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    ma5taro_3

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    ma5taro_3

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    【tkri🌟🎈】付き合いたての🌟🎈がバイト帰りに🍜を食べる話。

    #司類
    TsukasaRui
    #SS

    🍜 ワンダーステージのキャスト更衣室にて。
     演出家兼役者を務める神代類は、ステージ衣装に着替えてメイクも済ませた状態で、ロッカーの前で棒立ちになっていた。お腹と背中がくっついてしまいそうだと感じるほど、腹が減っていた。

    (流石にお腹が空いてしまったねぇ……)
     
     食への執着というものはあまりないが、腹が減るのは仕方ないことだ。人間の食への欲求というものは生きていくうえで必要不可欠なものだから。人間の三大欲求、だなんてよく言ったものだ。

     朝食はもともと食べない派だ。お昼はいつも通り学校の屋上で、機械の調整をしてたら夢中になってしまって食べ忘れた。
     そんな日の午後に限って、不運なことに体育の授業があったわけで。
     この後のワンダーステージのショーがある以上、空腹のままでいるわけにはいかないが、如何せん悠長に何か物を買いに行く時間の余裕もなく。仕方ないかと、たまたま持っていたラムネを口に放り込んだ。血糖値を上げることで空腹が紛れるというのは本当らしい。いつもより多めに咀嚼すれば、早々に口の中で甘く溶けていった。空腹が紛れたのを感じて、やはりラムネというのは素晴らしい菓子だと感心し、更衣室を後にした。

     
     
     恙なく今日のショーも最高のものを魅せることができた。30分の通常公演を2回と、そのあとのナイトショー。なかなかに詰まったスケジュールだった。えむは全然まだ動ける! と片付けもたくさん頑張ってくれているが、寧々と司は片付けするのすら一苦労な様子だ。かくいう類も、片付けをする頃には空腹が極限に達していてくぅくぅと腹の虫が鳴き止まなかった。早く片付けを終えて、帰りにコンビニでも寄ってパンかおにぎりか……なんでもいいから食べ物を買おう。

    「なぁ類、このドローンは片してしまっていいのか?」

     空腹により碌に回らない頭の中でこの後の予定を立てていると、司がショーで使用したドローンを大事に両手で抱えて類の元へとやってきた。
     
    「ああ、その子はそろそろメンテナンスしようと思っていたんだ。持ち帰るよ」

     司の手からその子を受け取ったところで、ぐぅ~、と大きな腹の虫がその場に響いた。しっかり司の耳にもその音が聞こえたらしく、目を丸くする。ぱちぱちと大きな琥珀が瞬きをして暫くすると、ようやく司が口を開いた。

    「……珍しいな、腹が減ってるのか?」
    「すまないね、朝から何も食べてなくて……」

     腹の音に笑うでもなく、真剣な顔でそういうものだから余計に恥ずかしくなってきた。笑ってくれたらまだよかったのに、珍しさが勝っているのか、司は心配するような顔をして類の顔を覗き込んだ。
     受け取ったドローンでお腹のあたりを隠すように抱えて持ち、司から顔をそらす。
     
    「朝から!? 食事はキチンと摂れと言っているだろう、まったく。……類、この後予定はないよな?」
    「ああ、帰りにコンビニによって何か食べようかなと思っていたけれど、それ以外特に予定はないよ」
    「そうか。なら早めに片づけて一緒に帰ろう。寄りたいところがあるんだ、付き合ってくれ」
     
     そういわれてしまえば断る理由も特に見つからず、首を縦に振った。
     片づけはあと少し物を運んで、簡単に掃除をすれば終わる。司が物を運びに行ったのを見て、類は手に持ったドローンを自分のタオルと一緒に客席へと置いた。
     掃除道具を入れたロッカーから箒と塵取りを取り出して舞台上を掃き掃除する。これが終われば、後は倉庫の鍵を返しに行っているであろう、えむと寧々が戻ってくれば解散になる。
     粗方掃除も終えて、ごみ箱に塵を捨て、ロッカーに掃除道具をしまったところで予想通りえむと寧々が戻ってきた。司も物を運び終えたらしく戻ってくると、解散のあいさつをする。

    「寧々、今日は先に帰っていてくれないかい?司くんと少し寄り道してくるよ」
    「え、うん。……ふふ」
    「? 機嫌がよさそうだね、何かいいことでもあったのかい?」

     コロコロと鈴を転がすように笑った寧々は、ううん、と首を横に振った。
     
    「……類が一緒に寄り道するような友達出来たんだって思うと、ちょっと嬉しくて」

     寧々は類の過去を知っているからこそのセリフだろう。類も言われてみれば確かにそうだ、と思った。ショー関連のことで司やえむ、寧々と寄り道をすることはあったが、帰りに私用で誰かと寄り道するのは初めてだ。
     まあ、実際司との関係は友人……仲間、だけではないのだが、まあそれは置いておこう。寧々にも、えむにも、まだ伝えられていない事なのだ。知らなくて当然である。付き合ってまだ間もないし、気を遣わせてしまうかもしれないから、もう少し時間を経てから伝えようと、司との間で決めていた。

    「じゃ、わたし着替えたら帰るから。あんまり遅くならないようにね」
    「フフフ、母さんみたいなことを言うね。寧々こそ、気を付けて帰るんだよ」

     手をひらひらとさせた寧々は、きぐるみと話し込んでいたえむに声をかけて更衣室へと向かっていった。
     類もそれに倣って踵を返し、更衣室に向かった。司は更衣室に併設されたシャワールームで軽く汗を流していたようで、まだ着替えている途中のようだった。

    「すまん、寧々と話してたようだったから先に来てしまった」
    「かまわないよ。シャワー浴びてたのかい?」
    「ああ。今日はハードスケジュールだったからな、汗を流してきた」
    「そうだねえ、比較的役の少ない僕でも結構疲れてしまったよ」
    「類の場合は食事を摂っていないからというのもあるだろうがな……。エネルギーが足りてないのにあんなにショーをしたら、そりゃあ疲れを感じるだろう。しかも午後の授業、合同で体育だったじゃないか」
    「フフフ、本当にね。今日はたくさん動いたよ」

     類は自身のロッカーを開けて衣装を脱ぐ。少し汗ばんではいるが、シャワーを浴びるほどではないか。汗拭きシートを取り出して体を軽く拭いてから制服に着替え終わるころには、司も既に制服に着替え終えており、荷物をまとめてそのまま更衣室を後にした。
     閉園間際のフェニックスワンダーランドは、ナイトショーの後ということもあり、一日の終わりを華やかに彩っている。帰る人もいれば、この時間を狙ってアトラクションを閉園ギリギリまで楽しむ者もいるのだ。そんな人たちを横目に、司と類は関係者口に向かって歩を進めていた。

    「司くん、寄り道って何処に寄るんだい?」
    「ん? ああ、なに。軽くだが、食事でもどうかとおもってな!」

     関係者口の警備員にお疲れ様でした、と声をかけて司が類の手を握る。指を絡めて、離さないように握られるだけで心臓が逸る。司もハードスケジュールだったのは類と同じで疲れているはずなのに、帰りが遅くなろうとも気に掛けてくれて、それがなんだかむず痒い気持ちにさせた。

    「食事……って、司くん、きみ家にご飯あるんじゃないのかい?」
    「む、あるぞ。だから軽くだ! オレも腹が減っていてな……家で食べる分はもちろんちゃんと胃をあけておく。それに……」
     
     ちょっとしたデートみたいでいいだろう。と、小さく返された。照れているらしい司は頬を赤らめて、握った手に少し力が入った。まだ想いを通わせてからそう日にちは経っていないのだ。初々しさに胸打たれるのは仕方のないことである。
     
     そんな司に手を引かれるがまま連れて来られた場所は、フェニックスワンダーランドから歩いて数分の場所にあるこぢんまりとしたラーメン屋さんだった。店内に入ると、むわりと麺を茹でる良い匂いが空腹をより感じさせる。カウンターしかない店で、店主であろう強面の人が麺をさばいていた。

    「らっしゃい! 好きな席どーぞ」

     ピークが過ぎた後なのだろうか、そこまで混み合っているわけでもなく、たまたま空いていた席に並んで座った。

    「きみもこういうお店来るんだねえ」
    「ああ、たまにな。オレはネギにするが、類はどうする?」

     こういうのは悩んでなかなか決められないと思っていたが、即決した司を意外に思いながらも類はメニューを眺める。醤油ベースが売りのラーメン屋のようだ。
     王道のチャーシュー麺から始まり、野菜、ネギ、味玉と様々なメニューが並んでいた。ノーマルのトッピングはメンマとチャーシュー2枚、海苔らしい。腹が減っている類は、味玉にしようと決めた。帰宅してからの夕食があるが、ラーメンを食べるくらいなら夕食もぺろりと平らげられるだろう。

    「僕は味玉にしようかな」
    「わかった。すみません! ネギと味玉お願いします!」
    「あいよぉ!」

     よく通る司の声は狭い店によく響く。注文を聞き入れた店主は、せかせかと調理を始めた。

    「フフ、こういうの初めてだ」
    「こういうのって?」
    「友達と、帰りにラーメン屋さんくるの」
    「…………」

     黙ってしまった司は、だんだんと顔を顰めていく。何か気に障るようなことを言ってしまっただろうかと思っていると、小さく何かをつぶやいたらしく、口が動いていた。同時に麺を湯上げした美味しそうな音でその声がかき消されてしまい、聞き取ることは叶わなかった。

    「……? すまない、聞こえなかった。なんて言ったんだい?」
    「何でもない!」

     ぷい、とあからさまに拗ねた様子が気になったが、丁度店主がカウンターにラーメンをドン、と置いたので後で聞くことにした。

    「おまち! ネギと味玉ね。あとこれはオマケな、仲良く食えよ!」

     おいしそうに湯気がたった出来立てのラーメン。香ばしい醤油の香りが唾液を分泌させた。おまけ、と差し出されたお皿の上には、醤油を塗った焼きおにぎりがふたつ。焦げ目がいい感じについていてこちらも大変おいしそうだ。
     腹が早く食べたいと言わんばかりに小さく鳴ったのを感じて、すぐさま割り箸に手を取った。司にも割り箸を渡して、仲良く「いただきます」と両手を合わせた。
     まずはスープをレンゲで掬って口へ運ぶ。こっくりとした醤油の味だ。続いてもっちりした太麺を啜る。おいしい。昨晩ぶりの食事に胃が喜んでいるようだ。
     少し濃いめの味付けなのだろう。味玉もいい感じの半熟で好みの味だった。
     ちらりと視界に映ったメンマを、そっと司の器に移すとほんの少し睨まれてしまった。
     
    「メンマも食えないのか」
    「原材料は麻竹……たけのこだろう? あいにく、野菜とは相性が悪くてね」

     肩をすくめて見せると今日は許してやると言われて、またラーメンをすすり始めた。
     半分程度食べたところで、おまけの焼きおにぎりに手を付ける。焼きたてらしく、表面がパリッとしていた。一口かぶりつくと、焦げた部分の香ばしさが醤油と米の味を引き立てる。司も同じく焼きおにぎりに手を付けたようでリスのように頬を膨らませて食べていた。

    「ん、……うまいな」
    「おいしいね」

     行儀悪いかもしれないが、焼きおにぎりはシメにとっておこうと半分程度食べたところでお皿に戻した。
     司は焼きおにぎりを早くも食べ切ったらしい。類はもう一度ラーメンを食べようと思ったが、横髪が落ちてきてしまって耳にかける。右隣から司の視線を感じたが、気にせず食事を再開した。チャーシューも柔らかくておいしい。海苔は時間がたって草臥れてしまっているが、スープにつけて口に運んだ。
     ぺろりとラーメンを平らげ、最後の楽しみに残していた焼きおにぎりを頬張り、水で口直しをする。
     熱い視線を送っていた司もいつの間にか食べ終えたらしく、私物のハンカチで口元を拭っていた。

    「ごちそうさまでした」
    「ごちそうさまでした」

     両手を合わせて、どんぶりとコップをカウンターの上にお返しする。会計も550円とリーズナブルだった。
     強面の店主はニカリと笑って、また来いよ、と見送ってくれた。

    「偶にはこういう寄り道もいいね」
    「そうだな」
    「うん。……ねえ、司くん、さっきなんて言ったの?」

     帰り道。住宅街で、人通りもないのだから、手を繋いでいても誰も気に留めないだろうと、今度は類のほうから司の手を握る。少しだけ驚いた表情をした司だが、あー……と照れ臭そうに顔をそらした。少しだけ嬉しそうに、けれど拗ねた声音で「友達じゃなくて、恋人だろう」と笑った。

     「……フフッ、そうだね」

     人通りのない、ふたりだけの夜の帰り道。特別なちょっとしたデートに、心もお腹も満たされたのであった。
     
     余談だが、類は帰宅した後しっかり夕食を平らげていた。司も夕食を平らげたらしい。寝る前に「夕飯は回鍋肉だった」とメッセージが来ていた。ちなみに神代家は鮭のパン粉焼きだった。
     後日、寧々にこの話をしたら「胃袋に宇宙空間でもあるの……?」と若干引き気味に言われたのは、また別の話。
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    咲楽優

    MEMO他サイトにて公開しているサウンドノベルです
    バックログで文章を確認出来ないつくりにしていたのでテキストにしてみました
    タイトル【Endless road】
    ※約900字
     ダークファンタジー系
     一部残酷な表現が含まれます
      この物語はフィクションです

    (ひとりごと)
    確かにギャレリアの方が機能は豊富だけど私はこっちも好きです
    あるところにひとりの男がおりました
    男は頭からマントをかぶり、手にはつえを持っています
    その男がどこからやって来たのかは分かりません
    男はある目的を胸に、旅をしていました

    男は旅をしています
    あるとき、耳の長い少年が声をかけてきました
    「ねえ、君はどうしてつえをついているの?」
    男はこう答えました
    「私は足が不自由だからだよ」
    男は曲がった足をさすりながら言いました

    =男は昔、ある国の王様でした=

    男は旅をしています
    あるとき、羽の生えたおじいさんが声をかけてきました
    「おぬしはどうしてマントをかぶっているのじゃ?」
    男はこう答えました
    「それは、私の顔が醜いからだよ」
    男はマントを深くかぶりながら言いました

    男は旅をしています
    あるとき、尾びれの生えた女が声をかけてきました
    「あなたはなぜ旅をしているの?」
    男はこう答えました
    「ひとりぼっちはさみしいからだよ」
    男は遙か彼方を見つめながら言いました

    =男は昔、大きな罪をおかしました=

    花ほころぶ丘をこえ、砂塵(さじん)の嵐をぬけました
    海を渡り、広い草原にたどり着いたところで男は腰をおろします
    野原にはゆるやかな風が吹い 943

    はぱまる

    MOURNING昔書いたのを思い出して読み返してみたのですが、これ今から続き書くの無理だな……となったのでここに置いておきます
    後悔 酒は嫌いだ。正気を失うから。ショーに気を狂わせている方がよほど楽しい。
     そう笑う彼の瞳が輝いて見えて、ああ大きな魚を逃したなと思ったのだ。惜しいことをしたと思い知らされたのだ。
     司とは逆に酔う感覚がそれなりに好きな類は口惜しさにアルコールを摂取し、摂取し、摂取し、そこからはもうダメだった。もう一度僕に演出させてほしいと、君の演出家になりたいと、ズルズルと子供のように縋ってしまったのだ。はたまた恋人に捨てられそうな哀れな男にでも見えたろうか。なんにせよ、醜い有様であったことに変わりはない。
     類は知っている。高校生の頃、嫌になるほど共に過ごしてきたため知っている。司は人が好く頼み込まれれば基本的に断れないタチだ。しかも酷く素直で単純で、その気になれば口車に乗せることなど容易い。しかしこの男、どうにも頑固で仕方がないのだ。こうと決めたことは梃子でも曲げない。どんな話術を使おうと泣き落としをしようと首を縦に振らない。そして、司はワンダーランズ×ショウタイムからキッパリと縁を切っていた。
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