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    chige_huka

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    chige_huka

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    朝チュンからの、雲行きが怪しくなる話

    ふぞくヒュ2-5スケジュールアプリで主の予定を確認してから動き出すのが朝のルーティーンだ。いつもどおり、ヒューベルトはサイドボードのスマートフォンに手を伸ばす。しかし、指には何も触れなかった。枕に埋めていた顔を起こすと目に入るのは見慣れぬ部屋。そもそも昨夜は枕もとに何も置いていなかったのではないか。
    ここは、最高級のラグジュアリーホテルの、更にハイグレードな部屋。フェルディナントが用意してくれた極上の体験の渦中にありながら鍛えられた体内時計のおかげで、いつも通りの時間に覚醒する。
    現実に足がついた瞬間、下半身全体を襲う痛みに気付いた。数年ぶりに味わう感覚だ。人に体をゆだねた朝はいつもこうだった。もう少し休んでいても許されたい。マットレスの上を転がって見つけた楽な姿勢に落ち着くと、目を閉じる。
    昨夜のフェルディナントの全てが、瞑った瞼の裏に、耳に、いや、五感全てに残っている。思い出せば、胸の内ががじんわりと熱くなる心地がする。
    人の言葉に心を躍らされる日々がくるなんて思いもよらなかった。
    愛しいフェルディナントの姿を探して寝室から出てみると、香ばしい香りが鼻をくすぐった。リビングを見下ろすと眼下のアイランド式キッチンから湯気がたちのぼっていた。
    キッチンとダイビングテーブルをせかせかと往復しているフェルディナントが、コーヒーを鼻歌まじりで淹れるところだった。テーブルの上には二人分のトーストの乗った皿やサラダが用意されている。
    自分で朝食の準備をしているのだろうか。階上のヒューベルトに気付いたのか、見上げてきたフェルディナントの表情が明るくなる。
    「おはよう!ヒューベルト!」
    「おはようございます」
    何でわざわざ自分で?VIPエリアならコンシェルジュが全てやるはずだ。疑問を口にしたヒューベルトにフェルディナントはこう答えた。
    「自分でやると、まるで新婚生活のようではないか」
    「は?」
    なんておめでたいことを……。フェルディナントの突拍子のない言葉にヒューベルトは返す言葉もなかった。腰の鈍痛も相まって、ヒューベルトが顔をしかめているとフェルディナントが近寄ってきてエスコートを買って出る。
    「ほら、座りたまえ。疲れているだろう?」
    椅子を引いて待ち構えるフェルディナントに張り合う気力もない。大人しく腰を下ろしたヒューベルトの目前にトースト、サラダ、ヨーグルトにコーヒーが次々と並べられた。きつね色に焼けたトーストとコーヒーの香りが食欲をそそる。とびきりの笑顔を浮かべたフェルディナントが向かいに座る。さあ、召し上がれ。ヒューベルトはしぶしぶ、用意された朝食に手を伸ばす。
    「いただきます」
    口にしたパンは、サク、と音を立てた。中はもちもちとしている。絶妙な焼き加減だ。美味しい。トーストを齧るヒューベルトを、フェルディナントはニコニコと見つめている。自分の食事には手付かずだ。食事をする様を観察されるのは妙な気分がする。
    「美味しいかい?」
    「はい」
    「コーヒーのおかわりはいかがかな」
    「あとで頂きますね」
    「ヨーグルトにはアプリコットのジャムをかけるといい」
    「後でいただきます。フェルディナント殿も召し上がってください。今は口にものを入れる時間ですので」
    甲斐甲斐しいフェルディナントに皮肉っぽく言い放つと、それもそうだ、と意に関していない様子だった。そして、漸く食事に手をつけ始めた。
    うむ、これはうまく焼けたな。コーヒーもいい塩梅だと思わないか?自ら作った朝食を褒め称えながら食べる様は騒がしいことこの上ない。
    「ジャムが鼻についていますよ」
    「む、そうかい?」
    「ええ、全く、貴方といると飽きる暇もありませんね」
     整った鼻梁にくっついていたジャムを掬いとって、ヒューベルトは笑う。椅子に座って朝食を摂るなんて、いつ以来だろう。しかも、人と一緒に。エーデルガルトに合わせて動いていると、どうにも自分の胃袋の世話がおざなりになる。休日も死んだように眠るので朝、規則正しく起きることもできない。穏やかな時間に自然と頬が緩む。
    「ご馳走様でした」
    「ああ、コーヒーを淹れるよ」
    フェルディナントは甘やかされて育ったには違いないが、一人で暮らしていただけあって手際は良い。コーヒーのおかわりを用意したフェルディナントが、大げさにターンをしてテーブルに戻ってきた。
    「朝起きたら君がいるなんて、なんと幸せなのだろう」
    「良かったですね」
    「こんな日が、毎日続いたらいいのに」
    「くく、そうですな」
    「だろう!?」
    フェルディナントの語尾があからさまに上がる。このような時間は何物にも代えがたいのは確かだ。好いた男とともに迎える朝の幸福感を噛みしめているのはヒューベルトも同様だ。一緒にいる、という響きに甘美を覚えるのも事実。だが。
    (住む世界が違いますからな…)
    歩んできた道も。何もかも。対極に位置するような男とこれから先、人生をともにする。そんな展望をヒューベルトはまだ頭の中に思い描くことはできていなかった。
    「君の左手には、銀が似合うかな。いや、豪奢な金も悪くない!私と揃いにするのもいいな」
     ヒューベルトは意を決して疑問を差し込んだ。薄々感づいてはいるが、フェルディナントの話が妙な方向に行きそうなのである。
    「なんのことですか?」
    「エンゲージリングだ」
    「冗談でしょう?」
    冗談なものか。フェルディナントは心外だと言わんばかりに声を張り上げた。
    「君とここで式をあげたいと思っている。このエーギルホテルだが、屋上チャペルの設計にも拘りぬいているのだ。内装については私もかなり口を出していてね。部屋のインテリアも私の肝入りだ!!!ここは君と過ごす特別な日を思い浮かべてコーディネートした!」
    聞いてもいないことを饒舌に捲し立てるフェルディナントを前に、完全に置いてけぼりをくらっていた。興奮しているフェルディナントに反してヒューベルトの心は重たさを増す。結婚指輪に結婚式?理解し難い提案に頭を押さえる。
    やはり、彼と自分とでは今後のヴィジョンが大きく乖離している。ヒューベルトはフェルディナントとの交際をオープンにする気は毛頭なかった。
    「私は、反対です」
    「ヒューベルト?」
    「私は貴方といられればそれで良いのです」
    「だから、その証明をしようというのだ」
    「形あるものは残したくありません」
     フェルディナントの勢いがあからさまに消沈する。彼と出会った後、自分の迂闊な
    「ヒューベルト……」
    「貴方のような方が私のような者を選んでくださったことに、感謝しておりますよ」
    女性と付き合い、それなりの人生を送る事だって彼にはできたはずなのだ。でも、フェルディナントはヒューベルトの前にいる。それで十分なように思えた。
    「だが…」
    「この話は、ここでおしまいとしてください。納得できないようなら、付き合い方を考えなくてはなりませんから」
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