無題(穏やかな攻めと男前受けガチャより) お互いに想いを伝えて、毎日ずっと一緒にいられる訳ではないが、自然とどちらかの家で一緒に過ごすようにもなり、身体を繋げる関係にもなったというのに。リオルは最近の出来事を思い返し、小さくため息を吐いた。脳裏に想うのは正真正銘、恋人であるマキシマの最近の言動だ。いわゆる夜の雰囲気になりそうになると、何気ない言葉や態度でそれを遮られる。しかも何度も。要するに最初の夜以降、全くのご無沙汰なのである。
(なんだ一体……ワザとか?)
最初は偶然かと思ったが、こうも続くと偶然とは思えない。確実にマキシマは狙ってそういう行動をとっている。リオルは原因を探ろうとするが、考えられる理由は1つしかない。
(ヤってみて、嫌だったってことだよな)
こればかりは相性というものもある。実際、ソッチの相性が悪くて上手くいかないなどということはよく聞く話だ。自分はそうでもないというか、ハッキリ言ってめちゃくちゃヨかった自覚があるので、てっきり相手もそう思っていると思ったのだが。
(まあ、そもそもオンナみたいな柔らかい身体じゃねえもんなぁ。準備も面倒だろうし)
それならそうハッキリと言ってくれた方が、傷つくだろうけども諦めもつくというものなのだが。何せ相手はあのマキシマだ。こちらのことを気遣ってハッキリ言えないのだろう。
(いい加減俺も我慢の限界だしなぁ……白黒ハッキリさせてもらおうじゃないの)
この曖昧な現状を打破すべく、リオルは行動に移すことにした。
***
リオルがそんなことを思っていたのは、マキシマの手作り料理を食べ終わった後だった。料理を作っていない人間が片付けを請け負うという二人の間の暗黙のルールで、リオルが夕食の片づけをしていたのだ。マキシマは今日は持ち帰りの仕事も無いようで、ぼんやりとソファに座って休憩をしているようだ。
片付け終わり、リオルは静かにマキシマに近づいた。マキシマは気づく風でもなくこちらに意識は向けてこない。リオルはマキシマの腕を取った。驚いてマキシマがリオルを見上げる。
「……リオルさん?」
リオルに無言で腕を引っ張られ、マキシマは体勢を崩しながら連れていかれる。向かった先はマキシマの部屋だった。
「リオルさんどうしたんです?」
訊ねてもリオルは無言で、マキシマの部屋の扉を開け、中に入っていく。足はそこで止まらずさらに奥、寝室に真っ直ぐ向かった。当然引っ張られているマキシマも連れて行かれてて、リオルの意図が分からず困惑しながらもう一度訊ねる。
「リオルさん、一体何を……」
寝室まで来て、リオルは足を止めた。同じくマキシマも止まるが、すぐに勢いよく腕を引っ張られ、放り投げられた。咄嗟のことで受け身を取るが、思ったような衝撃は来なかったのでマキシマはますます困惑する。自分が放り出されたのは自分のベッドの上だったのだ。
「あの、リオルさ……」
まずはリオルに今のこの行動の意図を問い質そうとマキシマは身体を起こすが、リオルに肩を抑えられ起きることができなかった。力で負けるつもりはないが、対人での身体捌きはリオルの方が何枚も上手だ。彼が本気で自分を取り押さえようとすれば、おそらく自分は何もできない。今まさにマキシマはその状況に追い詰められていた。
(というかこの状況は……)
マキシマは自分の状況を判断した。ベッドの上、自分がリオルに押し倒されているという状況を理解し、マキシマは別の意味で追い詰められたことを把握した。自分にのしかかっているリオルを見上げると、人の悪い笑みを浮かべている。彼と共に過ごすことが増え、彼がこんな表情を浮かべている時のことも何となく把握できている。彼は腹を立てているのだ、自分に。でも理由がよく分からないし、そもそもこの体勢は、大変よろしくない。
マキシマが内心冷や汗をかいていると、リオルはマキシマを片手で押さえながら問いかけてきた。
「なあマキシマ。俺とお前ってどういう間柄だっけ?」
「もちろん恋人同士だと」
「ああ、そこは認識してるんだな」
マキシマの答えに満足したリオルは、もう片方の手で自分の上着をボタンを外していった。それでリオルの意図を察したマキシマが焦った声でリオルを制する。
「リオルさんやめてください!」
「聞こえねえな」
制されても全く意に介さず、リオルは自分の上着を床に落とした。彼の均整のとれた身体を見せつけられ、マキシマは一瞬見とれてしまった。その視線を受け、リオルは意外に思った。自分を嫌がっているような様子には見えなかったからだ。
「やっぱり俺とは出来ない? 無理なら無理って……」
マキシマを抑え込みつつ、リオルは訊ねる。すると相手から弱々しい声で答えが返ってきた。
「……本当に、そんな風にされると、抑えがきかなくなります」
「え」
あれ、思ってたのと違う答えだとリオルは思った。そして自分の身体の下を見ると、自分の身体を極力見ないように顔を背け、真っ赤になっているマキシマが、
「……貴方を壊してしまいそうで怖いんです……」
ボソボソ小声でそんなことを言っている。リオルは完全に自分の読みが外れていたことを悟った。そしてこの自分の下にいる相手も、自分のことを理解できていないことを察した。
リオルは顔をそむけたマキシマの顎を掴んで自分の方に向け、自分と目を合わさせた。マキシマは狼狽えた目で、こちらを見た。マキシマがこんなにも自分を抑えて我慢をしていたのは、全部自分のためなのだと、ここへ来てリオルはハッキリと理解できた。ならば今度は、マキシマの誤解を解かねばなるまい。それをするのは自分でなければならない。
「抑えなくていいよ」
「リオ……っ」
「お前の抑えてるソレ、全部俺のだろ? だったら全部俺に寄越せよ。遠慮はナシだ」
伝わるようにと想いを込めて、リオルはマキシマに口づけた。