お前のための殻何が面白いんだ、と問い詰めた事がある。酒の勢いで。
自分はどう見てもどう世辞を並べようとおもしろみのない男の身体をしていて、それを暴き遊ぶことの何が楽しいのかと。
くちづけをするだけでは足りないのかと空になった緑のフロスト瓶を無造作にソファーに投げたまでははっきりと覚えている。
それから、切間亭でのセックスを拒んだ。
どうか察してくれと半端な文言で回避しようとしたのが逆効果で、実に楽しそうに夜通し尋問をされた。
観念して心情を吐き出せば彼はきょとんとした顔をして、そうかと思えばその次の逢瀬は早くも違う場所だった。
腕を振れば袖が付いてくる。元よりこの逢瀬は予定にあったものだが、立ち合いから直接向かった真鍋は目的地に到着するや否や側仕えの女性らにみぐるみを剥がされ、湯船に浸けられ、まだ裸だというのに取り囲まれ今度は勝手に服を着つけられた。
藤色に細かい模様の入った袖が目に入る。固い恰好をしている事の方が多い人生だったが、スーツとはまた違う拘束の具合を感じる。
案内されるままに廊下を歩いていく。一番奥の間に連れてこられ、側仕えの女たちは障子戸を少し開けてから頭を下げさっさと消えた。
「どうした、入れ」
たすたすと畳を叩く音がした。わずかに開いている戸に指を掛けて開くとそこには銀鼠の無地の和服を着流した撻器が悠々と寝転んでいた。
「良い立会だったようだな。すっかり板についてきたじゃないか。」
こっちにこいと招く指に逆らい後ろ手に障子戸を締めてそこに正座で直る。
「…この服装にはなんの意味が?」
「俺が見たかったからだ。」
ああそう、としか言いようのない返事に肩が落ちる。伸びて来た手が膝頭に触れ、早々に観念して撻器の傍らに腰を下ろした。
「今日はどういった趣向なんだ。わざわざこんなところに」
「どうって、お前が俺の家を嫌がるから」
「は?」
寝転んだままの姿勢で腕に巻き付かれ、そのまま引き倒される。
「なあ匠。俺はお前を甘やかすぞ。好きも嫌いも、嫌も良いも。」
着なれない和装の裾は簡単に割られ、そこから遠慮のない傷の連なる手が肌に触れる。
「…助平な親父だな。私を抱く為にここを用意したのか?」
「ああ、惜しくないからな」
その割には、と言いたくなるような性急さであちこちが暴かれて行く。着せる手間など、乱すことの一瞬さには敵わない。
入浴を終えて間もない身体はまだ火照りが抜けず、その熱が与えられる熱のそれと繋がるのにそう時間はかからない。
「俺のために装え。乱れろ。お前の暴れる様を俺に見せろ、匠。」
ああ、なんと心地の良い籠だろうか。乱れつつある呼気の合間にそんなことが思い浮かんだ。
自分の駄々を聞いて用意された屋敷への道で、今度は撻器の欲を着せられた。
「あ、畳が…汚れる、から…」
「気にするな。俺の個人資産の端くれだ。汚そうが壊そうが誰からも叱られないさ。」
ここがダメになったらまた別の場所に連れて行く。そんなことを言われたような気がする。
重ねられた着物が手足にまとわりつき、まだ残っている帯の底で欲が体に響いた。
どうやっても逃れられない熱と疼きに、悪あがきと分かっていながら頭上の違い棚の一輪挿しの椿の花弁を数えた。