Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ash7_pm

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👀 💞 👏 💒
    POIPOI 17

    ash7_pm

    ☆quiet follow

    支部に上げてる英重。の翌日の朝の話

     いつもと変わらない時間に目が覚めた英は、他人の気配と温もりに腕の中で自身に寄り添って眠る恋人の姿を見下ろした。
     重の目尻が僅かに赤く、昨夜の名残か幼い寝顔に些か夜の気配を残して身を委ねきって裸のままで穏やかな寝息を立てていた。その姿に緩やかに広角をあげる英は、この部屋全体に甘く満ちる艶やかな空気を知ることはないのだろう。誰かが入ってきたのなら、昨晩にこの部屋で何があったのか、すぐにでもわかるほどに英の部屋に漂う空気は朝露のような冷ややかさの中に弾けるような甘美な芳香が溢れかえっている。
     布団の中に冷気が入り込んで、寒さから重は身じろぎしたのち小さく丸まった。まだ起きる気配のない重に布団をかけ直し、生まれたままの姿で英はベッドから起き上がり、片付けられずに床に落ちたままの寝間着を簡単に身につけながら気怠げに昨夜と同じように式神を数体呼び一言二言命令を下しくありと大きな欠伸と共に頭部を掻いた。
     すぐに水の入ったコップ一つと小さめのピッチャー、綺麗にカットされ塩水につけられた林檎の入った白い陶器の器を運んでくる。サイドテールに置くよう指示し、それから式神はさっと英の部屋から消えた。
     渇いた体にひんやりとした水分が染み渡る。
     さて、どうしたものかとコップを置き手持ち無沙汰に隣で眠る恋人の頭を撫でていると小さな呻き声と動く気配に視線を下ろせば、もぞもぞと身じろぎ顔を上げた重が半分閉じた瞳を英に向けていた。
     ゆるりと瞬きを繰り返す瞳は少しだけ腫れぼったい。無言で首を傾げる重はまだ夢現であどけない顔を晒し、乱れ善がった姿とはかけ離れているようにも感じる。しかし、昨夜の名残りを充分に残した空気を醸し出し艶と妙な色気を纏っている。
     『抱かれた』と、察しのいい者には容易くわかるであろう姿だった。
    「起きたのか、水は飲むか?」
     英の声に緩慢に瞬き一つし開いた重の口からは、掠れた意味のない母音しか出ない。けほ、と顔を顰め咳をするのに、返事を待たずにコップを手に取ると、英は自らの口に含み横になった重の顎を掴んで親指で口を薄く開き唇を合わせた。すぐに舌を入れて口に含んだ水を重に流し込む。コクコクと懸命に飲み込み空っぽになった口が、もっとほしいと舌を絡めて催促してくる。英は一度口を離すともう一度水を口に含んで、水を求めて口を開けて待っている重に口付けて水を与えた。何度か繰り返し、満足した重の口を塞いでゆるりと舌を絡ませる。朝の爽やかな空気に淫らな音が落ちた。
     戯れは寝起きの重が呼吸が苦しいと背中を叩いたことによって終わりを告げる。口を離せば舌先から二人を繋いだ糸が朝日に反射してキラリと光り、それは余韻を残さずに呆気なくぷつりと切れた。
    「腹は減ってないか?」
    「そんな食べれへん」
    「そう言うと思って林檎を切ってもらった。これなら食べれるだろ?」
    「……まぁ」
     まだかさつきが残る声色で布団に顔を半分潜り込ませて重はなんだこいつは、と思いながら英を見上げた。こんなむず痒くなるような朝を迎え、あまつさえ甲斐甲斐しくも世話をされることもであるが、それが英から与えられているのが現実味はなく、夢であっても信じ難い現実であったのだ。体の至る所から響く鈍痛とあり得ない箇所の違和感にこれが現実であることを理解してもなかなかうまく処理はしきれないものだった。
     重は考える。鬼隊長と呼ばれる、あの英が性交した翌日の朝に甘ったるい空気を纏わせて自らの世話をするのだろうかと。天地がひっくり返ってもありえないような、想像できない光景にやはり夢なのではないかと思い始めたところで、はたとする。
     そうだった、と。自分は昨日、この目の前で林檎を差し出す男に抱かれたのだと。そうして重の脳内に駆け巡るのは昨夜の記憶で、腹の底から急速に全身が熱くなる。
    「食べないのか?」
     いつの間にか綺麗に切り分けられた林檎の一切れをフォークに刺さして重の口元へと差し出した英が眉を寄せて重を見つめていた。その姿が達する時に顰められた顔と重なって、音が鳴るのではないかというくらいにボッと顔を赤く染め上げた。
    「無理や……」
     顔を枕に埋めて蚊の鳴くような声で重が唸る。英といえば自分の顔を見て顔を赤くして枕に顔を埋めた重の行動が理解できないでいる。英は自覚がないであろうが、彼も昨日の行為の余韻を十分に残しており重とはまた違った色を纏っていた。当の本人は全くわかっていなく、ずいずいと林檎を押し付けてくるものだから理不尽な怒りがこみあげ八つ当たりをするように勢いよく顔をあげてバクリと半分、林檎に噛み付いた。シャクシャクと咀嚼すると塩水の僅かな塩っぱさと瑞々しい林檎の果汁、程よい酸味を纏った甘い果実が口の中に溢れ、こくんと飲み込めば少しだけ痛む喉を潤しながら胃に落ちていく。全身を潤すように果実の水分が広がって、水だけでは得られない瑞々しさはそれだけで体を癒してくれた。
     差し出されたままの残りの半分にも齧り付き、フォークと前歯がカチンと音を立てた。すっと引き抜かれたフォークは新たに新しい林檎に刺さりそれは重ではなく、英自身の口の中へと消えていった。
    「英」
     あ、っと口を開けた重に林檎を咀嚼しながら英はフォークではなく指で林檎を掴み上げ、雛鳥のようにして口を開けて待っている重の口に林檎を入れた。シャク、と小気味良い音を立て半分になった林檎を持ったまま英は林檎を食べる重を見つめた。美味しいのだろう、目元を緩め飲み込んだ重は残りも食べるために英が摘んだままの林檎にぱくんと食いついた。指先ごと食べられ、生暖かい粘膜と指先に当たる歯にじくりとした劣情が英の理性を舐めあげた。
     重の唾液が少しだけついた指先で林檎を摘んで口に入れる。冷えた林檎の果汁が僅かに灯る熱に水をかけるように冷ましていく。
     そうして重は英に林檎を食べされてもらいながら、二人で切り分けられた林檎を完食した。
     その頃にはすっかりと昨夜の名残は部屋に残っておらず、ただ暖かな朝の光が部屋を照らしていた。隊服に着替えようと立ち上がった英に重は「どっかの誰かさんのおかげで今日は動けへんよ」と意地悪げに口をついて、口角を上げた。すっかりいつもの彼の調子に戻ったのを見て、にやにやと笑いながら己を見上げる重の頭をくしゃりと撫でた英は、重と同じく口角を上げていた。
    「それはそうだろうな。起き上がれないだろう」
    「馬鹿にしとんの?」
    「事実を言ったまでだ。今日は大人しくここで休んでいて構わん」
     ただ、服だけは着た方がいいか。と言った呟いた英に、ならば昨日のうちに服まで着せたらよかったのではないかと肌に直接触れるシーツの感覚に、生まれたままの姿であったことと、英に裸で抱きしめられていたのだろうかと考えて、また重はぼふんと音が鳴るように顔を赤くした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖👏😍😍🙏☺☺🙏🙏🙏💗💗🙏🙏💘💖💖☺☺🙏🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works