Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

    ☆quiet follow
    POIPOI 147

    ヒロ・ポン

    ☆quiet follow

    真鍋とマルコと梶。仕事場で卵をゆでるな

    給湯室にて「まだ?」
    「まだ」
    「…」
    ああ、ここは安全だ。とくに確信はないが、梶はそう思った。

    マルコが本部に設置されている給湯室に居ると言うので、迷子にでもなったかな?と探しに来た。
    カジ!どうしたの?と迎えられたその横には真鍋さんがいて、二人の手元では1パック分はあろうかという量の卵が茹でられている。
    「真鍋さんのゆで卵って、本部で作ってたんですか?」
    「ああ…そういう時もある。このところ遠出の立会への同行が続いたから卵を冷蔵庫に置いていなかったんだ」
    いや、だからって本部で茹でる?素朴な疑問がわき出す。
    「マルコはわいろをもらう」
    「賄賂!?ダメだよマルコ!賄賂はメッ!」
    「そ、そうなの?まなべはいいって言ったけど…」
    「まあ、警察に居たら往々にしてあるものだよ」
    慣れちゃダメでしょ、と言うのも疲れた。
    マルコが迷子になっているのでは?と思ってやってきただけだった僕はマルコが迷子でないのなら特にする事も無く、なんとなく鍋の中の卵を眺める。
    大の大人二人とXLサイズの子供一人、並んでただ卵が茹で上がるのを見ている。
    マルコに箸を持たせた真鍋さんは指で「こう」と示し、マルコがそれに従っておそるおそる鍋の中をかきまぜる。
    そしてまた鍋を眺め、タイマーが鳴ったと思ったら真鍋さんはお湯を捨て、大量の水に卵を晒した。
    「今日は半熟の気分なんだ」
    大量の蒸気を上げるシンクで何度か水を足し、流し、を繰り返す。冷やしているのはわかるがそれが温泉卵の成功にどうつながるのかはいまいちわかっていない。
    「ねえまなべ」
    「何かな」
    僕を置いてけぼりにしている二人がのんきに会話をしている。
    「マルコはこのあいだ、マヨネーズが卵と油だってわかったよ。じゃあ、卵にマヨネーズをかけたら、卵がとっても多くなる?」
    「…いい目の付け所だ。じゃあ、味噌汁、豆腐、醤油、納豆の食事は大豆だらけという訳かな。全て大豆から出来ているものだ」
    「ハッ…これは…?気づいていいこと…?」
    「ああ…消されないように気を付けるといい…」
    「マルコは…強くならなきゃね…」
    「そうだね」
    真鍋さんは流水を溜めながら軽く鍋を振り、ぶつかった卵がガシャガシャと音を立てる。
    ひとつを手渡されたマルコは既に入っている罅にそっと深爪の先を入れ、おそるおそる殻を剥く。
    真鍋さんは手慣れた様子で淀みなく殻を割って行き、現れた卵の素肌をちゅっと吸うととろけた黄身が現れた。
    「わっ、温泉卵だ…」
    すごい。素直に感心した。真鍋さんを挟んでマルコといっしょになって感動した。
    真鍋さんは高そうな時計が濡れるのも構わず冷水の中からもう一つ卵を取り出し、今度は僕に握らせてきた。
    「君も共犯だ」
    ほんの少しの力でぺキ、と割られてしまった殻から白身がこぼれだす。これはもう、ここで食べなきゃいけない。
    「警察の手口、こわいですね」
    「こんなことや、冤罪だってお手の物だよ。君も知っているだろう」
    そうっすね…と苦い記憶を思い出しながら、僕も白身をちゅるりと吸った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works

    トーナ

    DONEいとしい傷痕の対となってる門梶です。疵に贈るキス


     深夜に目を覚ました梶が最初に気づいたのは裸の背中に当たる大きな存在だった。梶の背中を覆うようにして眠る門倉がすぐ隣にいる。よほど深く寝入ってるようで寝息が耳元に当たる。そっと見上げると普段は鋭い隻眼が閉じられた、穏やかな寝顔があった。思いがけなく跳ねた胸の鼓動を宥めつつ、貴重な時に起きられた自分を褒めた。眠る門倉を見るのが小さな喜びであり、楽しみだった。
     ゆっくり身体の向きを変えて門倉に向き合う。前髪の分け目から見える、皮膚を抉ったような大きな傷痕。梶が雪出との勝負に負けた後に出来たものなのだと聞いた。傷が元で人格や体調に影響が顕れている。プロトポロスで見せた片鱗はたしかに門倉ではない、『なにか』だった。手を伸ばして優しく撫でる。起きないのを逆手に取っていたずらに指を這わせる。


     最初に出会った時とは違うかもしれない。それでも、根幹は門倉なのだと思う。梶は彼が普段から『なにか』を抑えつけているのをひそかに感じ取っていた。梶の前ではなんでもないように振る舞う。そんな彼を前に自分も知らないフリをした。何も出来ないのがもどかしかった。
     感触を感じるのか、眉間にしわ 615