Recent Search

    みゃこおじ

    もえないゴミ箱

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 35

    みゃこおじ

    MOURNING溝中といぬぴがわちゃわちゃしてる話
    【ココイヌ】青春とチュープリなんとなくまだ着慣れていない黒い特攻服で集会に顔を出すと、パァッと表情を明るくした武道が駆け寄ってくる。イヌピーくんよく似合いますね!と興奮したように鼻息を荒くし、手放しに褒めてくれるのはなんとなくむず痒い。
    今まで黒龍の真っ白い特攻服にしか袖を通したことのない乾は鴉のような色をした黒の特攻服にまだ慣れていない。軍服を模したようなスタイリッシュな10代目黒龍の特攻服は、九井が歴代の黒龍特攻服を参考にして作ったものだった。大寿から、機能性があって見た目のいいやつなどといった様々な注文がつけられたらしいが、デザインから業者への発注まで全て九井がいつの間にか手配してくれていた。
    カッコいいとは思いつつも、いかんせん白は汚れが目立った。返り血や泥汚れでドロドロになるなんて日常茶飯事で、特に、特攻隊長を拝命していた乾はその名に恥じないように最前線で拳をふるっていた。洗濯するのが面倒で、ドロドロになった特攻服はまとめてコインランドリーにぶちこむのが常だった。しかし、東卍の特攻服は野暮ったくて特攻服らしい特攻服ではあるが、闇夜に紛れる黒は汚れが目立たない。それが一番気に入っていた。
    3821

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】苦くて、甘い少し音程の外れた機嫌のいい鼻歌を歌う大きな背中がよく見える場所が乾の定位置だった。大きな工具箱に腰掛け、巧みに工具を使い分けてバイクを弄るその目と手先は真剣そのものだ。
    ふわりと煙るタバコの匂いにも慣れてきた。両親はどちらもタバコを吸わない。愛煙家の親戚もいたが、肩身を狭くして家の外で吸っていたので、乾がこうしてタバコの匂いを肺いっぱいに吸い込んだのは、佐野真一郎が経営するこのバイク屋、S・S MOTERSに通い始めてからだ。初めのうちはなんともいえない煙臭さに顔を顰めていたが、煙とオイルが入り混じるなんともいえない生活臭に安心感すら覚え始めていた。
    真一郎の長い指先が短くなってきたタバコを挟み、ふぅ…と天井に向けて吹き付けられた紫煙が優雅にたなびく。灰皿にはうずたかく吸い殻が聳え立っている。少しの振動でも崩れてしまいそうな山の隙間を縫って、また新たな瓦礫が生み出された。
    小さな箱に手を伸ばし、上下に振って一本取り出す。それが最後だったらしく、くしゃりと紙製の箱が握りつぶされた。カチッという小さな金属音が響く。ピカピカに磨かれたジッポーには黒い龍のマークが刻まれていて、それは、真一郎が 3915

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】深夜のコインランドリーしとしとと雨が降っている。例年よりも少し早めに梅雨入りをした東京は、毎日のように雨が降っているか、分厚い雲に覆われたくもりの日が続いていた。
    洗濯機が壊れて1ヶ月が経とうとしている。元々リサイクルショップで叩き売りされていたものを購入し、使い始めてからしばらくしてなんとなく調子が悪いなと感じてはいたのだが、ついに完全に動かなくなってしまった。洗濯機一台くらい買う蓄えはあるが、休みの日にわざわざ家電量販店に出向いて見繕うのが面倒だった。
    縦型とかドラム式とか、乾燥機つきの有無、汚れがよく落ちる泡洗浄など、機能を見定めることが億劫だった。洗えればそれでいい、というそういうシンプルなものの方が淘汰されている。そもそも、乾の住うボロアパートは外おきの洗濯機で、少しハイクラスな洗濯機を買えば盗難の心配もある。リサイクルショップかリユース品で十分だったし、数万円の高い買い物と週一回の洗濯の頻度を考えると、コインランドリーに行くという手間を抜きにしても、コインランドリー通いの方が経済的のような気がしないでもない。
    家電量販店に行くのが面倒なので、歩いて5分程のコインランドリーに週に1回程度通うように 2382

    みゃこおじ

    MOURNING【ドライヌ】亡霊が佇む記憶の影で2月22日、あの悪夢のような1日は未だに色濃く記憶に残っている。誰が言い出したか、この日は毎年のように元東卍メンバーで集まるのが恒例になっていた。在りし日の思い出を語らい、近況を報告する。今では頻繁に海外に仕事に行くようになった八戒でさえ、柚葉に無理をいってかならず2月末と、それから6月の中頃は日本にいるようにしていた。
    多分、それは龍宮寺たちがハタチを迎える前のことだったと思う。若気の至りで未成年の頃から飲酒喫煙をしてきたが、龍宮寺たちよりもひとつ年上の双子と乾が合法的に飲酒も喫煙も認められた年だったはずだ。
    どこにでもある大衆居酒屋で、浴びるように酒を飲んだ。来年のこの日に集まるときは、みんな酒もタバコも合法になるんだよなと、店員にきかれないように笑いながら言い合っていた。テーブルの上の食べ物も瞬く間になくなり、つまみ系や炭水化物を追加で注文し、飲み放題ということをいいことにバカな飲み方をして、ラストオーダーを迎えた。
    その日は龍宮寺の隣には乾が座っていた。あまりこのような大騒ぎをするような集まりは苦手といって、誘っても滅多に顔を出さないのだが、今回ばかりはタケミチに乾くんもきてく 3857

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】夏、過去の贖罪目の前には、1999年8月と書かれたカレンダーが壁からかけられている。
    先生? と呼ばれて、意識が急激に覚醒していく。あどけない高い声の主の方にゆっくりと視線を向けると、少し眠そうな蒼いタレ目をした男の子が、一生懸命に首をあげてこちらを見上げていた。
    生来の金糸、澄み切ったような空色の双眸。どこぞの少年合唱団のような恵まれた容姿をしている少年を、男ーー九井一は知っている。しかし、穴が開くほど少年を見つめても、どうして彼がここにいて、自分がここにいるのかはわからない。つい先程まで、最近のさばってきた目障りなチームを壊滅させていたはずなのに。
    「先生、どうしたの? 終わったよ」
    子供らしい高い声で先生と呼ばれることに胸が締めつけられた。九井はじゃあ見せてごらんと少年からノートを受け取って、お世辞にも上手いとは言えない字で書かれた回答に目を通す。
    少年は、勉強があまり得意ではなかった。特段運動も好きというわけでなく、休み時間はぼーっと自席から校庭を眺めて、クラスメイトがサッカーやドロケイをして遊んでいる姿を眺めているようなインドア系の少年だった。ただ、天使のような愛らしい容姿で同級生の女の子 1162

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】午後23時、閉店間際自動ドアを潜ると、来客を知らせるベルが鳴り、いつもこの時間帯にいる深夜アルバイトの店員が奥から姿を表す。2名様ですかという問いに頷くと、空いている席へどうぞと店内に通された。少し価格帯も高く、ラストオーダーの時間が差し迫っているせいもあるのか、まだまだ宵も序の口というのにあまり人はいない。
    乾と九井が座る席は決まって窓側の角の席だ。正方形型のソファーテーブル席に腰掛けていると、店員が水を持ってきてご注文がお決まりの際はインターホンでお呼びくださいとお決まりの台詞を言って去っていく。何食おうかなぁと口では言っているが、九井が頼むものは大体いつも同じようなものだ。
    黒龍の集会や九井の仕事につきあった後はほとんど毎回このファミレスに立ち寄った。乾としては24時間営業のもう少しリーズナブルのファミレスの方が性にあっているというのに、九井は美味い飯が食いたいといってオニオングラタンスープで有名なこのファミレスを好んだ。
    基本的に食事代は九井持ちだ。黒龍の活動資金を生み出すのと同時に、九井は自分自身の資産運用に精力的だった。乾のような10代の少年には目眩のしそうな価格帯のグランドメニューにはいつも 2614

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】「せい」のにおいカップラーメンやコンビニ弁当といった食べ物のにおい、お互いの体臭にオイルのにおい。冬は隙間風がはいってこないように目張りをしているけれど、年代物の首振り扇風機がアジトの空気をかき回すだけで夏場は換気もままならない。密閉された秘密基地は、様々な生活臭に包まれている。外から戻ると何か不思議なにおいを感じるが、嗅ぎ慣れてしまったにおいはなんだか心地よくもある。
    古びたアジトには大抵のものがそろっていた。持ち主の死により放置されて廃墟になっていたが、粗大ゴミをこっそりとかっぱらって風雨をしのいで過ごせるくらいの快適さはあった。こっそりと盗電はしているが、ガスも水道も通っていない。盗電がバレたら困るで発電機も持ち込んでいるし、カセットコンロも常備している。ポリタンクに近所の公園でくんだ水を持ち込めば、乾の第二の我が家は完成した。
    実家にはほとんど帰っていない。日銭は九井が斡旋してくれる仕事で稼ぎ、とりあえず、あまり不自由はない。元々、あまり自分自身に興味がなかった。それに拍車をかけたのは、あの凄惨な火事が起こったからだ。何の因果か、この命は不運にも生きながられてしまったので、正直、地に足ついてい 1743

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】永遠の愛より、永遠の足枷を 鏡に映っている自分自身の姿に、ああ、これは夢なんだなと、他人事のような考えが浮かぶ。綺麗に磨き上げられた洗面所の鏡に映し出された顔に、醜い火傷の痕がない。髪型は鎖骨くらいまで伸びた長髪で、幽霊のように血色の悪い顔がぼんやりと浮かび上がっている。火傷の痕があった場所をさすっても、そこはなめらかな素肌で、化粧で隠しているような形跡もない。
     だから、これはタチの悪い夢なのだ。フォーマルなスリーピーススタイルのブラックスーツ、白のネクタイ。どこからどう見ても誰かの結婚式に参列しているような装いをしている。ここも、恐らくホテルかチャペルのトイレなのだろう。廊下に出ると、参列客が受付で記帳をし、見知った顔同士で和やかな語らいをしている姿が見えた。
     そして、ふと見えた立て看板にさっと血の気がひいた。「九井家 乾家 両家御披露宴御席」と記されている。心底悪夢でしかなく、心臓が早鐘を打った。
     こんなところにいたのか、探したぞと声をかけられ、乾は緩慢に振り返る。そこには、記憶の中の姿よりもずっと年老いた父親が、乾と同じような正装をして立っていた。父親と最後のちゃんと顔をあわせたのはいつかは思い出せ 4573

    みゃこおじ

    MOURNING【カクイザ】孤独な王の帰還 施設で育った身寄りのない子供達の行く末なんて、幸せなものではない。18歳になれば無情にも何の後ろ盾がないまま世間に放り出され、孤独で、路頭に迷うような人生を送る。ひとりで生き延びていくのはかなりの労力必要で、児童養護施設という牢獄に似たような場所は、大人になってしまえばどれだけ安息の地だったかということを身にしみて痛感する。
     かくして、自立して大学に進学したり、就職したりする孤児もいる中で、鶴蝶のように闇社会にその身をおく他に生きる術がない孤児もいる。黒川イザナという頭を失い、天竺は事実上解散した。鶴蝶以外の幹部は多数の死傷者を出した、後に関東事変と呼ばれる抗争の落とし前をつけるために逮捕され、奇跡的に一命をとりとめたものの、鶴蝶は帰る場所も、頼るべき人も、一度に失った。
     施設を去った鶴蝶は、まだ14歳になったばかりだった。見てくれがどれだけ大人びていようとも、ひとりで生きていくには幼すぎた。一度、闇社会と関わりを持てば、そこから連なる負の連鎖を断ち切ることは難しい。結局、頼るべくは天竺を通じて知り合ったヤクザや暴力団しかなく、どんな汚い仕事も引き受けて、自分の身を守り、生計を立 1950

    みゃこおじ

    MOURNING【ココイヌ】亡霊の協奏曲 その後ろ姿は彼の人と瓜二つだった。無造作に伸ばされた天然の金糸は、手入れなど一切していないだろうに艶がある上質な天鵞絨のようで、太陽に照らされてキラキラと輝き、所謂天使の輪っかもちょこんと乗っかっている。生来の癖っ毛で、カツンカツンと軽快にハイヒールの靴音を鳴らす度、あちらこちらに跳ね上がった毛先がふわふわと風がおもむくままに彷徨う綿毛のように視線を誘った。
     チラと振り返って視線を向ける乾からワザと視線をそらしつつ、九井はかかってきた電話にイラつきながらも、極力大人の対応を心がけていた。今日は休日で学校もなく、およそ1年ぶりに娑婆に出てきた乾を伴って渋谷と原宿近辺をブラブラしつつ、乾の当面の衣服や生活用品などを見繕っていた。
     少年院でのお勤めを終えた乾を迎えにいったのは九井だった。恐らく、本来ならば両親と感動の再会を果たす場面であろうが、乾の両親はグレてしまった息子のことを自分たちの子供とは考えていないらしい。入所している間も、面会には一度もこなかったと乾自身からきいている。
     家が火事で全焼し、娘は後に死亡。息子はその後すぐに不良連中とつるんだ挙げ句の果ての少年院送り。恐らく、 3474