͍̙̬̥̠͚̤̗̪̠͕͖̪̘̙̤̒͊̀̀͊͊̏̐̉͋̈̔̿̐͂̇̊̋͒̑ノ̴̘̩͎̜̘̯̣̱̤̠͓͖̠͍̫͙͕̎͋̍͐͒͐̇̎̊̋̀̿̈̐͂̅͋͒̀͆̅͛̄̾ͅ聲҈̳̬̝̠̰͈̖̱͍̱̙̖̗̭̘͇̲̠̈̒͋͊̅̈͋̄̽͐͆̿̍̄̅̚ͅͅ、҉̞̠̟̦̣̥̠̜̱̰͎̞͇̣̭̲̆̍͐̑̆̓̀̓̀͑̔̂̈́̍̐̆̐͒̄͊ͅ人҈̗͖͔̫͇͓̬̞̣͓̖̖͖̥͇̗͆́̎͆̀͒͂̃͂̈̔̋̚ノ̵͔̬̲̬̫͇͎͕͈̦̪̳͉̠͓͕̜͍͕̔̋͆͊̐̇̿̋̌̓͆̏̒͋͗為̷͖͇͔̪͕̳̞̳̙̟͔̟̪͕̘͓̀̒̂̂̄̀̄̿͊̔͂̏̉͐̌̓̒̅͊́不̴̰̣̭̟͚̜̭̦̥̞̖̋͑̋̊̌̈́͌̌̋̒̐̂̚ͅ成̶̰̬͍͕̬̤̰͖̱̬̝̳̩͍̐̾̓̽̒̀͗̅̇̓̋͂͑͋̇͌͒̈́。̵͍͉̥̗̝͕͍͎̯̱̤̃̀̃̒̿̌͐̓̃̆̍͊̾͒̄̔̔̍ͅͅ鎖̴͔̗̳̠̭̦̩̪͚͇̜̣̭͍̭͔̥̣̟̣̩̳̿͛̆̊̈́́́̍͌̿̽̎͛́͂͂̔̏纏҉̝͓̤̘̱̬͎̰̰̝̟̝̦͎̬̣̏̏̅̋͊̈́̑̎̉͌̍́、҈̩̘͖̖͕̗̰̲̭͙͉͔͇̫̯̣̩̭̘͇͚̫͗̾́̿̆̅̾͐̊̅̈́̿̽̉̈́̀̈́͑̃̅̍燃̶̙̫̙͇͖̘̲̲͓̙̫͔̥̫̝̐͊̐͐̃͂̉̀̀̆͐͋焦̷̣̩͚̠͓̮͓̦̞̳͓͓̗̥̟̰̳̦͔̰̩̆͐̎̇̄́̉̾̒͂͒̓̽̅̄̇͊̌̒̓̚。̴͚͓͓̦͇̞̰͚͕͙̖͚͉̖̣͓͍͔̂͆́͂̆̿̋̈́͒͗̄͊̉̅̀ͅ」
コンコン。
Voxの部屋の扉が叩かれる。
おじゃましまーす、と入って来たのはShuだった。
ベッドの上にあぐらをかき、項垂れた男の背後に立って軽い尋問が始まった。
「最近さ、自分の力ちゃんと制御できてないでしょ。」
「……」
沈黙は肯定だよ、とため息をつくと背中はひとつ頷く。
「……ねぇ!何とか言ったらどうなの?!」
Shuが痺れを切らして喋らない男の肩を掴み、顔を向けさせたとき。
「……えっ?」
男の喉にはいつも巻かれていた赤い紐がタトゥーのように刻まれ、Voxが口を開こうとする度に赤くぼんやりと光を点した。
Shuは古に見た模様を思い出す。
人の行動や言動を封じる縛術。
解呪するには術者が解くことが必須条件。
他者では呪いが伝播する可能性がある危険なものた。
「Vox……!君、自分自身に呪いをかけたな?!」
心配よりも、呪術師の目の前で「呪い」を扱ったことに怒りが隠せず、胸ぐらを掴んで引き寄せる。
ーーこれで、お前達を傷つけなくて済むんだ。
Voxの顔は、これでいいんだと言わんばかりに穏やかだった。