いつもと変わらない時間に目が覚めた英は、他人の気配と温もりに腕の中で自身に寄り添って眠る恋人の姿を見下ろした。
重の目尻が僅かに赤く、昨夜の名残か幼い寝顔に些か夜の気配を残して身を委ねきって裸のままで穏やかな寝息を立てていた。その姿に緩やかに広角をあげる英は、この部屋全体に甘く満ちる艶やかな空気を知ることはないのだろう。誰かが入ってきたのなら、昨晩にこの部屋で何があったのか、すぐにでもわかるほどに英の部屋に漂う空気は朝露のような冷ややかさの中に弾けるような甘美な芳香が溢れかえっている。
布団の中に冷気が入り込んで、寒さから重は身じろぎしたのち小さく丸まった。まだ起きる気配のない重に布団をかけ直し、生まれたままの姿で英はベッドから起き上がり、片付けられずに床に落ちたままの寝間着を簡単に身につけながら気怠げに昨夜と同じように式神を数体呼び一言二言命令を下しくありと大きな欠伸と共に頭部を掻いた。
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