アゼムが帰ってくる前日(モブ話)エメトセルク院に配属されたばかりの新人職員は、処理が必要な書類を持って院の主の部屋へやってきた。部屋のノックをしようとしたところで、部屋の扉が開いた。
「エメトセルク様」
ここまで近い距離で十四人委員会のメンバーを見るのが初めてだったその彼は、緊張を隠しつつ名を呼ぶ。エメトセルクは職員に向かって手を差し出す。
「私の決裁が必要な書類だな。こちらへ渡せ」
「はい、お願いします」
彼からの書類を受け取り、さっさと部屋に戻るエメトセルク。職員は緊張を解き、自分の席に戻った。すると、隣の席の同僚が不思議そうに問いかけた。
「あれ、思ったより早かったな」
「うん、エメトセルク様が出ていらして書類を直接受け取ってくださって」
彼が答えると、同僚は「あー…」と声を上げ、壁にかかっている時計を見上げた。時刻は夕方。そろそろ職務が終了する時間だ。同僚の反応の意味が分からず、彼は周りを見渡す。他の席の者も今の会話を聞いていたのか、彼と視線が合った。目が合った相手は、口元に笑みを浮かべた。
「ああ、キミはまだ知らないよね。ここだとたまにあるのよ」
「え?」
「そろそろアゼム様が帰ってくるみたいね」
アゼム様。その人も十四人委員会の一員で、その使命の性質上、アーモロートに不在であることが多い。そのアゼム様が一体何の関係が…。
「アゼム様とエメトセルク様はご友人なんだよ」
「あと創造物管理局の局長もね。たぶんあっちも同じ状況だな」
同僚たちは嬉しそうに職員に説明する。アゼムが使命を終えて帰ってくるタイミングで3人は共に過ごすようで、エメトセルクも局長――ヒュトロダエウスも、その時は仕事を全部処理してアゼムを迎えるのだという。
「そうなんですか」
「うん、アゼム様はアーモロートにいないことが多いから、なるべく一緒に過ごそうとしてらっしゃるみたい。素敵よね」
「アゼム様は世界中を旅されているからなぁ。そのお話はいつも楽しいしね」
「お土産もいただいたことあるわね。食べたことのない珍味だったり、甘味だったり」
同僚たちの中でアゼムの評判は上々であるようだ。職員も興味をそそられた。
「なるほど、それなら」
「大切なご友人との楽しいお時間を邪魔してはいけない。どうしようもない案件以外は、なるべく我々でできるところまではやっておこう」
「はい、分かりました」
ヒュトロダエウスもエメトセルクもそんなことは言ったことないのだが、実は職員たちにはバレバレだったというお話でした。