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    みゃこおじ

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    みゃこおじ

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    【ココイヌ】午後23時、閉店間際

    自動ドアを潜ると、来客を知らせるベルが鳴り、いつもこの時間帯にいる深夜アルバイトの店員が奥から姿を表す。2名様ですかという問いに頷くと、空いている席へどうぞと店内に通された。少し価格帯も高く、ラストオーダーの時間が差し迫っているせいもあるのか、まだまだ宵も序の口というのにあまり人はいない。
    乾と九井が座る席は決まって窓側の角の席だ。正方形型のソファーテーブル席に腰掛けていると、店員が水を持ってきてご注文がお決まりの際はインターホンでお呼びくださいとお決まりの台詞を言って去っていく。何食おうかなぁと口では言っているが、九井が頼むものは大体いつも同じようなものだ。
    黒龍の集会や九井の仕事につきあった後はほとんど毎回このファミレスに立ち寄った。乾としては24時間営業のもう少しリーズナブルのファミレスの方が性にあっているというのに、九井は美味い飯が食いたいといってオニオングラタンスープで有名なこのファミレスを好んだ。
    基本的に食事代は九井持ちだ。黒龍の活動資金を生み出すのと同時に、九井は自分自身の資産運用に精力的だった。乾のような10代の少年には目眩のしそうな価格帯のグランドメニューにはいつも頭を悩ませる。乾とて、九井の好意に甘え、九井がいつも頼んでいるような高価格帯のメニューを素直に図々しく頼めるような極太の神経は生憎持ち合わせていない。
    1000円以下のものといえば、チキンやサンドイッチのような軽食に分類されるメニューだ。単品の料理でもほとんどが1000円以上の値段が多く、何度もメニューをひらき、どんな価格帯かもほとんど覚えてしまって目が滑る。考えるまでもなく、結局、乾が頼むものもいつも同じなのだ。
    「イヌピー決まった?」
    「うん、コレ」
    「また? この間も同じの食ってなかった?」
    「そう? 考えるの面倒だからこれでいいし、ココだってどうせ肉だろ?」
    「まぁな」
    九井が頷きながらテーブルに設置されたインターホンを押すと、おうかがいしまーすとすぐに店員がやってきてハンディを取り出した。
    「オニオングラタンスープ2つとシェフサラダ1つ、それからサーロインステーキの450の方でソースがデミグラスで多めに入れてください。で、チキンのグリルと、ライスが2つ。ポルチーニクリームソースに、ドリンクバー2つと食後にデザートの盛り合わせひとつ。以上で」
    店員はハンディを操作しながら注文を打ち込み、九井の注文が終わった時点で確認のために復唱する。最初の頃は大量の注文にギョッとしていたが、最早慣れたもので、顔いろひとつ変えず、もちろん間違いもせずに復唱し、キッチンの方に戻っていった。
    九井はケータイを取り出してメールをチェックし、時折舌打ちし、席を立って店の外で電話をかける。その間、乾はドリンクバーに立って九井にホットコーヒーを、自分はジンジャエールをグラスに注ぎ、席に戻った。外から戻ってきた九井は面倒クセェなと舌打ちをしながらどかりと席に座る。店員がタイミングよくサラダをもってきて、九井は取り分け用のトングでサラダを取り分けながらブツブツと呪詛のように恨言を呟く。
    「ふざけんじゃねぇよ、この間の打ち合わせで合意したってのにこっちの足元見てきやがって」
    「なんかトラブルか?」
    「まぁ、そんなとこだけど、大した損失じゃねぇから大丈夫。でさぁ、イヌピーに頼みたいことあんだけど」
    具材と野菜を均等に取り分け、差し出された取り分け皿の上には彩よくサラダが取り分けられている。九井は面倒くさそうにケータイをいじりながらフォークで野菜を突き刺した。
    「うん、もちろん」
    「いつもワリィな」
    「そんなことねぇよ、オレにできることがあればいつでも言って欲しい」
    乾が九井の役に立てることは少ない。大寿が認めているのは九井の頭脳と金を稼ぐその手腕だ。大寿が欲しているのは九井だけで、乾はあくまでおまけだ。大寿にプライドも何もかもへし折られたあの日以来、黒龍再興という夢もどこかぼんやりと霞んでいる気がしていた。
    自分に何ができるかと考えたときに、冷静になってみればできることの方が少なかった。腕っぷしには自信はあったが上には上がいる。大寿やイザナのように規格外の化け物が蔓延るこの世界で、乾は何の才能もない凡人でしかない。
    九井や大寿に言われたことを忠実に守り、乾には拒否権も自分の意思もなくて、ロボットのように粛々と任務をこなす。乾が失敗すれば九井の評価も下がるし、大寿の信用もなくなる。重圧はないといえば嘘になるし、気の休まる暇はない。
    サラダを平らげた頃、続々とテーブルの上に注文した食事が並ぶ。熱々のオニオングラタンスープ、サーロインステーキにチキン、スパゲッティ。食欲のそそる匂いにぐぅと腹の虫が鳴る。九井は漸くケータイを折り畳み、ポケットにしまう。ナイフとフォークを持ち、極力音を立てずにステーキを切り分ける。
    ステーキを口に運び、合間にライス、そしてスパゲッティ。思い出したかのようにオニオングラタンスープに口をつける。食べ方は綺麗なのに、九井の食べるスピードは早い。瞬く間にテーブルの上のものがなくなっていく。
    九井は乾よりも若干小柄だが、そこまで体格に大きな差はない。ただ、子供の頃から定期的にスイミングクラブに通って体を鍛えているからか、しっかりとした体幹を持ち、その体を維持するためか昔から痩せの大食いという言葉が似合うくらいによく食べた。
    食事の所作は育ちの良さを滲ませている。あの火事がなかったら、九井はこんな汚いことに手を染めていなかっただろうと気分がどん底に沈む。鉄板の上に横たわる鶏肉の塊は、九井と違って切り口がぐちゃぐちゃに切り刻まれ、小さな肉片が多数飛び散っている。それをかきあつめながら口に放り込んでいると、店員がテーブルに近寄ってきた。
    「ラストオーダーのお時間ですが、何かご注文はございますか?」
    「あ、じゃあ、シーフードドリア追加で。イヌピー、なんか頼む?」
    「いや、オレはいい。つーか、まだ食うのか?」
    「ん? ああ、全然まだ食えるけど」
    さも当然とばかりに言い放った九井の目の前に広げられた皿の上からはいつの間にか食べ物がその姿を消している。あと一口二口残ったスパゲッティを示しながら、イヌピーも一口食う? と尋ねてきた九井に、いやいいと胸焼けを覚えながら乾は首を振った。
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