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    ヒロ・ポン

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    ヒロ・ポン

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    お前が悔い改めろ

    門梶:懺悔室の男ゴンゴンとドアを叩く音がする。
    「どうぞ~」
    ボイスチェンジャーを噛ませてあるマイク越しに入室を促すと、何かが破壊された音の後に「おじゃまします!」
    とおそらくドアの板を退かしながら人が入ってくる。
    その時点でもう誰か分かったので、「ノックをして偉いな」という気持ちになった。
    「こんにちは!マルコです!」
    「匿名ですから名乗らなくていいですよ」
    「特命!お正月にやってたけどあれはマルコにはまだ早いってカジが見せてくれないよ」
    「それは係長の方ですね。ご用件は?」
    「えーっと…」
    なにやら紙が擦れる音がする。
    メモをしてきたのかもしれない。「メモをしてきてえらい」という気持ちになった。

    ここは賭郎懺悔室。こちとら自販機よりタッパがあるで御馴染みだというのに、こんな電話ボックス一個分の空間に押し込められて気分が悪い
    立会人同士でちょっとしたどつきあいからの奥歯の飛ばし合いなどをしてしまったばかりに両成敗され、
    今休憩室には同じ箱が2つ並んでいる状態だ。
    ドアは業界最大級たどう南京錠で封されている。
    古参を怒らせるとこうなるというのを学ばせるために生きた教材にされたといわけだ。
    それが何故懺悔室として扱われているのかはしらない。
    多分外にそう貼ってあるから人は懺悔するのだ。

    賭郎所属とはいえ、妻帯者も介護人を抱える人間もいる。
    人生の不安やちょっとした浮気や家計の使い込み、休暇中の同僚のロッカーでもやしを栽培した事…
    最後のは弥鱈だったので後でシバかないといけない。
    この門倉のロッカーをこじ開け、下段でもやし、上段で食った後の人参を再生させようとしていた犯人だからだ。

    職務外の事をこぼす先がないのか、匿名だからと油断しているのか、とにかく個人情報が洩れに洩れている。
    立ち合い以外の情報などどうでもいいのかもしれない。
    喫煙可であるのが救いだが、換気などが一切考えられていない棺桶構造のため自分の副流煙で酸欠になりかけた。
    「えっとね、待つよ、マルコはメモをしてきた…」
    それを見せてくれた方が早い気もするが、終業時間まで人が開店するのも面倒だったので時間稼ぎと思って待ってみる。
    「マルコはお使いを頼まれるんだけど…最近物が値上がりをしている」
    「世知辛いですね。昔は消費税が3%だった時もありましたが」
    うんうん、とうなる声が聞こえる。理解しているのかどうかはしらない。
    「だからもらうお金も増えたよ。するとマルコのお駄賃も増える。これを差額という。」
    「はあ」
    「マルコはカリ梅のおつかいをして、おつりをもらってアメを買ってポテチを買う…もらうお金が増えるとおつりも増える…」
    「良い事じゃないですか。労働しているのですから貰っておけば」
    どうせ見えてないしな、と新しいタバコに火を着ける。部屋の中がまた一段階濃く霞むが、もうどうでもいい。
    「おつりが増えるとマルコはポテチをもう一つ買う…カジは一日一袋というけど、マルコの手にはポテチがふたつある…マルコは食べてしまう…」

    いや、おふくろさんかて

    率直な感想はこれだ。
    いくら精神的には男児とはいえ、いい歳の男のおやつをいい歳の男が管理すな。
    好きなだけ食えばええ。
    「えー…自制心が足りないのがお悩みという事でよろしいでしょうか?」
    「そう…門倉なら我慢できる?」
    いや、バレとんのかい
    「そうですね、縦社会ですから上からダメと言われればそれまでの暮らしですので。まあポテチくらい」
    「門倉はすごいのよ…」
    「どうも…」
    「わかった。マルコは我慢できない。ばくにいちゃんに我慢をするように言ってもらうのよ」
    「梶様ではもう効かないと」
    「うん」
    歯切れよく言われてちょっと梶様のことがかわいそうになる。
    母親よりも祖父母からの一言の方が効くような物だろうか。

    一応の解決はそれでいいらしく、マルコは礼を言った後に戸板をガタゴトと動かして出て行った。
    監禁時間の終了まであと15分といったところだった。
    煙草の箱の中にはあと二本しか残っていない。体感する一分が永遠にも思えた。
    そうこうして、あと残り5分という所でノックされた。ドアが開くまえに舌打ちをしておいた。

    「うわっ壊れてるじゃん…僕じゃないよな…」
    思わず立ち上がりそうになった。梶様!と内心で声が出た。
    「どうぞ…」
    何を懺悔することがあるのだろうか。隠し事はすぐに暴かれ、経歴は賭郎に調査されつくし、銀行口座の額面すら筒抜けのこの男に。
    「いやあーその、結構ぼかして言うんですけど…」
    「どうぞ。実名を出さない程度でしたら具体的にでも」
    「あ~…やめてと言ってもやめてくれない相手にどうしたらいいのかな~って…」

    なんだ、子供の喧嘩のような事を言う。拍子抜けした。
    何か弱みでも吐いてくれれば面白いのにと思っていたところで肩透かしを食らい、新しいタバコを咥える。
    「絶対に嫌!とか禁止!とかそういうのじゃないんですけど、こういうのって結構言うの難しいじゃないですか。こちらも嫌と思ってじゃなくてちょっと待ってくれたらくらいの感じで言っているので、相手の事も傷つけたくないっていうか…」
    嫌に曖昧な表現をしてくる。そんなに浅瀬に特定できる要素があるのだろうか。
    「…?相手に暴力などをふるわれているということですか?」
    中々はっきりしない梶の物言いにイラつきさえ感じる。どんな相手でどんなやり取りがあるのかは知らないが、現時点では子供のチクりと同じ程度だ。
    「いや!暴力ではないです!なかなかしんどいですけど…ハハ…言ってもなかなか聞き入れてくれない…そんな感じで…」

    首をかしげるばかりだったが、頭の中でひとつ回路が繋がった。
    これは先ほどのマルコのことではないか?
    ならばこの話は解決が早いだろう。先ほどマルコにも言った事だったが、嘘喰いにでも言わせればいいのだ。
    なるほど、あなたの側がその人と対等の位置にあると思っていても、相手のそれとは認識が違うのかもしれませんね」
    「認識、ですか…」
    「マウンティングと言いますか、上下関係とまではいかずとも人は発言する力の強さで相手の言う事を聞くかどうかを判断していると私は考えます。」
    「僕じゃちょっと効力がないって事ですか?」
    「そうですね、あなたよりもより強い発言権を持つ人間に指導を依頼してはどうでしょうか」
    ここに至る道中で他人の相続問題や身辺の不安について聞かされてきた。こんな内容、吹いて飛ぶよりも軽い。
    うーん、と悩んでいる様子だった。壁のせいで見えないが、おそらく小首をかしげて困った顔をしている事だろう。
    「上の人っていうと、もうほんとに一番偉い人しかいないんですけど」
    「は…まあ、それも手でしょう」
    偉い人、と言うのは嘘喰いだろう。二人に相談されて頭の上にハテナを浮かべる様が見えて少し愉快だ。

    衝立の向こうでゴト、と椅子が動く、気は済んだらしい。梶が退出のために立ち上がった。
    「わかりました。ちょっと公私混同な気もしますけど、解決できるようにやってみます。」

    ありがとうございました、と梶様は言い残し、外れたドアをどけて出て行った。
    …ん?公私?
    無意識に煙草の箱を握る手に力が入った。久方ぶりに、背中に冷たい汗を感じた。

    「カジ、ざんげはもういい?」
    「うん。マルコ、今日もポテチ食べ過ぎちゃだめだからね」
    「お…!それはばくにいちゃんに言ってもらう事!」
    「え!?僕の言う事も聞いてよ!」
    「タバコくさいカジはダメ」
    「えー!あの人がめちゃくちゃ吸ってるんだからしょうがないだろ!絶対酸素ないってあの中…」

    「ちょっとは懲りたらいいんだけどな~…」

    *。
    「あの箱さ、絶対門倉立会人入ってるよね」
    「なかなかこんな機会ないから俺結構真剣に相談したよ。人に話すとスっとするんだな」
    「知り合いの警察関係者ってさ…」
    「わかる。真面目に聞いてくれて流石雄大クンだった…」


    懺悔室の前を通る男たちの声は、懺悔室には届かない。






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    トーナ

    DONEいとしい傷痕の対となってる門梶です。疵に贈るキス


     深夜に目を覚ました梶が最初に気づいたのは裸の背中に当たる大きな存在だった。梶の背中を覆うようにして眠る門倉がすぐ隣にいる。よほど深く寝入ってるようで寝息が耳元に当たる。そっと見上げると普段は鋭い隻眼が閉じられた、穏やかな寝顔があった。思いがけなく跳ねた胸の鼓動を宥めつつ、貴重な時に起きられた自分を褒めた。眠る門倉を見るのが小さな喜びであり、楽しみだった。
     ゆっくり身体の向きを変えて門倉に向き合う。前髪の分け目から見える、皮膚を抉ったような大きな傷痕。梶が雪出との勝負に負けた後に出来たものなのだと聞いた。傷が元で人格や体調に影響が顕れている。プロトポロスで見せた片鱗はたしかに門倉ではない、『なにか』だった。手を伸ばして優しく撫でる。起きないのを逆手に取っていたずらに指を這わせる。


     最初に出会った時とは違うかもしれない。それでも、根幹は門倉なのだと思う。梶は彼が普段から『なにか』を抑えつけているのをひそかに感じ取っていた。梶の前ではなんでもないように振る舞う。そんな彼を前に自分も知らないフリをした。何も出来ないのがもどかしかった。
     感触を感じるのか、眉間にしわ 615

    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
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    「聞こえていますよ。大丈夫です」
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    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
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    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
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    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173