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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    たまごのおじさんとご飯を食べています

    マルコと謎賭郎の人たちがどうやらマルコをかまってくれている。

    そう気づいたのは、洗濯に出たマルコのデニムのポケットをつい癖で探っている時の事だった。
    ホテル滞在中はクリーニングに出すからそんな洗濯機前の主婦のような事をしなくていいと貘さんには言われたが、
    戻って来た服の上にきっちりと袋に入れて返却された小銭やいい感じの石(マルコ曰く)を見ると流石に申し訳なくなってしまうのだ。
    そしてなぜ、かまってくれているというのに気づいたのかというと、貘さんのお供として本部に連れていかれた日にマルコの小遣いから少し超えるくらいの価格帯の飴や何かのおまけなどが出てきたのだ。
    買ってもらったのかな、と最初は特に気にしていなかった。しかしそれが何度か続き、ちょっとこれはな…と貘さんにマルコへおやつを与えることについて話をしに行ったら「なにそれ知らないけど」と言われた。
    知らないと言われればそれまでだ。何より貘さんも「マルコにお金あげてたっけ?」と首をかしげていた。お使いのつり銭を貯めていた様子もない。一人でどこか店に行っているという事も無いのだ。
    それからもポケットに謎のお土産は入り続けた。そしてある日、お茶犬のマスコットがぼろぼろと出て来た。
    マルコがこんなにペットボトル飲料を買うわけがない。喉が渇けば「お水をもらうのよ」と近くにいる黒服に声を掛けてからウォーターサーバー(最近覚えた)から水を出して飲んでいるくらいだ。

    これは、誰かに貰っているな?
    とりあえず先に救出できたことにほっとし、ソファーで爆睡しているマルコがすぐに気づけるように目の前のローテ―ブルにお茶犬たちを避難・着陸させた。
    ポケットの中に仕舞っていた物が人から貰った物ならばまあいいだろう。マルコの行動範囲はほとんど貘さんと同じだし、マルコだって知らない人から物を貰ったり食べたりはしないはずだ。
    なんとなく気になったが、別に悪い事をしているわけでもないしマルコに聞けばいいか…
    と思い続け、一週間が過ぎた。

    そんなことも考えていたなあ、と別行動のために一人で宿泊していたホテルで急に思い出した。
    翌々日、賭郎本部に寄った際にマルコが休憩スペースで一人で昼食を食べていた。なんとなく、なんとなく遠くから観察してみることにした。
    ようやく達者になってきた箸握りでせっせと具を口に運んでいるが、どう目を凝らしても器の形状からしてカレーライスだ。
    何故箸で食べているのか、スプーンを貰えなかったのか、なんて運が悪いんだ…と思いながらも観察していると、最上さんのところの女子軍団がやってきた。
    マルコに対しては特にこれといった感情もないらしく「何食べてるんですかあ」「お一人ですか?」などと友好的に扱われている。正直ちょっとうらやましい。
    常に腹から出ている声で「カレーなのよ!」と聞こえた。やはりカレーらしい。それを見たうちのひとりが「スプーンで食べればいいのに」と言った。よし、よく言ってくれた…

    「貘にいちゃんがごはんくれたけど、おはしだったのよ。でも貘にいちゃん忙しいからマルコはこれで大丈夫」
    ほら、食べられる!とでも言いたげに白米にルーを絡めて口に運んで得意げにしている。うっかり僕にも母性が芽生えそうになった。
    女性陣はそれをみてどうにかしてやりたいという方向らしかったが、誰もスプーンなんて持ち合わせていない。そりゃそうだ。何ならこの人たちは今立ち合いから戻ってきたところなんだから仕方がない。
    ごめんなさいね、と声を掛けられるのにニコニコとしながら首を横に振るマルコを見て、本当にいい子だなあ、なんて思う。

    いつまでものぞき見をしているわけにも行かない。数日ぶりに顔を合わせるのだから、食事中ではあるがちょっと話くらいしたかった。
    「マル…」
    観葉植物の影から出ようとした僕の脇をスっとスーツの裾が通り過ぎていく。

    「…一人なのかな」
    通り過ぎざまの頬に浮かぶふわふわとした羽毛のような影、その人は声を掛けるより早くマルコの前に立った。
    「まなべもごはん?」
    「ああ、少し残務処理に手間取って食べ損ねてね」
    「マルコもちょっと昼寝で忙しくって…」
    「何よりだ」
    他にもテーブルは空いているのに何の疑問もなくマルコと同じテーブルに着く。小脇に抱えていた包みを開いて、中に入っていた卵を弁当箱の淵で割った。
    「ところで何故箸でカレーを?」
    「貘にいちゃんが忙しかったから」
    「なるほど。まあ食べられないわけでもないだろうし…」
    「うん」

    なんとも奇妙な世界観に迷い込んでしまった、そんな気分だった。
    マルコが人懐っこいというのはあるにしても、いつの間にこの二人は普通に会話する距離感になったのだろうか。
    うーん、と目を伏せて唸っていると何かがパキパキと割れる音がした。
    マルコのいるテーブルに目を戻すと、真鍋さんから「ありがとう」と何かを受け取っている所だった。
    そう、それが、それこそが件のマスコットだった。これで出所がはっきりとした。お茶のおまけだったのだ。
    別にそんな大事件でも何かの疑惑があったわけでもないが、疑問が一つ解消されただけなのにとても胸がすっとした。
    ペットボトルに付属させるための外装ビニールをバリバリと開封し、マルコはテーブルの上にマスコットを置いて人差し指でマスコットの頭を撫でている。
    「気にったのかな」
    「うん…耳が葉っぱで不思議なのよ」
    水中で酸素の入ったタンクを拳で砕いた人とは思えない。廃ビルの悪魔と呼ばれた男だとは思えない。彼らをしらない人にそんなこと言っても誰も信じないだろうと思うくらい穏やかな光景だった。

    ひとしきりマスコットを撫でた所でマルコがふと顔を上げ、梶とばっちり視線を合わせた。
    「カジ!まだ椅子あるよ!どうしてさっきからそんなところに?」
    「え!?」
    「パキラに隠れるのは子供でも無理があると思うよ」
    「う…」
    梶本人は気にも留めていなかったが、正面から見れば身を隠せている面積など幹のぶん程度だった。
    マルコに手招かれ、梶は照れ隠しに頭を搔きながら着席する。
    「あっ」
    真鍋が持参したその包の中、そこにある袋を見て梶は思わず指さした。
    「ん?欲しいのかな」
    テーブルの中央に昔懐かしいキャンデイの袋が押し出される。マルコのポケットから出て来た飴のそれだった。
    「なんとなく買ったけど、減りが悪くてね」
    一気に二つの疑問が片付いてしまった。という事はマルコは本部に行くたびにこの人からキャンディを貰っていたのか?また別の疑問が出て来た。

    「お姉さんもひとついる?」
    無造作に袋に手を入れ、マルコが手のひらの上に乗ったキャンディを数える。
    「あ、マルコ勝手に人の物を…」
    真鍋が梶を制してふるふると首を振る。
    お姉さん、とマルコがキャンディを握った手を差し出した先には三鷹さんがいた。
    三鷹さんはマルコの手の下に手のひらを出してキャンディを受け取ってくれる。入れ替わりに懐に手を入れて、何かをマルコに握らせた。
    「使いな。あんたたちも不便してるのを放っぽってるんじゃないよ」
    ふん、と踵を返して去っていく背中にマルコが「ありがとー!」と声を掛ける。
    ぶんぶんと振るその手には先割れのプラスチックスプーンが握られていた。

    ようやくスプーンを手にしたマルコはすっかり粒と崩れた白米を集めて頬張る。箸で食べるよりもさすがに早くあっというまに弁当箱の中身が片付いていく。
    昼下がり、これ以上ない平和な光景だ。たまにはこんな穏やかな時間もいいかもしれない、と梶は勧められた飴を口に入れた。




    「まなべはもうお仕事おわり?」
    「いや、このあと取り立てだよ。人主を募って負けたんだが、会場が崩落してしまってね。ようやく身柄を回収できたからこれから拷問しに行くんだ」
    いや、全然穏やかじゃなかった。



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