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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    なんぽとは白木屋とか個人経営の居酒屋で閉店まで焼酎瓶抱えて泥酔飲酒するくせに梶とはおしゃれなバーでいっしょになってカクテル飲んでる男、門倉

    バーで飲んでるかどかじ「それけっこう強いんじゃないですか?」
    三角のグラスのお酒は度数が強いんですよね、と年下の男が得意げに言いながら私の手元を指す。
    「ええ、まあ度数は調整できるものですから。これはそれほどでも」
    「へえ~」
    彼の手の中にはタンブラーグラスに入ったオレンジ色の酒。酒はよくわからないという彼が大衆居酒屋で見知った名前だからといって注文した一杯だ。
    空になりつつあったグラスを飲みほして同じものを頼む。塩気の強いナッツで酒が進んでしまうが、正直な話これくらいでは酔えない。
    「…ん、ウォッカ入ってるんですね。うわ~…僕には無理そう」
    「試してみますか?後味はいいですよ」
    「はは、潰れちゃったら申し訳ないから…あ、ちょっと僕お手洗い行きますね…」
    空にしていったグラスをバーテンダーに返し梶が次は何を頼むのかを予想する。
    梶の為に出させたカクテルの名前が載ったメニューブックを流し見て、大衆居酒屋にあるだろう名前をいくつか見つける。

    「すみませんお待たせしました」
    「次を頼もうかと思ったんですが…好みが分からないもので」
    「ありがとうございます。次も同じのください」
    バーテンダーの手が新しいグラスに向かう所で体ごと後ろを向いてピアニストの方を見る。
    つられた梶も同じようにカウンターに背をもたれて一緒になってグランドピアノの演奏を見ている。
    ピアノの旋律の間に、最初の一杯よりも多く定量ポーラーに酒が通る音がする。

    「お待たせしました」
    「ありがとうございます」
    梶は受け取ったグラスを手にまたピアニストに注視する。
    勿論味は変わるだろうが、オレンジに透明をいくら混ぜたところで色は変わらない。親が娘に注意するような事をやるほど馬鹿になったつもりはない。
    「あ、これやっぱ美味しいな」
    かわいい梶。そのオレンジの中にどんな欲があるかも知らないで。


    *

    はじめて睡眠薬入りのカクテルを飲んだのは去年の夏。
    裏の社会では自分みたいなのにも価値があるらしく、美人局のような事をした。
    その日は見立ててもらったスーツのネクタイをきっちりとしめてバーのカウンターに座っていた。
    口が酸っぱくなるほど言われたのはまずグラスから目を離さない事。
    席を離れた後に新しいカクテルが注文されていたらそれは飲まない事。注意する方も、それをやろうとする方についても意図するところはわかっていた。

    釣れてくれた男は僕のネクタイを「ここのドレスコードはこうだよ」と言いながら緩め、閉めたままでいたジャケットのボタンを二つとも外した。
    この日のために下ろして堅いままの革靴にこつんとつま先を当てて来たから、タンブラーに数センチだけ残して遊んでいたカクテルを飲みほした。
    トイレに立って胸元のボタンを二つ外した。用も足して水腹を解消して、よしと気合いを入れた。

    戻ったカウンターにはオレンジ色のカクテルが立っている。もちろん新しいグラスで。
    「これ好きなの?」
    「まあ、これしか分からなくて」
    この男の手口は知っている。本当にだれにでもやるんだと感心してしまった。
    もちろん、ごちそうになった。後ろの席にはマルコが居たから。
    さっきより明らかに塩気が強く塩の粒が目立つナッツを食べ、カクテルで流し込む。
    喉が渇いたと言ってペースを上げ、本当と演技で回らなくなる呂律で楽しく会話をした。
    僕より10くらい年上の男。都合よく取ってある部屋。慣れた調子の部屋付けの会計。
    僕の横ではドレスとファーで着飾った銀髪の美女が会計をしている。誰も僕等なんか気にしない。
    マルコが電子キーを無視してドアを壊すまで、そこからあと15分。


    全部飲むなんて、と叱られてそれから数日後。パンパンになったコンビニ袋をスイートルームに持ち込んでベッドの上で宴会をした。
    何年か前から見かけるようになったスミノフアイス二人とバヤリース一人で乾杯して、そのうち8%の缶がかぱかぱと空いた。
    「梶ちゃん結構飲むよねえ」
    水と酒を交互に飲むようになった貘さんがポイと空き缶を袋に投げ入れる。
    粉ものをいくつも空けてお腹いっぱいになったマルコはもうベッドから落っこちて熟睡している。
    「前から飲んではいましたからね。飲みも誘われれば行ってましたし…安酒ばっかですけど」
    ちゃぽちゃぽと缶を揺らすと貘さんがふふっと笑った。
    「今度二人でバーにでもいこうよ。いいお酒の味も覚えてもらわなきゃね。」
    「マルコは?」
    「子供はお留守番。っていうか、おなかすいちゃうだろうし、それはかわいそうだから」
    「いいですね、じゃあ期待して待ってます」
    「俺の事潰さないでよ?」
    「どうしようかな」
    「ふふ」
    「あはは」


    *
    「なんか僕、酔っちゃったみたいです」
    空になった二杯目のグラスを押し、梶は首をゆるく傾ける。
    「こんなのジュースでしょう」
    へら、と笑う梶がナッツを噛む音が嫌に耳に残る。
    「なんか舌も馬鹿になっちゃったみたいです」
    梶の手は私の手元にあるグラスに伸び、止める間もなくそれをくっと飲み干す。
    「ほら、平気」
    ライムだけが残ったグラスをカウンターに置いて、梶がゆらりと立ち上がる。
    「僕の部屋、この上なんです」
    まだ限界までは遠い、とろりと熱を抱えた目に誘われる。
    梶がポケットから取り出したカードキーを見てバーテンダーは頷き、触れて来た梶の指がネクタイの結び目からベストの中に入る。
    「それとも、門倉さんのお部屋にしますか?」
    ぱち、と指で弾かれたカードキー越しに胸が揺れた。
    「僕、酔ってるから…どっちに連れていかれてもわかんないですよ」
    いつの間にか消えたバーテンダ—の分視界から情報が無くなって、梶の潤んだ目がいつもより強くきらきらとして見えた。

    ああ、負けた!こんな子供に!まさか持ち帰られるとは!
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    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173