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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    梶ちゃんが負けてファッキングマシーンにかけられるまでの話です(未完)

    門梶この女狐
    と、相手の身分が無かったら口にしていただろうか。
    小さく鳴る小型の機械の振動音に「こんなの初めて」というセリフが恋人から無防備に飛び出した。
    できればそういうたぐいの発言は全てこの、私の耳に吹き込んでほしい。
    そんな願いなど知ってか知らずか目の前では秘密の花園よろしく、なんとも言い難い内容の指南が繰り広げられている。
    花園とは言ったがそれはある角度からの物の見方による例えの話で、ここにいるのは全員成人して久しい男ばかりだ。
    「門倉立会人、穏やかではありませんね」
    おっと汗が。今日は湿度が高い。と夜行立会人に指された自分の額には指で触れてわかる程度の青筋が立っていた。
    穏やかでいられるはずがないのだ。

    自分の専属であり、ギャンブルの世界の外でも専属となった男が、相手の持つ資産の前に掛け金として自分の体を投げ出したのだから。

    *
    「次負けたら、俺は変態に好き勝手されちゃうみたいです」
    端的に、しかし的確な一言だった。その内容は文面通りで誤解を招く余地はない。
    それを聞いた斑目貘は梶の判断と報告を否定せず、よりよい結果につなげるためにといくつか助言をする。
    的にすると決める前から相手については既に調べ上げられていた。何を好み、何に興奮し、何を目的として何を要求するのか。梶も当然、それに目を通していた。
    この世界には金や地位を一生で使い切れないほど持ち、大抵のことに飽き、まだ見ぬ刺激を求めている人間がごまんといる。
    コンテンツと化したものにはいつか終わりが来る。ならば変わり続ける、その変化によって退屈をしのげるアイテムとはなんだろうか?考えるまでもなく人間だ。
    手に入れた人間に飽きればその時点で使い捨てのティッシュのようにどこかの路上に捨て、あとは我関せずの者もあれば、人間ひとりの人生自体を狂わせ続けもがく様をその心身が壊れるまで眺めて楽しむ者もいる。
    斑目貘とて、自分の身体やその自由を賭けの場に差し出した事はある。片手では足りないほどあった。今とりあえず五体揃って無事なのは、勝って来たからだ。
    その先輩として、というふざけた―――含蓄ある語り出しで始まったレクチャーに梶は真剣に聞き入った。
    げんなりとした恋人の存在など、その部屋にないかのように。

    春を売るには歳が行っているが、売り出し中の成り上がり若手ギャンブラーとしての彼のキャリアに”思い出”を残したいと思う大変趣味のいい会員やその他は少なくない。
    そういう輩は対象のプライドや精神に干渉することで興奮を得るのだから、年齢や外見にはあまり頓着しない。
    その相手次第を楽しめる人間ほどたちが悪く、贅肉をスライスして”ダイエット成功!”と遊んでみたり、不細工な顔に素人手のメスを入れて文具糊で貼って整形してみたりと、遊び方はいくらでもあるらしかった。

    が、この男は別だった。むさくるしい筋骨隆々でもなく、でっぷりと肥えた甘ちゃんでもない。食べた分の肉はあまり身についてはいないようだが、貧相すぎるわけでもない。
    今回の相手は明らかに梶の事を調べ上げていた。斑目貘を指名することもできたというのに、というと失敬失敬だがとにかく梶を指名した。
    この世界に身を置くまでの過程も、家庭環境も、それが生まれてから親元を離れるまでずっと続いていた事も、特に伏せてはいないとはいえ本当にすべてを知っていた。

    嘘喰いに見出された男はシンデレラかマイフェア・レディかと噂され、揶揄された。そして相手もそれを梶に対して投げつけた。
    的になるのも理解はできる。嘘喰いへの嫌がらせも含まれているのだろうな、と冷めた頭でぼんやりと考えた。
    梶は相手から寄越された調査報告書を流し読み、「まあこんなこともありましたけど」と突き返す。
    動揺を誘いたかったのかもしれないが、梶にとっては紙面にある事は単なる事実で、どこに隠そうという気もなくそもそもやましい事ではなかった。
    対戦相手の男はその紙を花束を抱えるようにしてかき抱き、彼が何やら宙に夢を見ているらしい間に背後に控えていた男がアタッシュケースからせっせと権利書の束を出す。
    門倉の頭には既にそれらのインデックスが全て入っていた。
    男は、何度も同じものを博打の机上に放り出す。そして毎回勝利し、相手を座る椅子ごと丸呑みするようにして楽しむのだ。
    改めての内容と肉筆であること等の確認のために手に取り、二人の間で慎重に目を通す。その間も書類の向こうでは男がじっとりとした視線で梶の肌を舐めまわしている。

    不意に男が椅子から立ち上がった。改める書類はあと数枚といった所だった。
    指示せずとも、黒服が梶と対戦相手の間に割って入る。人の盾となった黒服たちを挟んで梶と男がにらみ合う。もっとも、男からすれば甘い見つめ合いなのかもしれないが。

    「脱いで体をこちらに見せてほしい。」
    「…は?」
    立ち合い中にあるまじき失敬、とその場で改めるべき声が出た。
    「改めてもいいだろう?私の賭けるものは確認したはずだ。それと天秤に乗せていいかどうかを確認したい。」
    男はまだ梶には触れていない。男の言い分も、不快ではあったが正統だった。梶も黙したまま。これは”立会人”の判断を待っている。

    「梶様への接触は禁止です。まだ成立はしておりませんので、何か確認事項があれば梶様に明瞭な言葉で伝え、合意の上で動いていただくようにしてください」
    立ち合いに私情は挟まない。だからこれはもっともな釘刺しである。梶は負けても居ないし、モノになったわけでもない。
    ショーケースの中の宝石は、手袋をした手に取りだされなければ触れてはいけないのだ。
    「それじゃあまず上を脱いでもらおう」
    「…」
    梶は、上半身にインナーもなく纏っていた黒いシャツのボタンを外した。いつもは鎖骨の下まで見えているくらい大きく開いている襟元が今日はきっちりと閉じられ、ボタン二つ分時間がかかる。
    胸の下のボタンまでを外した梶はそこで袖のボタンに手を逸らす。右、左、と男の目が梶の手を追う。
    スラックスの腰から引き抜かれたシャツの裾のボタンまでをいやに時間をかけて外し、とうとう袖から腕を抜いた。
    ―――まるでストリップだ。
    普段の色気もクソもない様を思い浮かべ、それがどれだけわざとらしい物なのかと思う。嘘喰いの指導の賜物であった。
    焦らすというのは何事にも使えると笑う大狐が梶をどんな気持ちで送り出したのか想像もつかない。
    さらけ出された梶の身体はきちんと男の骨格をしている。脂肪らしい脂肪はないが、アバラが浮いているわけでもない。
    男は見るからに興奮していた。梶のバックボーンと、嘘喰いの子飼いであるという事と、自分の間違いない勝利、そしてその末にこの肉体を手にすることに。

    「あの、寒いんですけど。」
    眉間にしわを寄せる梶を無視して男は梶の周囲をぐるぐると歩いて回る。男が梶の向こう側に立つということは、自分の視界にその正面顔が入る。男の目線がどこを見ているかがわかってしまうのが本当に嫌だった。
    よし、と男が膝を打つ。提示されたのは賭け金の上乗せだった。
    「私が勝てば、」と出された最終的な要求は、梶の目を大きく開かせた。

    *
    結果だけを端的に言えば、梶は負けた。タコ負けだ。感知されないイカサマというものにまんまとからめとられたのだ。
    なんと情けない事かとため息をつこうにも、背後から迫る車輪の音に無意識に息が詰まった。
    「それじゃあ見せてもらおうかな」
    梶は部屋に貼られた布の向こうに連行される。本当に趣味が悪い。対戦の最中からそれは横に控えていた。常に梶の視界に入っていたのだ。

    形状としては分娩台、用途としては拷問椅子。しかしこの椅子は血を浴びない。本当に悪趣味だと舌打ちが出かけた。
    きついピンク色の合皮とエナメルとそれから金属で作られた椅子は座面に大きな穴が開いている。
    男の指示通りに人が動く。椅子の穴に配線が通され、座面の穴の真下には下品な玩具が固定された。いわゆる、ファッキングマシーンだ。
    固定する面と本体の大きさが馬力と機能を物語る。立ち合い中でありながら、自分だってまだそんな事はしたことがないと憤慨したくなった。

    見たくも無かったが、男の勃起が限界であろう具合に達した頃合いで梶が戻って来た。
    「準備、終わりました」
    黒服や医師に引きずられるわけでもなく検査着のようなものに着替えた梶が自力で歩いてきた。ほんの少しだが、歩き方に違和感がある。
    「…お待たせいたしました。それでは…”執行”とでも致しましょうか」
    「そうだ、執行とは良い。センスがあるな立会人!」

    (続かない)
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