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    みゃこおじ

    もえないゴミ箱

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    みゃこおじ

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    2月に出したたいみつ本『お金で買えない愛を教えて』のスピンオフ。モブのヨシキくん視点の話。30分程度の殴り書き

    オレは渋谷義樹。しがないアパレルメーカーの会社員だ。子供の頃からファッションが好きで、被服系の専門学校でファッションビジネスの勉強をして今の会社に就職した。それなりに有名な会社だが、給料は別に高くない。外回りをしていると時間外の勤務もそこそこ多いが、とてもやり甲斐のある仕事だ。
    酒もタバコも嗜む程度。パチンコや競馬といったギャンブルもするわけでもなく、休みの日はファッション雑誌で勉強したり、古着屋やライバルメーカーの店に足を運ぶか家事をしてゆっくり過ごすかのインドア派。専門時代の友人は所謂パリピ系も多いので、誘われれば海や山や音楽フェスにも足を伸ばしたが、自分からそういう場に出かけることはそうそうない。開放的な場には出会いを求めてくる人も多く、友人がいないと、フリーのサブが寄ってきてとても面倒だからだ。
    オレは、友人一同からお墨付きをもらう程の草食系だ。自分でもドムなのが不思議なくらい普通の人間だと思っている。幸いなことにドム性はそこまで強くなく、定期的にドムとサブの出会いの場に足を運んで一夜限りの遊びに興じるだけで満足できた。もちろん、特定のパートナーがいたこともあったが、自分の性格故にいつも振られてばかりだった。
    オレはドムだけど、サブに尽くしたいと思うタイプのドムだった。支配したいという欲求も持っているけれど、別段、体と体の性的な交わりを求めているわけではないし、自分のコマンドで嬉しそうにするサブを見ているだけで十分だった。しかし、それがサブにとっては物足りないらしく(もちろん、自分でもまぁそうだろうなという自覚はある)、義樹くんは優しすぎる、いつもそういわれて振られていた。
    だから、性的嗜好のあうサブをマッチングアプリで探すことにした。もちろん、中々自分の条件にヒットするサブはいなかったし、たとえ、メッセージをやり取りしてから会ったとしても、あまり長続きしたことはなかった。
    しかし、そんなある日、たかしくんというひとりの男の子を見つけた。自分からメッセージを送り、やり取りをしていると、たかしくんはオレと同じように被服系の専門学校に通い、デザイナーを目指していること、サブ性が開花したばかりで戸惑っているということがわかった。
    きっと、このようなマッチングアプリを使うのも初めてだろうから、会ってみない? と誘うことは憚られたが、毎回とても丁寧にメッセージを返してくれるたかしくんに興味をそそられたし、それ以上に、サブ性が開花したばかりでダイナミクスが不安定であろうたかしくんが心配になった。多分、こういうお節介なところがサブに嫌われる理由なのはわかっているのだけれど、オレは意を決してたかしくんを食事に誘った。断られると思ったけど、たかしくんは快くOKと返事してくれた。
    待ち合わせ当日、たかしくんはとても青い顔をして佇んでいた。抑制剤でサブ性を抑えているのだろうが、彼からは抑えきれないサブ性が滲み出ていた。きっと、大変な思いをしているだろうなと推測はついていたが、震えながら自分の身におこった出来事をぽつぽつと話すたかしくんの話は、オレの想像の斜め上をいく壮絶さだった。
    平泉誠一。彼は日本を代表するトップデザイナーだが、その私生活は酷く爛れたものであるということは業界内では有名は話だった。しかし、彼がこの世に送り出す服たちはとても前衛的で、彼のデザインした服をまとってランウェイを歩くことはモデルたちの大きな目標であることは知っていた。だから、平泉に取り入ろうとする人間が後を絶たないことも。
    たかしくんは髪を長く伸ばしているせいかとても中世的な容姿をしていて、ボーイッシュな女の子のようにも見えないことはない。しかし、芯はまっすぐ通っていて、話せば話す程好感がもてた。
    たかしくんは好きな人がいるのだという。ただ、そのドムの彼に出会い頭にオレはパートナーを作らないと言われて落ち込んでいるといっていた。それは辛いねとオレはたかしくんを慰めながら首を傾げてしまった。だって、彼からは、恐らくその彼のマーキングが色濃く施されており、オレはたかしくんを見つけた瞬間から負け戦を覚悟していた。マーキングというのは犬が電柱におしっこをかけて匂いづけをするのと同じで、このサブはオレのものだから手を出すな、という威嚇の証でもあり、ドムとしての力の差を見せつける行為でもある。
    そう、みつやくんからはとても「ヒドイ」においがした。みつやくんの話を遮って、今すぐ帰って彼とちゃんと話あった方がいいと思うとアドバイスしたくなる程オレの嫌いなにおいを放っていた。でも、みつやくんは真剣に悩み、その彼への思いを断ち切ろうとしている。オレはそのたかしくんの気持ちや頭が痛くなりそうなひどいにおいに耐えながら振り向かせてみせると宣言したけれど…まぁ、結論からいえば、予想はしていたけど結果は惨敗だったわけだ。
    また別の日に会ったたかしくんは、最初にあったときよりも酷い顔をしていて、今にもサブドロップしかけそうになっていた。絶対にたかしくんの嫌なことはしないからと約束してケアをしようとしたけれど、彼への思いが強すぎるたかしくんとケアをすることは、お互いにハードルが高かった。たかしくんは半ば錯乱状態に陥ってしまったし、挙句の果てにオレの目の前で平泉誠一に誘拐されてしまった。
    本当にあの日は色々なことが起こりすぎて何がなんだかわからなかった。初めて会った日からなんとなく変な視線を感じるなと思っていたけれど、たかしくんが平泉の車に乗せられたのを見て、何人かの男たちが慌てて集まって、どこかに電話をするのを遠目から眺めることしかできなかった。
    意を決してその男たちに声をかけたら、彼らは興信所の人間であること、ちゃんと然るべきところに連絡をいれたから安心して欲しいこと、もしもその筋から連絡があったら聴取に応じて欲しいことを告げて急いで去っていった。
    念のため、さっきは本当に申し訳ないことをした。君に不快な思いをさせて本当にごめんとたかしくんにメッセージを送ったが、たかしくんから返信がくることはなかった。たかしくんの身を案じて仕事に身がはいらなかったが、三日程してから、自分こそヨシキさんに悪いことをしてごめんなさい、ちゃんと謝りたいので会ってくれませんか? というメッセージをもらった。それにはもちろんと返事をして、今日約束の場所にきているんだけれど…たかしくんが指定してきたのは、オープン前から話題になっているレストランだった。
    どうやら今日はプレオープンの日らしく、辺りを見回すと多種多様な業界の有名人がたくさん集まっている。まぁ、もちろん、たかしくんが意中の彼とくっついたってことは薄々察してたんだけど、こんなものを見せつけられては嫉妬する気持ちなんて微塵も湧くわけがない。
    オレが受け付けで名前を告げると、大きな水槽がよく見えるボックス席に案内された。地下二階分はあるだろう大きな水槽の中には水族館で見かけるような熱帯魚がたくさん泳いでいた。そして、その中では海亀も優雅に泳いでいる。東京都内の一等地、しかも地下にあるレストランでこんなにも美しい光景が見られるとは思わなかった。
    席につくと、品のいい初老の男性のウェイターが食前酒のシャンパンを持ってきて、すぐに前菜の盛り合わせが運ばれてくる。どれも美味しくて、あっという間に平らげてしまう。追加で白ワインを頼んでそれを口に含んでいると、ヨシキさん! と少し痩せたたかしくんが声をかけるや否や、本当にご迷惑をおかけしました! と勢いよく頭を下げてきた。
    「え、いや、謝るのはオレの方だよ」
    「いえ、そんなことないです。あんなによくしてくれたのに、動揺してヨシキさんに失礼な態度をとってしまって本当にすみませんでした」
    おずおずと伺うように顔をあげたたかしくんは、前に会ったときよりもずっと痩せていたけれど、顔色はとてもよくなっていた。それに、首にはとてもオシャレな黒革のチョーカーがまかれている。所々にさりげなくダイヤモンドが散りばめられていて、たかしくんのパートナーの本気を感じた。
    「それよりも、その…大丈夫だった? 君が車に押し込められるのを見てたけど、何もできなくて」
    「はい、大丈夫です。本当にご心配をおかけしました」
    再び頭を下げたみつやくんの背後から、とても嫌いなにおいがした。オレは顔をあげてよとたかしくんに声をかけながら、恐る恐るその気配を辿る。見上げてしまう程の大きな体躯、めちゃくちゃ厳しい顔、極め付けは首の刺青。初めからわかっていたけれど、ドムとしても男としても、負けを悟るしかなかった。
    「三ツ谷」
    「あ、大寿くん。この方が渋谷義樹さん。ヨシキさん、彼がオレのパートナーでこの店のオーナーの柴大寿です」
    「…この度は本当にご迷惑をおかけしました」
    大柄の男は、威嚇するようにオレを睨みつけながらも、所作美しく頭を下げる。とんでもないですと動揺しながら、オレはこのふたりの幸せを祈るばかりだった。
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