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    ヒロ・ポン

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    ヒロ・ポン

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    門梶

    嘘をついたら愛してね「簡単なゲームをしましょう」

    目の前に出されたカードはもちろん、封を切られていない。開封済みのカードでなど受けるわけがないのだから当たり前といえばそうだ。
    「いいですよ…立ち会う人、いないですけど」
    「構いませんよ。これは私と梶様の私的な戯れですので。手遊び程度に思って頂ければ」

    門倉さんはジョーカーを抜いた52枚セットをまずシャッフルした。僕はそれがばらばらと門倉さんの両の手の間を飛ぶ間にそこにジョーカーを差し、それも含めてまたシャッフルする。
    そしてひとかたまりに積まれたトランプの一番上をまず、門倉さんが取った。
    「簡単なものです。この、自分で引いたトランプの数字を当ててください。当てれば相手の望みを聞く、というものです」
    「望みの幅は?」
    「そうですね。道徳に反さず、ここからの道具類の手配を要さず、この部屋で完結するものでしょうか。」
    「門倉さんに肩を揉んでもらうとか?」
    「結構。勝者のリクエストは勝敗の決定時に。」

    僕はその勝負を受けた。
    普段ならこんなよくわからないゲームは絶対に受けない。賭けるものも得るものもあまりにも曖昧で、後からいくらでも書き換えられるものなんて危険で仕方がないからだ。
    けど相手が門倉さんで、このゲームは遊戯であると前置かれている。それだけでいくらか気が緩んでいたというのもあった。

    ―このゲームを受ければ門倉さんと居る時間がもう少しだけ長くなるという打算もあった。
    僕はこの関係を、どう進めればいいのかがわからなかった。門倉さんはきっとこういうのには慣れているだろうに、これといった進展がない。
    僕の思うところの進展というのはいわゆる紋切り型のような、手を繋いで、キスをして、デートをして、その後、みたいな物だ。
    特定の相手を持った上でのそれらのすり合わせと実践をやってこなかった僕は門倉さんに手を引かれるまま行くのが正解の様に思えるのに、その門倉さんは僕が立ち止まると横で一緒になって立ち止まってしまう。
    じゃあ、進めないのなら、せめ共有したいと思った。門倉さんにこんな事を言うとやんわりと怒られるかもしれないが、自分ももういい歳であるという自覚がある。こういった過ごし方もまた良い物だというのがわからないでもないので、選んだのだ。

    …とはいっても途方もないゲームだ。駆け引きなんてどこにもない、運と記憶力のゲーム。恋人とゆっくりと過ごすささやかな時間…というには随分と頭を使う。
    52枚の絵札・数字札にジョーカーが一枚。ジョーカーを引けばカードを引く順番は逆転する。それだけだがどうにも枚数が多い。
    ゲームの進行に伴う札の減少でそこまでの札を記憶さえしていれば残りは絞り込めてくる。が、記憶力にそこまでの自信は無かった。
    促されて引いたカードに、それぞれまずはあてずっぽうで答える。勿論双方ハズレ。お役御免のカードを捨て次に手を掛けた。
    はずれ、はずれ、はずれ。そう簡単に当たるものではない。そうして繰り返すうちに引いた数はもう14回、折り返しに来ていた。

    「おや、当たりましたよ」
    門倉さんの宣言はスペードの3。その手にはその予想の通りの絵が握られている。僕は普通に外れた。
    僕が手から取り落としたカードを門倉さんはさっさと脇に捨て、心底嬉しそうに僕を見る。
    「梶さま、こちらへ」
    門倉さんが自分が座っているソファーの隣をぽんぽんと叩く。勝者のリクエストは「ここに座れ」ということなのだろうか。
    やや門倉さんの方の重みに傾きながら腰を下ろし、促されて次のカードを引く。
    ガラステーブルの上で裏返るカード、けどそれより先に、ガラスに写る絵の余白の多さに、「あ」と声が出た。
    「ハートのA」
    「…クラブのJです」
    門倉さんの手が僕の肩を撫でる。これはゲームで、僕は負けたからそれに対してしてもよい抵抗はない。
    「さあ次を」
    ダイヤの4。ハズレ。門倉さんのスペードの8。当たり。門倉さんは僕の指に自分の指を絡める。
    僕は外して、門倉さんは当たりを出し続ける。山札はもう山とも呼べない枚数まで減っていた。
    「…次のカード、わかります?」
    「クラブの5です」
    引くまでも無く、即答だ。そんな気はしていた。門倉さんも多分隠す気はないのだ、イカサマという意識もきっとないし、ルールなんてものもろくになく、何も禁止されていない。
    「次は」
    「ダイヤの7」
    「…次」
    「ダイヤのQです」
    答えを聞くたびに都度、カードをめくる。僕のターンのぶん、間に違うカードを挟みながら、それでいて聞いた通りの順でカードが現れる。
    「最初のあたりは、わざとですか、外していたの」
    「どうでしょうか」
    「どうせ次もわかってるんでしょう」
    「はて、なんの事やら…」
    僕はカードを引く。ハートの2、ハズレ。
    門倉さんもカードを引く。宣言はジョーカー。そして、当たり。順番が逆転してまた門倉さんが引いて、今度はクラブのK。当たり。
    「…二枚も、どうする気ですか」
    「どうしようも何も、私は勝っただけです。」
    門倉さんの大きな手が僕の背中に回ってソファーに押し倒される。これはジョーカーのぶん。
    それから唇を重ねられる。これが、クラブのKのぶん。
    「さあ、次をどうぞ」
    僕はテーブルの上のカードに手を伸ばす。残ったカードは後2枚。次はなんだろうなと白々しく自問して、考えるのをやめた。
    「…ハートの、Aです」
    肩を撫でられた感触が肌に蘇る。ばらばらとトランプが床に散っていく。これだから、僕の恋人はかなりいじわるだけどちゃんと応えてくれる人だから、不安ながらも安心して近くに居られる。

    門倉さんの手に強く握られた僕の手の中でハートのKがくしゃりと潰れた。







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    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173