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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    門梶 童貞地獄変気づけば年齢も20代半ばも後半に差し掛かり、俗にいう魔法使い一歩手前になっていた。
    幸運にも恋人を得、独身ではない。しかし魔法使い一歩手前という表現からどうにか察して欲しい。
    当方おっぱい経験あり、ちんこ経験なし、尻穴終了済み、といったステータスである。純潔とは言い難いが、魔法使いに近いのは確実といっていいだろう。
    しかしそれはなかなかに受け止めがたい現実であった。男に生まれ棒を持って生まれたからには、どこかの穴に入れてみたいものだった。
    しかし表の世界の女性とは縁がなく、唯一縁ある女だったのが母でありそれへの信頼はもうほとんど無いに等しい。
    かといって、同じ世界の女性に近づいたりもしづらい。狭い世界というのもそうだが、こちらから接触したとしても「手を出す」ではなく「捕食される」に近いのだ。
    別に一生涯童貞だったからといって死んだりはしない。が、世間一般のものとして童貞は卒業するものというのがある以上、いつまでも留年しているのも辛かった。

    「…よし」
    心の準備はとうにできていた。あとはシティヘブンを開き、「都内」など諸々をクリックするだけ―――

    *
    「ここか…」
    見つけるまでに一度通り過ぎた。ギラギラとしたネオン街の中では、いくら電飾がついていても目立つものではないのだろう。
    タクシーで最寄りの停まれる角までは来たものの、目的地が歩行者限定の場所中にあったため初見では見逃してしまった。
    もっとけばけばしく品のない店構えを想像していたのに案外シンプルで、他の店のようにしつこく絡むキャッチのようなものも見当たらない。
    本当にここ?と看板と携帯とを交互に見比べていると、入口横の窓がある所から男が出て来た。

    「ご予約ですか?」
    「あ、はい」
    腕に屋号が入った腕章をつけたスーツの男は梶を地下へと促した。
    ワンフロアぶんほど降りたところで待合室となり、男がカウンターで台帳を開く。
    ホームページにあるよりもっと多くの嬢の写真が飾られていて、次があるならここで選ぶのもありかもな、と写真を眺める。
    予約ナンバーを伝えると時間と予約した嬢の名前を告げられ、はいその通りですと返事をする。
    爪や皮膚の状態をスタッフに目視確認され、口腔の状態や病気の有無などをチェックシートに記入するようにクリップボードを渡される。しっかりした店だという印象を受け少し緊張が和らいだ。
    名前はいいのか?と思っていたが、記入欄があった。予約する時に名前を入力したから、これで確認とするのかもしれない。
    返却したクリップボードの情報を入力するタイプ音の中で予約の時間までを作りのいいソファーに座ってじっと待った。
    不思議と心は凪いでいる。「ここまで来たぞ」という、チェックポイント通過のような気持ちだからかもしれない。
    元々のものより少々予算を上げ、完全個室タイプの店を選んだ。プレイルームたる個室と待合室の距離はそう遠くはないようだったが先客の気配はするが物音はしない。
    よし、よし、と己を奮い立たせる。いける、いけるぞ。

    座っているソファーの後ろを人が通る気配がする。衝立の向こうに別の出入り口があるらしく、地上に出る階段の手前までその客の姿は見えない。
    ペタペタとスリッパの音が遠ざかり、部屋があるほうでドアが閉まった。今のがスミレさんかもしれない。
    黒髪ワンレン、お姉さん系、巨乳、27歳なので2歳程度ではあるが実質お姉さんだ。あまりにも上だとちょっとやりづらいので、お姉さんキャラにしている人を選んだ。
    まずはスタンダードっしょ、と欲張らずにストレートなコースにし、内容が想像できる分余裕ができるかと思ったが胸の中の大海原は満ち潮で荒れ始めて来た。

    「お待たせしました、お部屋へどうぞ。7番ルームです。」
    スタッフがパーテーションの向こうのドアへ梶を誘導する。普通のスーツだからしょうがないが、賭郎の黒服に案内されているようでそわそわとした。
    よし、このドア一枚開けたらスミレさんがお出迎えしてるんだ。
    梶は深呼吸をし、足元を見て落ち着こうと努めながらドアノブを引いた。
    ドアを開け、一歩中に入った。
    はずだ。
    額が思い切り何かにぶつかった。パーテーションであるにしては、柔らかい。スミレさんにぶつかったにしては、固い。

    「ご指名ありがとうございまァす、雄大です♡」

    「――――――――――――ッ!?!?!?」

    思わず出た絶叫を見慣れた白手袋が塞ぐ。
    「お客様、大きなお声は困ります。興奮されるのは分かりますが、お部屋まで我慢してくださいね」
    鼻までを大きな手でふさがれて窒息しかける。腰を支えられもがく脚が空転し、背後でドアを閉められたのだけはわかった。
    「こういうお店は本名で予約するものではないですよ、梶様 」
    「…ぶはっ…!は!?スミレさん予約したんですって!!てか何で!?」
    「スミレは黒髪ワンレン、年上巨乳、今年31なのでほぼ私ですね。さあどうぞ。私も30代になりもう数年ですので年上といって十分でしょう。」
    「は!?は!?は!?は!?」
    「ボキャ貧じゃのお」
    31!?27って書いてあったけど!と言う間も無く、スタッフが言っていたよりももっと奥深くの個室に引きずり込まれた。
    胸ポケットに突っ込んでいた裸の紙幣の出番はなく、しかし金玉は空っぽにされた梶はそのまま門倉の車で門倉の家に強制送還されたのであった。

    *
    その後も梶の果敢なチャレンジは続いた。
    「いらっしゃいませェ 」
    「240分とは奮発しましたね」
    「即尺ですね~」
    「私の為に開発とはなんといじらしい…」
    「こういう店は本番できませんよ」
    ソープランド、セクキャバ、ピンサロ、M性感…ジャンルを変えても、新宿から鶯谷まで行っても、どこにでも、すぐにでも又はいざプレイというタイミングで門倉が現れた。
    何故乗り気なのかはわからないが、それらしいセリフまで付けて梶を出迎えたり、迎えに来たり、そしてその後は必ず最後の一滴まで搾り取られてから自宅に連れ去られた。
    ”次こそは”という再戦の精神で知能が下がり見失っていた事だったが、予約していてはバレるのでは?と気づき飛び込みで行った店でも確保される始末だった。


    事後、スパーッという効果音付きで盛大にタバコを吸われる。煙を避けようと寝返りを打ちたくても、もう下半身の感覚が無かった。
    今日も今日とて、挑んでいた。そして案の定捕獲され、送還され、今に至る。素人童貞にすら慣れないのか僕は。
    「ええかげん諦めたらええのに」
    さっきまで人のちんこを握っていた手でぽんぽんと胸をなだめ叩かれるが、全然慰めにならない。
    「そっちこそ、いいかげんやめてくれませんか…」
    「なんで?コスパええやろ無料ヌキ放題プランやぞ?」
    いいものか。行き着く先にスッキリがあろうともその過程があまりにも違いすぎる。失礼は承知で言うが、天国と地獄だ。
    「私はそんなに狭量なつもりはないですけどね、恋人がお店さん行って女に施されるっていうのを無視できるほど枯れてもないんですよ。もったいない。」
    門倉さんは僕の上に腕を伸ばし、サイドテーブルに置いた自分の財布から二万四千円を抜いて僕の手に握らせてきた。今日の店の受付で先払いしたのと同額だった。
    「大体気づかないんですか?おかしいな、とか、なんでだろう?とか…下半身に血が集まりすぎて冴えの片鱗もないのは残念です」
    「気づくって…何―—」

    そういえば、女の子もいきなり部屋のドアを破られて門倉雄大のような巨体が押し入ってきたにもかかわらず「あら」と言ったくらいで梶から離れた。どこの店でもそうだ。
    それどころではない。プランや、飛び込みの時ですら氏名した女の子まで把握されていた。
    「…なんで、僕が居る店とか分かったんですか?GPSは付いてるとしても…そんなに直ぐに来れます…?」
    おかしい前提はもうこの際良い。携帯の盗聴?それとも受付の男がみんな舎弟?あらゆる追跡と伝達の可能性が頭の中をめぐる。

    「だってワシがやっとる店ばっかだもんで」
    「へ?」
    「副業ですよ副業。本チャンはこれとは別にあるんですがね、ある潔癖な会員が獲得した権利を放棄して好きにしろと言ったもので…」
    「だからって…引き継ぎます…?」
    「立地もよかったですしね。下位の女入れ替えてバック上げて単価上げて、そうすれば客層も上がるもので。おかげ様で新規店舗も調子いいですよ。」
    理屈に理が通っている。安い店には安い客、安い店には安いキャストしか付かないから、単価を上げてしまえばいいのだという話だろう。
    「ん…?じゃあ全部?え?」
    「名前は変えても電話番号は同じですしねえ」
    「は、えっ…何…?」
    「どこまで行くのかなと思いまして」
    ここまで来て、ようやく鳥肌が立った。で、その後全身が燃えるように熱くなった。
    「梶様を掌の上でコロコロするのが、嘘喰いだけだと思いました?」
    ただ、絶句だった。

    「永久名誉童貞梶様、これからもどうぞそのままで… 」
    とっつかまった腕の中、もはや逃げようという気力も起きなかった。
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    トーナ

    DONEいとしい傷痕の対となってる門梶です。疵に贈るキス


     深夜に目を覚ました梶が最初に気づいたのは裸の背中に当たる大きな存在だった。梶の背中を覆うようにして眠る門倉がすぐ隣にいる。よほど深く寝入ってるようで寝息が耳元に当たる。そっと見上げると普段は鋭い隻眼が閉じられた、穏やかな寝顔があった。思いがけなく跳ねた胸の鼓動を宥めつつ、貴重な時に起きられた自分を褒めた。眠る門倉を見るのが小さな喜びであり、楽しみだった。
     ゆっくり身体の向きを変えて門倉に向き合う。前髪の分け目から見える、皮膚を抉ったような大きな傷痕。梶が雪出との勝負に負けた後に出来たものなのだと聞いた。傷が元で人格や体調に影響が顕れている。プロトポロスで見せた片鱗はたしかに門倉ではない、『なにか』だった。手を伸ばして優しく撫でる。起きないのを逆手に取っていたずらに指を這わせる。


     最初に出会った時とは違うかもしれない。それでも、根幹は門倉なのだと思う。梶は彼が普段から『なにか』を抑えつけているのをひそかに感じ取っていた。梶の前ではなんでもないように振る舞う。そんな彼を前に自分も知らないフリをした。何も出来ないのがもどかしかった。
     感触を感じるのか、眉間にしわ 615