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    みゃこおじ

    もえないゴミ箱

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    みゃこおじ

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    いぬぴーお誕生日おめでとう!謎時空のお話です

    その日はよく、誰かに声をかけられる日だった。
    乾は龍宮寺とバイク屋を始めてから、そのバイク屋の2階に寝泊まりしていた。1階の店に降りると、龍宮寺がすでに店の掃除を始めていて、乾の姿を見ると開口一番に、今日の夜、飯食いに行こうぜと誘ってきた。特に予定もなかったので乾はああと頷き、開店の準備を始める。
    乾と龍宮寺が経営するバイク屋、通称D&Dは、乾が黒龍時代にアジトにしていた場所で、元々は乾の憧れの人である初代黒龍総長である佐野真一郎が経営していたバイク屋の跡地だった。その土地は、真一郎が黒龍総長をしていた折、右腕だった明司武臣という男が土地ごと買い取っており、この店をオープンするにあたっての資金提供をしてくれていた。明石の生家が、生粋のヤのつく家柄だと知ったのは最近のことだ。
    住宅街にあるせいか、近所の人が自転車のパンク修理に訪れることが多い。店の前の掃除をしていたり、バイクを並べたりしていると、通学途中の学生や、近所の主婦が訪れることが多い。今日も子供の保育園の送迎中にタイヤがパンクしてしまったという近所の住むバリキャリ風のお母さんが乗る原動機付き自転車や、学校に遅刻寸前の高校生の自転車のパンクを直してやった。
    そうこうしているうちに開店時間となるも、朝イチで客が訪れることは少ない。メンテナンスや修理に持ち込まれた機体を修理しているうちに、あっという間に昼になる。店を留守にすることはできないので、いつも昼は交代でとることにしていた。午後に出張修理の依頼がはいっている龍宮寺が先に昼を食べに出て、乾は黙々とメンテナンスを続けていた。
    「ちわー」
    来客を知らせるベルと聞き覚えのある声に振り返ると、大きな風呂敷包みを下げた三ツ谷が立っていた。ドラケンなら飯に行ったぞと手ぬぐいで手を拭くと、用があるのはイヌピーなと三ツ谷は笑った。
    「ほら、約束してた飯」
    「! ありがとう」
    「本当にこの間は助かったよ。ありがとうな、イヌピー」
    つい先日、バイトに行く途中で愛機のインパルスがヘソを曲げてしまったと三ツ谷はD&Dを訪れた。部品をかき集めて修理した年代物は、三ツ谷のように丁寧にメンテナンスをしていても壊れやすくなってくるし、細かい部品だと生産が終了している可能性もある。調子が悪かった箇所は、丁度、店にあった在庫で修理することができた。
    友人割引、ということで、今度、弁当作ってくれればいいと伝えていたのだ。D&Dを開店するにあたり、元東卍メンバーで集まり、ささやかなパーティを開いてくれた。その時に三ツ谷が手料理を振る舞ってくれた。人の手料理なんて、一体、何年ぶりに食べたのだろう。素朴だけれど、とても温かい味がした。
    それ以来、何かしらみんなでD&Dの2階に集まってどんちゃん騒ぎをするときに食べられる三ツ谷の手料理を、乾は密かに楽しみにしていたのだ。
    「イヌピー、嫌いなものとかアレルギーとかなかったよな?」
    「うん」
    「イヌピーの好きなもの、いっぱい詰めといたから」
    からあげと甘い卵焼きと、おにぎりの具は食べてからのお楽しみなと手渡された風呂敷はずっしりとした重みがあった。茶でも飲んで行くかと尋ねても、昼休みに学校抜けてきたからまたゆっくりくるよと、三ツ谷は外に停めていたインパルスに跨り、慌ただしく去っていった。
    小さな折りたたみテーブルをカウンターの裏から引っ張りだし、工具箱の上に腰掛けて風呂敷を開く。お重の一段目にはからあげと卵焼きといったお弁当の定番のおかずや、一口ハンバーグにほうれん草の白和やプチトマトといった、とても豪華なラインナップになっていた。2段目には海苔が巻かれた俵型のおむすびが所狭しに並んでいて、一気にお腹がぐぅと唸り声をあげた。
    丁寧にも割り箸とウエットティッシュがはいっていた。乾はいただきますとてをあわせ、彩りと栄養が考えられたおかずを前に、どれから食べようと思案する。三ツ谷の手料理はどれも美味しい。ずっとずっと昔に、母親が作ってくれたような、とても懐かしい味がした。
    つまみながら作業をしていると、龍宮寺が帰ってきた。目敏く乾が食べているお重を見て、三ツ谷の弁当じゃん! と嬉々としてからあげをつまもうとする。それをオレのだとぺしんと叩くと、つれねぇなと肩をすくめた。ボリュームがあったがもちろん完食し、2階のキッチンでお重を綺麗に洗った。
    それからしばらくして、龍宮寺は出張修理に出かけた。店にふたたびひとり残された乾の元に、今度はタケミチと千冬と、それから八戒がやってきた。三人とも同じ制服をきていて、学校の帰りだという。手にはコンビニの袋をさげていて、タケミチは、嬉々として乾の目の前にアイスを差し出した。
    「イヌピーくん、差し入れです。どれがいいっスか?」
    バニラの棒アイスと氷菓の棒アイス、パキッとふたつに割るタイプのアイスを前に、乾がオレ選んでいいのか? と首を傾げると、タケミチはもちろんです! と元気よく頷いた。
    「…じゃあ、これ」
    ソーダ味の氷菓の棒アイスを受け取り、乾はパッケージを開ける。ふたつに割るアイスをタケミチと千冬で半分に悪い、八戒はバニラアイスの包みをベリベリと開けた。
    「イヌピーくん、お店忙しいですか?」
    「いや、今日は暇だよ」
    「ドラケンくんもイヌピーくんもすげぇな。ふたりでバイク屋やってんのカッケェっス」
    アイスをチューチューすすりながらタケミチは何度もきたことがあるであろう店内をぐるりと見渡す。幼馴染と袂を分けてから、生きることに必死だった。バイク屋を一緒にやらないかと誘ってくれたのは、龍宮寺だった。自分は、かっこよくもなんでもない。かっこいいのは、自分で自分の道を模索し、行動できる龍宮寺の方だと乾は思う。
    「あ、そういえば、ドラケンくんは?」
    「ドラケンは出張修理に行ってるから、帰ってくるの遅くなると思う。なにか約束してたか?」
    「あ、全然急ぎじゃないんで! ちょっと、ゴキのメンテナンス頼もうと思って、いつなら忙しくないかなって」
    「今、そんなに予約入ってなかったはずだから、いつでも大丈夫だと思うけど、聞いといてやろうか?」
    「あ、はい。じゃあ、申し訳ないんですけど、連絡欲しいって伝えてもらえますか?」
    恐縮そうに頭を下げる千冬に頷き、その後はアイスと、その他にコンビニ袋に詰め込まれていたお菓子を食べ終わるまで他愛もない話をして過ごした。
    火事があったあの日以来、乾はほとんど学校に通わなかった。同じ制服をきて、同じ時を共有している三人の話はきいているだけで新鮮だったが、どこか遠い、別の次元の話をしているように聞こえた。けれど、楽しそうな三人の姿を見ていると、自然と笑みが溢れる。
    「あ、いっけね。オレ、そろそろバイトの時間だ」
    「あ!もうこんな時間…!イヌピーくん、仕事の邪魔してすんませんっした」
    「ううん、気にすんな。差し入れもありがとう。またいつでも来いよ」
    また来ますね!と手を振って去っていく三人を見送ると、店内は静寂に包まれた。朝から顔見知りたちがたくさん訪ねてきてくれて、今日はなんだか騒がしくも、とても楽しい1日だった。客がこの時間までこなかったのは店としてどうかと思うのだが、平日に、しかも、住宅街のバイク屋を訪れる人の方が稀だ。
    その後、パンク修理と近所に住むバイク好きの男性客が冷やかしにくるだけで、そろそろ閉店時間となった。片付け始めていると、龍宮寺が出張修理から帰ってきた。店の前に並べていたバイクをしまい、簡単に掃除をして店仕舞いをする。千冬がゴキの修理を頼みたいと言っていたと忘れないうちに伝えると、龍宮寺はわかったと頷いてスケジュールを確認する。
    店の施錠を確認し、龍宮寺と共に夕飯を食べに店を出る。どこ行くんだ? と尋ねると、ついてくりゃわかると龍宮寺はにぃっと笑みを漏らした。
    ついてくりゃわかると言ったものの、龍宮寺が向かったのは近所のスーパーだった。飲み物やスナック菓子をカゴに放り込み、会計を済ます。仕切りにケータイを確認しているようだったが、ジュースやお茶、お菓子でパンパンにつまった袋をぶら下げて、元きた道を戻る。
    結局、バイク屋に戻ってきてしまい、なんだったんだと乾は訝しげに首を傾げた。
    2階に上がり、居住部分に足を踏み入れると、突然、部屋の電気が消えた。思わず、わっ! と声をあげると、パン、パン、とクラッカーの音が鳴り響いた。
    「イヌピー、誕生日、おめでとう!」
    パチンと電気がつくと、リビングにはタケミチをはじめとした元東卍メンバーが集まっていて、テーブルの上には所狭しと食べ物が並んでいる。その中心には、「イヌピー お誕生日おめでとう」と書かれたチョコプレートがのったクリームたっぷりのいちごのデコレーションケーキが存在感を放っていた。プレートの隣のマジパンは、どうやら乾の顔らしく、精巧にできている。
    「誕生日…?」
    「お前、自分の誕生日忘れたのか? 今日、10月18日だろ?」
    「…そういえば」
    もう、誕生日を祝ってくれる人なんていないと思っていた。誕生日は自分が生まれたことを呪う日でしかなく、幼馴染に毎年祝われていたけれど、それを素直に喜べないでいた。彼は、九井は、間違って助けた命を、どうして祝ってくれていたのだろう。どんな気持ちで誕生日おめでとうと、言っていたのだろう。
    ぼうっと呆けていると、龍宮寺に背中を押された。タケミチと龍宮寺に挟まれるようにして座ると、三ツ谷がクリームの新雪にたてられた蝋燭にチャッカマンで火をつけ、誰かが再びリビングの電気を消した。
    「せーの」
    高音と低音が入り混じったハッピーバースデイの大合唱がくすぐったい。ハッピーバースデイトゥーユーとみんなが歌い終わると、乾はふっと蝋燭の火を吹き消した。
    「誕生日おめでとう」
    「…ありがとう」
    「じゃ、お誕生日様にあやかって、いただきます!」
    龍宮寺が言うか早いか、テーブルの上に並んだ料理に一斉に手が伸びる。三ツ谷が、イヌピーの分ちゃんと残しとけよ! と釘を刺しても、育ち盛りの少年たちの食欲は凄まじい。そんな騒がしい光景を眺めながら、乾は静かに笑みをこぼした。
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