Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    chige_huka

    @chige_huka

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    chige_huka

    ☆quiet follow

    ひゅちゃむの過去を知るモブおじ

    ふぞくヒュ2-7ようやく重い腰を上げたヒューベルトのアクションに対して、フェルディナントのレスポンスは迅速だった。待ってましたとばかりに、ほぼタイムラグのない返信が返ってくる。あれよあれよと話がまとまっていく。
    『すぐにでも君に会いたい。すぐに』
    文面からもわかるフェルディナントの前のめりな様子に、ヒューベルトは画面越しに苦笑した。そして、二人が久しぶりに食事をした店で集まることになった。フェルディナントは考える暇も与えず、指定してきた日どりに。
    急なことだったので個室が取れなかったのが難点だが、第一段階はクリアした。気を揉んでいたが、フェルディナントが呼びかけに応じてくれて安堵する。多少強引だったエーデルガルトのおかげだ。
     彼とは逢瀬を重ねて、少しずつ価値観を擦り合わせていくしかないのだろう。決して多くはない二人の時間をかけてでも。二人だけの式なら挙げても構わない。指輪も表舞台でつけなければ良いだけの話だ。ヒューベルトは自分の考えを整理する。自分も彼に少しくらいは歩み寄らねばなるまい。
    スマートフォンを見ればもうすぐ待ち合わせの時刻だ。緊張を強めたヒューベルトは姿勢を正してその時を待っていた。背後から靴音が近づいてくる。フェルディナントの歩幅とは違う。その足音が背後で止まったことに違和感を感じた時だった。
    「ヒューくん?」
    久しく聞き慣れない呼び名に鳥肌がたった。想い人ではないのはわかっているのに、反射的に振り向いていた。
    「ああ、やっぱりだ」
    今の仕事関係で面識のある人間の顔はまず忘れない。だが、男のにたついた顔に見覚えがなかった。必死で脳内で記憶を呼び起こす。じとりと嫌な汗が浮かんだ。
    「いつの間にか君が消えてて寂しかったよ?ヒューくん。アドラーヴェーア以外に移籍したの?」
    店の名前が出てきて喉の奥が鳴った。固まったヒューベルトの前で男がスマートフォンを取り出す。
    「この間、エーギルホテルのパーティにいたのを見たよ。これは君だろう?」
    ほら、と男が得意げに見せたスマホの画面には、遠目に自分の姿が見えた。写真は男の知り合いのSNSだという。挙げられた写真の端にはフェルディナントと話すヒューベルトが写り込んでいた。あらゆる場面での露出を避けていたというのに、迂闊だった。今思えばフェルディナントとの遭遇に浮かれていたのかもしれない。
    ヒューベルトはようやく目の前の男がヒューベルトに入れ込んでいた客の1人だと思い出した。当然覚えているだろう、と今しがた思い出されたことも知らずに元客はにんまりと笑う。
    「写真をよく見たら君だとわかったよ。短い髪もよく似合うね。また会えて嬉しいなあ」
    距離感を履き違えている男は、無遠慮にも、短くなった襟足に手を伸ばしてきた。つと撫でられて鳥肌がたつ。
    「苦労していたみたいだからねえ、心配していたんだよ」
    あの頃は、同情を誘うような話も一つや二つしたかもしれない。自分としては過去に葬り去った話を掘り返されることは不愉快極まりないというのに。ヒューベルトに構わず男は根掘り葉掘りと質問を続ける。
    「こんなところにいるんだ。まだ商売をしているのか?」
    「いいえ、私用です」
    「ふうん」
    答えを聞いた男は、鼻を鳴らした。不愉快を隠しもしない品性の無さがうかがえる。
    「困っているなら、僕も君のパトロンになろうか?」
    襟足をくすぐっていた手が、肩へと這い下がってくる。どうやら「古巣」の顧客との待ち合わせと勘違いしているようだ。男の中で自分の今の状況と過去が勝手に、短絡的に結びつけられたことが腹立たしい。男の中ではヒューベルトは金に困った青年のままなのだろう。
    肩に置かれた手を払い除けたい衝動があるのに、体は動かない。男との再会はヒューベルトを縛り付けていた。うまく切り抜ける言葉が出てこない。無碍にしたが最後、変に恨まれでも厄介だ。次々と男に関する記憶が蘇ってくる。
    男の粘着質さを思い出してしまったヒューベルトは内心、酷く狼狽していた。こうしている間に、フェルディナントが来てしまったらどうしよう。今更過去を知ったところで軽蔑するような人間でないことは、よく知っている。だが、関係を持った人間と一緒にいるところを見て、気分を良くはしないだろう。詫びの席が気まずいムードに満たされるのはまずい。なんとかして遠ざけなければ。
    内心の動揺をあざ笑うように、にたついた男は1人言葉を続ける。
    「今度、ホテルで話そうか。エーギルホテルのスイートなんかとってみたりして」
    巷で話題となっている高級ホテルの名前で釣ろうというのか、男は得意げだ。
    「そのパトロンも呼ぶといい。「みんな」でまた愉しくやろうじゃないか、ヒューくん♥」
     肩を抱いた男の吐息が間近に迫る。その生温かさがおぞましくて、目を硬く瞑った瞬間だった。
    「ヒューくん?私の恋人に何かご用でしょうか?」
    重苦しい空気を凛とした声が遮った。オレンジの髪がひらめいて、男との間に割って入る影があった。
    「ヒューベルト、この方は知り合いかい?」
    「こ、いびと、だって?」
    男の目がヒューベルトとフェルディナントの間を往復する。堂々した佇まいに男は後ずさっている。
    「なんだって?君に?」
    「ええ。とてもスマートで素敵でしょう?」
    フェルディナントが男とヒューベルトの間に滑り込む。壁を作りながら相対するフェルディナントの表情は見えないが、その顔が自信満々に笑っていることはわかる。
    男は次第に余裕を取り戻すと、にたりと笑みを取り繕った。値踏みする視線を侍らせる。
    「随分若いねえ。君は、ヒュー君がどういう人間か知っているのか?」
    「勿論」
    柔らかだがきっぱりとした物言いに男は気おされたようだった。少なくとも貴方よりは知っていると目が口ほどに語っていた。賢者ほど、語る言葉は少ない。
    身の程を知らない男は負けじと張り合おうとしていた。
    「エーギルリゾートの最上階でディナーはどうかと思ってね。君のような若者には用意できないだろう?」
    虚勢を張る男が、明らかに地雷を踏んだ。あ、とヒューベルトは口を開いた。フェルディナントの前でそのマウントはなんの意味もなさないというのに。フェルディナントは男の出した精一杯のカードに対して、ああ、と言って不敵に笑う。
    「そこなら先月行きましたとも。彼と。最上階スイートにね。申し訳ないが、最上階はVIPエリアとなっております。それに、ご利用には特別な条件がいるので、一見で泊まれるところではありませんよ」
    「き、君、一体」
    男の声が震えている。
    「私は、フェルディナントフォンエーギル」
    「エェー??」
    そこからの男の挙動は見ていて可哀想になるくらいだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏😭💖💯💯💯💕💕💕👏💯💯💯👏😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏🙏🙏🌋💴💴🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏😍😍☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works