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    chige_huka

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    chige_huka

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    楽しくなってきやがった…未完なのに

    とある貴族の恋わずらい(無双フェヒュ)「それで?フェルディナント殿はユーリス殿の元に通い詰めて、コソコソと何をやっているのですかな」

    その夜、宮内卿が俺様のテントを訪ねてきた時は心臓が止まるかと思った。気配を消されるのは本当にきつい。相手は手ぶらにも関わらず喉元に刃を突きつけられた時みてえな緊張感が確かにあったんだ。

    「何のことですかねえ」

    俺は精いっぱいの虚勢を張って、スッとボケてみせる。宮内卿の氷のように冷えつく視線は揺るぎもしねえ。人が人を見る目とは思えない。
    バルタザール並みの長身から見下ろされちゃあ威圧感も半端ねえ。ボソボソとした冷たい声が降ってくる。

    「貴殿が何でも屋、として従軍の傍ら小遣い稼ぎをしていることは知っています。貴殿の働きに免じて黙認していましたが…流石に此度は少々やりすぎです。彼は陛下の直臣ですよ」
    女顔を生かして『悪いこと』をしていた噂をどっかで聞きつけてやがるのか?それ以外にも心当たりがありすぎて俺は目を泳がせた。
    「別にたぶらかしちゃいねえよ。そもそも依頼を持ちかけてきたのはフェルディナントのほうさ。本人に聞くのが筋ってもんじゃあねえのか?」
    俺の持論を宮内卿が鼻で笑った。
    「正論ですな。では、貴殿も口を紡ぐと?私の中の疑念が一層大きくなりましたよ」
    ありゃりゃ、フェルディナントが先に攻められていたか。大方上手く取り繕えなくて宮内卿の不興を買っちまったんだろうなあ。と俺は思った。何せ嘘がつけない御仁だ。

    「二人で何か良からぬことを考えているのであれば…」
    瞳が怪しくきらりと光ったのを見て、俺は両手を上げて早々と降伏の姿勢をとる。

    「待った待った。まずは話し合おうや。ベストラ侯。いくらあんたでも丸腰の味方の将を殺すのはもみ消しに苦労するだろう?袖口のそれ、とりあえず収めてくれよ」

    ちっ、と舌打ちが聞こえる。手首の辺りの鈍色の鉄が見えなくなったところで大袈裟に肩を撫で下ろして見せた。脅しだとしても内心肝が縮まりっぱなしだ。裏家業のおかげで死の気配には人一倍敏感なんだ。
    ここで俺が突如変死しようとも、この男は技術と知識を総動員してそれを予定調和に変えるだろう。ユーリス殿に敵と内通の気配があったので、と宮内卿の口から語られることは嘘でも誠になっちまう。
    とりあえず命の危機を回避した俺に、宮内卿は2本の指をたてて見せた。

    「フェルディナント殿の2倍出しましょう。口を割りなさい」

    そいつは実に魅力的な提案だった。だが…。

    「いくら積まれても言えねえなあ、先に依頼したのはフェルディナントの方だ。信用問題に関わる。ならず者にも超えちゃいけねえ一線てのがあるからよ」
    「ほう」
    「ただ、フェルディナントからあんたが尋問なり何なりして、聞き出す分にはいいんじゃあねえのか?それ以上は関与しないね」
    俺は背後の棚から取り出した小瓶を机上に置いた。胡乱げな視線が注がれる。
    「これは?」
    「自白剤…少量飲ませれば酩酊状態になって口軽になる代物さ。やがて猛烈な眠気に襲われる。記憶野にも作用するから寝て起きれば、話した内容はさっぱりどこかへさようなら。証拠は残らない。あんたが日頃使っているものより人体への影響は少ないと思うね」
    「私の仕事をよくご存じで」
    じろりとにらまれて俺はもう一度両手を掲げた。
    「おっと。勘違いしなさんなよ。別にあんたの周りだけを嗅ぎ回っているわけじゃない。貴族様達のことは軒並み知ってんのさ。知りたくなくても、ね」
    その一環で手に入れたご都合のよろしい薬物の処遇に困っていた。ちょうどいい押し付け先だ。と俺は内心笑う。俺は三本指を立てて見せた。

    「これでどう?」
    「足元を見ますね」
    「そんくらい入ってるでしょうよ、侯爵サマの懐には」

    宮内卿が苦笑しながら「前金です」と麻の袋を取り出した。机の上に重たい音と共に置かれた袋の口からは金の輝きが漏れている。俺は思わず喉を鳴らした。
    「残りは後日部下に届けさせます…貴殿の言うことに相違があればその時は」

    俺は「肝に銘じますとも、閣下」と道化師よろしく大仰な仕草で胸に手を当て頭を垂れる。このユーリス=ルクレール。神と金に誓って嘘付かない。
    頭をあげる頃には小瓶をさらった宮内卿が出口をくぐるところだった。黒衣が一瞬だけ見えて、気配が遠のいていく。俺はヒラヒラと手を振って見送った。好奇心が猫を殺さねえといいけど。世の中には気になっても触れなくて良いことってのはよくあるもんさ。清濁併せ呑むってのが賢いオトナの生き方だと俺は思っている。

    でも時にはオトナだって馬鹿になっちまう時もあるんだよなあ、と俺は思うわけだ。

    こいつは、面白いことになりそうだ。報酬以上のスリルを味わえそうな気がして俺は上機嫌で机上の金貨を数え始めた。




    やはりユーリスは口を割らなかった。期待はしていなかったが大金をちらつかせても揺るがないあたり、義理堅い。
    別に彼や彼の家業を恨んでいるわけではない。彼は諜報員としても一流だ。出自は知れないものの、貴族との繋がりも強い謎の多い人物である。完全に心を許したわけではないが、身内の説得を経て今は帝国軍の一員として重宝していた。今もなお存在する警戒心は一度は敵対していた仲であることに由来しているだけだ。

    問題はフェルディナントの様子なのである。最近、どうにもおかしい。何が、と表せないが何かしていても上の空でいたり、視線を感じて振り返れば何もなさそうなそぶりをする。元から変に馴れ合っているつもりもないが。互いを揃って双璧と周りに言いふらせておきながら目に余る変容ぶりだ。妙な距離の遠さを感じる。
    きっかけとなる出来事に思い当たる節もない。険悪になるなんて日常茶飯事だ。軍備のことで言い争いはしょっちゅうである。だが、なんだかんだ食事の時間や基地内の雑務を共にこなすうちに互いの意見を認め合い、どうでもよくなり、和解していたのだから。

    そんな彼がなぜ私を監視するような視線を送ったり、ユーリスの元に通ってコソコソと何かするそぶりをみせるようになったのか。

    私は皇帝の補佐官としてあらゆる可能性を模索せねばならない。
    以前、ある日を境に態度を変えた仇敵の存在が私の警戒心を色濃くさせる。姿形をそっくりに、我々の仲間に溶け込む輩がいないとも限らない。今回ユーリスに直に接触したのも用心に越したことはないと思ったからだ。
    手中の小瓶を見る。これをフェルディナントに飲ませることにためらいはない。

    そして裏切り者だとわかった暁には死を。それがたとえ、友と呼んだことがある人物でも私は迷わず手にかけるだろう。
    陛下にあだなす可能性が少しでもあるのなら。
    その時はせめて苦しませずに。それが自分がかけられる唯一の情けだ。



    「君が酒盛りをしようなんて、珍しいな。お招きいただき嬉しいよ」
    「貴殿の元服祝いということで」
    私は早速、次の夜にフェルディナントを呼び出した。
    取ってつけたような理由だったが、祝い酒ということでどこか照れているあたり青さを感じさせる。用意しておいた軽食を薦めながら共に晩酌に興じた。私はといえば、終始監視の視線を向けている。
    昨日ユーリスから入手した薬をフェルディナントのグラスに塗り込めておいた。念のため、毒ではないことは確認済みだった。疑いもしない彼に多少の罪悪感が沸いたものの、赤紫の液体が嚥下される瞬間を確かに見届ける。
    数度それを口にして顔が赤らんだフェルディナントは、ふらふらとしてユーリスが言った通り酩酊していた。
    準備は整ったところで私は尋問を始めることにした。

    「フェルディナント殿、最近ユーリス殿の元に通っているようですな」
    「ああ、ちょっと相談をしに行っているんだ。彼はとても親切だよ」
    ペラペラと上機嫌に話し始める。以前、真正面から聞いた時には下手くそなはぐらかしを喰らった挙句逃げられた質問だ。

    「ほう、して何の?」
    「ん、ああ…まあ、その、色恋に関することかな」
    「それだけ?」
    「勿論。このフェルディナント、友に誓って嘘は言わない」
    一瞬言い淀んだものの、素面では聞き出せなかった核心に一気に迫り、私は薬の効果を実感する。同時に後ろ暗い理由でないことに安堵を覚えた。ついでにわずかな高揚と好奇心も。ユーリスの言葉がよぎる。

    『やがて猛烈な眠気に襲われる。記憶野にも作用するから寝て起きれば、話した内容はさっぱりどこかへさようなら。証拠は残らない』

    私は口角を上げていた。人の本心を覗き見ることに愉悦を覚えた私は葡萄酒を注いだグラスを傾ける。今夜はこれを肴に美味い酒が飲めそうだ。くるくるとグラスの持ち手をいじってみせる。
    「それはそれは…面白いですな。聞かせてください。貴殿には想い人がおられるので?」
    「ああ」
    「どのような方ですか?」
    「聡明でとても理知的。合理的な決断が下せる。それでいて、情に厚いところが、好ましいと。最初は思った」
    私はやや前のめりになりながら聞いた。
    「そうですか、それで?」
    「つい最近なんだ。彼を好いているんだと私は自覚したんだ。すごく、触れたい」
    「男性?友人として、ではなく?」
    「ああ、愛だ…友情、を超えた、愛…あの落ち着いた面持ちを、乱れさせたいと、思う」
    「そうですか、クク、ははは」
    私は自分が気を揉みすぎていたことを笑うしかなかった。
    大方上の空がちだったのは相手を思いすぎて意識がどこかへ飛んでいたのだろうし、ユーリスとは何を相談していたのか知らないが。
    もしやユーリスこそ彼の意中の人物なのかもしれない。足繁く通い詰めていたことにも納得がいく。饒舌になった私は質問を続け様にして、グラスを傾ける手が止まらず、酔いが回ってくる。

    「それで?貴殿でもその彼に下世話なことを考えたりするのですか?」
    「ん、そうだな、できるなら、抱きたい」

    人前で愛を語るフェルディナントはひどく幸せそうな顔をしていた。よほど相手のことを強く思っているのだろう。当人でなくとも耳が溶けそうなくらい、熱烈な愛の言葉を並び立てていく。

    二人で葡萄酒の瓶を空ける頃にはフェルディナントはもはや操り人形のようだった。
    やがて、眠りの淵に立ち始めたのか瞼が落ちかけてゆらりと船を漕ぎ始める。このまま寝入られる前に、私はおそらく最後になるであろう質問を投げかけた。

    「して?その方はユーリス殿ですか?」

    何度か瞬きをして揺らいでいた瞳孔が一瞬線を結んだ。真っ直ぐにこちらを見据えて。オレンジの虹彩が私を映していた。
    「違うよ。ヒューベルト。私は、ヒューベルトを愛しているんだ」
    心から。
    最後はむにゃむにゃと唇を動かして、フェルディナントはそれきりテーブルに突っ伏した。軽い破壊音と共にグラスが転がって赤い液体が水溜りを広げていく。傾けすぎた私のグラスからも葡萄酒が溢れていく。混ざり合って机下にまで垂れていくそれに、気を向ける余裕はなかった。甘く囁かれた言葉が脳内にこびりつく。フェルディナントは気持ちよさそうに寝息を立てていた。
    「わた、し…?」




    「…知っていましたね?ユーリス殿」
    「まあねえ。知ってる?世の中には知らねえ方がいいこともあるんだって」
    「虎穴に入らずんば虎子を得ず。私は今回のことを過ちとは思っておりません」
    翌日、苦い顔をして俺様のテントを訪ねた宮内卿はそういいながら動揺を隠してはいなかった。机上で組んだ指が忙しなくトントンと動く。部下も遣わさず残りの金を押し付けに来たんだ。
    確認をすると額がだいぶ上乗せされていることに気づく。こりゃあなんだい?と聞けば宮内卿の顔が一層歪む。
    「他人の恋心を消すような術は…」
    「後ろからブン殴ればぁ??」
    記憶も飛ぶけど。俺は必要な額だけを抜き取り麻袋を突き返した。こういうところは律儀にしておかないと。遠回しに追加依頼を跳ね除けられた宮内卿は舌打ちをして出て行った。無茶言うなよな。


    フェルディナントが俺様にこの男の件で相談を持ちかけてきたのは本当に最近だ。
    同性のオトモダチに恋しちまったってな。最初は名前を伏せていたが、その態度と内容から相手のことは筒抜けだった。気の引き方から贈りものの選び方。百戦錬磨のユーリス様が手ほどきをしていたってわけなのだ。
    もう力づくで手篭めにしちまえだの惚れ薬の類でも使えとも言ったが清廉な貴族様は首を縦には振らなかった。だからって告白して一線を踏み越えもしねえ。ぐだぐだとしている、心の弱ったフェルディナントに対して心の医者みてえなこともしていた。

    宮内卿に愛を囁く夜を虎視眈々と窺っていたフェルディナントは昨日の真っ昼間に俺様の元を訪ねてきた。今日こそ私は!と意気込んでいたものだ。恋慕した相手に誘いを受けたんだから舞い上がるに決まっている。
    でも俺は知っていた。その男、お前に一服盛ろうとしているんだぜということを。
    どちらに肩入すべきか迷ったが結局中立を守り切った結果がこれだ。

    おっと、また来客か。
    宮内卿とすれ違うようにして入ってきたのは死にそうな顔をしたフェルディナントだった。崩れ落ちるように椅子に腰掛けた男に、俺はことの背景を匂わせることなく応じる。
    「ユーリス…」
    「どしたあ、色男」
    「私はとてつもない失敗を…」
    うん、知っている。だが俺は優しく男の言葉を受け止めた。千載一遇の好機を逃してしまった男の泣き言を。追加料金なしで。酔い潰れて記憶を飛ばした原因の一端は俺にあるわけだし。九割は先走った宮内卿のせいだ。
    「酒を飲みながら途中良い雰囲気になったところまでは覚えているのだが、その後記憶が全くない!朝めざめたら、気まずそうなヒューベルトに起こされていた。貴族として目も当てられぬような醜態を晒したに違いない…!机にはワインの染みができていたし!」
    だん!と机に拳を叩きつけられる。
    しまいには嗚咽らしきものが聞こえてきた。俺はフェルディナントの震える背中をたださすってやることしかできなかった。あんたのせいじゃないんだけどな、と俺は慰めの言葉を飲み込んだ。



    「ユリー、入るよー」
    「おお、ハピか」
    あれから俺は責任の一端をほんのちょっぴり感じて、特別任務を自分に課していた。それにハピを加担させている。ハピが向かいに腰を下ろしながらぼやいた。
    「ヒューの様子報告しろって、君も変なこと言うよね」
    「いいだろ?付き纏われてるってぼやいてたじゃねえか」
    「付き纏われてるってか、まあ、そうだよね…ハピのこれを利用したいみたいだけどさ。そんな上手くいかないっての。テフとかお菓子ごちそうしてくれるのはイイけど」
    ハピが頬杖をついて唇を緩めた。俺は思いを馳せるハピを現実に引き戻す。
    「そ、お前はあの宮内卿と茶ができる数少ない女なんだよ。様子教えろって」
    「もー、弱みでも握りたいの?悪い顔」
    「そんな感じ」
    「んー、別に仕事の話は大してしないよ?きっちり分けてるみたいだし。でも、最近あんま喋らないのが気になる。テフ片手にどっか遠く見てため息ついてんの。多すぎて逆にうざいってか。てか、うざい。ハピは我慢してんのに」
    ぼやくハピを俺は問い詰める。
    「ため息ねえ。いつから?なんか誰かの話とかしてるか?」
    「ほんと最近だよ。いや、別に?そういうのちゃんとしてるんじゃない?コーシコンドー?ってのはしないんだよ、きっと。ハピと関わるのは仕事って言ってたし。でもなーんか上の空な時があるんだよねえ…ねえ、もういい?」
    「ああ、サンキュー」

    宮内卿に果たして脈はあるのかないのか、俺が知りたかったのはそこだ。ハピから聞いた様子から察するに、おそらく宮内卿は自覚してないだろうが、フェルディナントに大して満更でもないんだろうな。拒絶の意志も見せていないようだが…動揺が続いている。突くなら、そこだろう。

    不意に、テントの幕がひらめく。
    「ユーリス、ちょっとよろしくて??あら、何の悪巧み中ですの???」
    「コニー」
    テントに入ってきたのはコンスタンツェ。勝手に悪巧みをしていると決めつけられているのは不本意だったがあながち間違ってもいないので反論はしない。
    「なんか用か?」
    「ええ、ちょっと用立てて欲しいものがありますの、魔道の材料で」
    「本当、熱心だなあお前…そうだ、一つ頼まれてくんねえか??」
    「何ですの?」
    「ヒューベルトの前でフェルディナントとちょっといちゃついてみてくれないか?」
    「…なぜそうなったか順を追って説明してくださる?」
    「ハピも聞きたいんだけど…ユリー一体なんなの??」
    不信感丸出しの二人に、俺はここに至るまでの経緯を簡単に説明する。
    聞いた瞬間にお断りですわ!と高らかにコンスタンツェは言った。まあ、端から期待しちゃいない。
    「確かに私はエーギル家の嫡子とは幼少期に懇意にしておりましたけれど、ええ、それはそれは社交界の華として。だからといってなぜ冷酷陰険宮内卿の前で仲の良いフリをしてかの方の気を引けとおっしゃるのかしら???理解に苦しみますわ?」
    「いや、宮内卿が気づかぬ間に抱いているかもしれない嫉妬心をくすぐれないかと」
    「あの陰険なお方のこと、私とフェルディナントが百歩譲って良い雰囲気になっていたら勝手に早々に引いていくに決まっていますわ!」
    確かに、その可能性も否定できない。自分の気持ちだって騙せそうな男なのだから。コンスタンツェがしっかり痛いところをついてきたのでこの作戦は失敗に終わりそうだ。

    またテントの幕がひらめく。今日は来客ばかり来やがる。
    「おう、邪魔するぜ、ユーリス。金貸してくれって…ハピとコンスタンツェも一緒か、丁度いいや」
    「何がですの?お金はありませんわよ?」
    「バルト、借りたもの返してから言ってよね」
    二人の不満の視線を受けながらバルタザールは悪びれもせず、いつかな!と磊落に笑っていた。急に室内がむさ苦しく狭くなる。
    「んで?何三人で頭突き合わせてんだよ。金儲けの算段なら混ぜろや」
    「違いますわよ。ユーリスが受けた依頼が込み入ってますの」
    「アンショーに乗り上げたっての???」
    二人の説明に俺は肉付けしてバルタザールにことの経緯を説明した。フェルディナントとヒューベルトからそれなりの額をもらっていることを告げると途端に目の色が変わる。
    「ってことはよ、はやい話、貴族二人が乳繰り合う関係になればいいってことか?」
    「言い方が最悪ですわ、あなた」
    「サイテー、バルト」
    「そ、だからよ、バルタザール。お前、ちょっと宮内卿をフェルディナントの前で暴漢のふりして襲ってこいよ。そんでフェルディナントにお前をぶっ飛ばさせる」
    「そしたら宮内卿もフェルディナントを見直す、うーん、泣かせる話だねえって、なるかあ!俺が瞬殺されて、はいおしまいだろうがよ!」
    そうだ、この作戦の致命的な欠陥は宮内卿が大人しく守られる人間ではないと言うこと。何ならバルタザールはただ歩いているだけでヒューベルトに警戒される。近づくことすら困難だ。

    三人が哀れみの表情でこちらを見ていた。
    「ユリー、もうヤケクソだよね」
    「ええ、大変ですわ」
    「飲みに行こうぜ…お前の奢りで」
    「いや、奢らねえよ…」
    ハピの言う通り、本当にアンショーってやつに乗り上げちまったらしい。俺は天を仰いだ。


    未完




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