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    ヒロ・ポン

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    ヒロ・ポン

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    新鮮なSFです(地球滅んでます)

    門梶地球は一度滅んでしまった。
    人は地球の復元と人間通しの和平に試行錯誤を続けながらも身勝手を続け、最終的には誰も居なくなってしまった。
    世界中は墓だらけになった。最後の人類というものがどこにあったのかはわからない。それを今、調査している。
    カルシウム等で出来た骨格を持たない我々の慣習としては、埋葬というよりも身体を分解し別の物質に構成し直して一族で保持したり、
    自己もまた自然物であると捉え大気か水中に還っていくというのが一般的だった。
    だから、死後にその身体の残骸を物理的に保管するこの星には研究者の強い興味が集まったのだ。

    「あれですね」
    地表をスキャンしていたチームから通信が届く。今日の鉱脈はここか、とマッピングされたスクリーンを確認した。
    この星の人々、そして今自分が担当している地域…国と言う区切りがあった場所のこのあたりでは骨となった後のそれを容器に収め、一か所に集めるという風習があるらしかった。
    目的はこの地球の復元再生だ。しかし、悠長に細胞分裂や進化などを待っては居られない。
    手っ取り早く再生させるには情報を集め、今ある物質でその設計図に従って肉体を組み立て、ちょっといじって地上に放す。それが最短だった。
    それで成功するかどうかはわからない。なんでもシミュレーションと試行錯誤が重要なのだ。

    *
    「かじさま」
    復元された個体は、様々な文化や教養を吸収してきた我々の美的感覚から見ても美しい顔立ちのものだった。
    近しい場所にあった残骸から個体名の特定は勧められている。かじさま、というが、「様」は敬称であるという言語分野チームからの指摘によりそれは第三者の名前を発しているということがわかった。
    同時に「かどくら」としか言わない個体も復元されたが、こちらはさらにわからないので更なる調査が進められている。
    頭蓋の一部の損失と前頭葉部位、左の眼球、そして額の皮膚の損傷が情報として残っていた。傷と骨格の瑕疵は復元作業の際にデータのみを取り修復された。
    月齢として500か月未満であると推定される個体は我々の言語の理解も早く、文化や生活への順応もした。
    ただ、言葉は「かじさま」しか発しなかった。

    その個体は地球のホログラム投影のアジアの島国をみつめる癖があった。
    青い中に緑色のものが浮かんでいれば多少気になりもするか、と拡大してやると操作を見て覚えたその個体は自分の指で西部にある特定地域を拡大し、次に人口密集地である地域を拡大してぼんやりと眺めた。
    「かじさま」
    私はふと思い、上に行動許可を取った。


    地上の汚染は自浄作用により浄化され、酸素供給機器の装着なしで行動ができた。
    適当に並べた衣服から白いインナーと黒いコートを選んだその個体に靴を履かせ地上に下ろした。
    今日現在ですぐに降下できる場所が西部よりも東部であったためそこに放ちGPSと地形変換機でその行き先を見守る。
    何時間も何日も、途中で強制休眠による補給と休息を与えながらその個体は活動した。
    その個体がたどり着き、遠くではなく近くをきょろきょろと見始めたのは人骨の密集はそれほどでもないが、かつて栄えたとされる地域だった。
    その個体はわずかに残るコンクリート製の瓦礫や金属板をひとつずつ見て回り、それから数時間後、我々に新しい発見を齎した。

    体力切れにより崩れ落ちたその手にはレトロな記憶媒体が握られていた。

    中の基盤と記録媒体の本体部分を抜き取り洗浄とデータの取り出しを試みる。ふしぎとそれは状態がよく特に苦労はなかった。
    復元されたそれを、私の判断でその個体にだけ先行して視聴させた。



    『あー、ビデオレターってガラじゃないんですけど…これを見てる頃には、僕はこの世には居ないと思います。』
    投影されたのはこの生物の年齢としては年若いほうであろう男。この映像を視聴している人間に向けてのメッセージらしい。
    当然ながら言語が違う。解析も翻訳もされていないので私には内容がわからない。
    『これから、大きな賭けに行きます。僕なんかが立っていいのかなって思うくらい大きな勝負の舞台です。』
    体表を同色の黒い衣服で覆った”彼”はにこにことしながら話す。
    『僕の遺品は全部貸金庫に入れてあります。この勝負に行く前に門倉さんの家の鍵とか、もらった時計とか、全部そこに入れてきました。この映像も入れるつもりです。貰った物、ここに連れてこれなくてごめんなさい。』
    膝蓋骨のあたりに手を重ね”彼”は頭を下げた。謝罪の意なのだろう。
    『門倉さん。僕はあなたの事が大好きです。愛しています。貘さんを一番のまま、あなたを好きでいさせてくれてありがとう。』

    『僕を守ってくれた手が好き。その手でこれからの勝負に負けて粛清されても、僕はあなたが好きなままです。』

    『この後、貸金庫の事は門倉さんに伝えます。でもあなたは全部そのまま処分しちゃうかも。それでもいいです。』

    『でも、』
    ”彼”は一度項垂れ、また映像の冒頭のように笑いながら続けた。

    『門倉さん。あなたがこの映像を見つけたら、僕の勝ちですね』
    カドクラサン、というのはこの個体の固有名だろうか。「サン」が「サマ」と同じように敬称であるのなら「カドクラ」が名前であるのだろう。

    その映像ファイルはそこで終わっていた。ほかにも記憶媒体の中にはファイルが存在しているが、そちらは解析と翻訳に回している。
    さて様子はどうだろうかと隣に座っている個体をちらりと見る。
    その個体、いや、彼は笑っていた。うっすらと、それでいてポジティブな感情をその顔に浮かべている。

    「梶様の勝利です」

    普段赤ん坊のように「かじさま」としか言わなかった男が初めて明確に言葉を発した。
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    トーナ

    DONE初門梶SSですが、門倉さんあまり出ません。すいません…。

    裏ver書きたい。
    僕の秘密

     門倉さんに秘密にしていることがある。それは門倉さんがいない間に僕が彼のシャツを独り占めしてることだ。僕と門倉さんは恋人同士で今でもどうしてこの関係になったのかもわからない。きっかけはたぶん、プロトポロスでの出来事だろうと踏んでいる。お付き合いしてだいぶ経った頃に彼がある日仕事が長引いてなかなか会えなくて寂しくなった僕は洗濯物に混ざっているシャツを見つけた。シャツから香る門倉さんの匂い。たばこと体臭。最後に嗅いだのはいつだったか。そしてふと思いついて、実行すると寂しさが解消された。
     
     その日も僕はあることを始めた。洗濯せずに取っておいた門倉さんのシャツを抱きしめながら眠る。彼と一緒に暮らすようになって、いつしか彼の存在がそばにあるのが当たり前になっていた。だから、会えない間はそばにいないと僕は胸に穴が開いて落ち着けなくなってしまう。
    「…門倉さん」
    僕より大きいそのシャツから嗅ぎ慣れた匂いがした。その匂いがあるだけで門倉さんがいるんだと錯覚できる。だから、よく眠れるようになる。胸のあたりに顔を埋める。今は薄っぺらいシャツだけの感触しかないけど、ここには彼のたくましく厚い 1001