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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    よくわかんないギャンブルして死にかけてる門梶です

    暴走列車にて悪趣味さと目的もここまでわかりやすければ清々しいものだと思った。
    目隠しをして連れてこられた先で首で支えるのが精いっぱいの重量の金属の塊を頭に装着される。
    すぐに電源の入ったそれは視線の先にゲーム画面を表示した。なんてことはない、ただのトランプゲームだ。
    対戦相手は車椅子に身を預け、右手のコントローラで手札を繰る。そして、自分とおなじ「逆トラバサミ」と呼ばれた装置を着けている。

    「この対戦相手は、あなたが嘘喰いの協力者であるということはおそらく知りません。若く、健康であり五体満足、明朗快活な人間を対戦相手に指名する傾向があります」

    意味はわかりますね?という言葉が音にならずとも聞こえた。親切な説明の末、要求される代償もすぐに予想が付いた。
    口腔内を上下に割るための金属のプレートを差し込まれる時にも相手がじっとこちらを見ているのがわかった。
    勝利すれば巨万の富、敗北すれば死と肉体の破壊。この男からすれば負けても金を吐くだけというのは実質ダメージなどないのだろう。
    話に聞けば、下顎がなく、目から光は失われ、右腕に指三本を残してあとの四肢も失われている。
    彼のことを哀れだとは思わない。その状態だからといって、他人を壊していい理由にもならない。

    ごおごおと車窓の外で風が嬲られ吹き抜けていく。ただ走っているだけでも不安になるほど車体が大きく揺れる。
    「残り距離、15キロメートルです」
    ゲームのリミットも近くなる。暴走列車は、まもなくブレーキでの停止限界の距離に至る。
    相手が自らの命を惜しんでいないギャンブルというのはどうにもやりづらい。
    自分が負ければこの頭に被せられた装置はガチャガチャのカプセルを開けるみたいにパカっとこの頭を背中側に向けて開く。
    勝てば命を懸けたなりの報酬が得られる。けど、たとえ勝利したとしてもブレーキをかけるか、離脱行動が出来なきゃ負けだ。
    相手は死ぬのが惜しくないのだ。ただおそらく、自分で息を詰めるとか、首を吊るとか、そういうのができないだけで。

    コントローラーの決定ボタンを押す。この手で勝ちだ。
    「梶様の勝利です」
    あ、ほら笑った。オフになった半透明の液晶の向こうで相手の目元が緩んだのが見えた。
    機械はゆっくりではなく思いっきり大きく開いた。僕についている物も同じ速さで開いてくれるのかはわからないが、相手の頭は一瞬で破壊された。
    門倉さんが血しぶきの飛んだゴーグルを外す。顔が血まみれなのを気にもしないで手元の端末を操作して、賭け金などもろもろがこちらに移動した事を知らせた。
    門倉さんの手で頭から逆トラバサミの一番大きなパーツが外され、口からプレートが二枚取り出される。
    久方ぶりに異物感の消えた口内に落ち着く暇もなく「早く、早く、」と脚の固定具が外されるのを待った。

    と、その時、運転席から破裂音がした。同時に窓に赤い液体がぱっと散り、これには門倉さんも少し驚いたようだった。
    運転席のドアを開けると人間の中身と火薬の匂いが詰まっていて、そんな風になっているのだから当然運転手も死んでいる。
    「…これは賭郎の不手際です。大変失礼しました。」
    「門倉さん、ブレーキいけますかこれ…」
    「無理でしょうね。距離が足りませんので衝突のみかと。」
    「資産はもう移動したんですよね、権利書も全部出発地点にあるんですよね」
    「はい。そちらは賭郎が責任を持って管理しております。」
    それじゃあ、と額から落ちて来た汗を袖で拭って、門倉さんの袖を引いて血まみれの客席に戻った。

    「あの、今までありがとうございました」
    足元の揺れが酷くなる。まるで走った後の線路が全部崩れ落ちているみたいに。
    カーブの先、きっとあれは炭鉱の跡だろう。他に巻き込まれる人が居ないのならまだマシかもしれない。

    「・・・は?」
    足元の血だまりが流れていくのを目で追って居たら、急に体が宙に浮いた。ガラスが急に割れて、でもすぐに視界が真っ暗になった。何かが刺さったり当たったりしたような痛みはない。
    その次に来たのは浮遊感だった。口の中に布が詰め込まれて、ぷつぷつとした感触でそれが門倉さんの手袋だとわかった。
    途方もなく長い時間の中にいるようにすら思う。あばらが折れそうなくらい強く布の中に閉じ込められて、そこから先はさっきよりももっと 深く、真っ暗だった。
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