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    Tobik_S

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    Tobik_S

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    #たまご日記のあらすじ
    ⤴︎︎詳しくはここ見てね
    ⚠️🌹🍲一家捏造
    🥚が産まれるまでのお話①
    なので🥚ちゃんいないためシチカル表記しときます。

    たまご日記のはじまりイルマが言う、トモダチ同士になって、そして恋仲になった。シチロウとカルエゴの距離はそこから変わらないまま、ただお互いがそばに居る世界に何にも疑問はなかった。

    「………見つけちゃった」

    シチロウは森の奥でそう一人呟いた。すっかり寝不足になった目を何度も擦った。
    目の前には卵が数個、木の幹の中にそこにあった。本に載っている写真と瓜二つ。探し求めていたものがそこにあって、シチロウは喜ぶ…つもりでいた。その卵はシチロウがずっと求めていたものだ。これを探し求めて森に出てきて数日、見つけた瞬間喜ぶどころかシチロウは少しだけ後悔をした。

    「………」

    一人無言がしばらく続く。一つ、その紫色の卵を持つと、シチロウはそれを静かに抱いた。

    「……持ち帰るだけ、そうしよう」

    ただ自分に言い訳だけをして、その卵に保護魔術をかけたあと、布で丁寧に巻いた。

    ________________

    「何か死んでるなお前」
    「あ、カルエゴくん…」

    シチロウが探索から帰ってきたと連絡を受け、休日だったため、カルエゴはシチロウの家に手土産とともにやってきた。勝手知らずシチロウの家に合鍵を使って入っては、巣で疲れきって着替えることなく眠っている恋人に溜息をついた。

    「せめて風呂くらい入れんのか。ベッドが汚れるぞ」
    「いいよ、どうせ僕の髪の毛だし」
    「いや布も入れてるだろが」
    「んぅ…じゃあ魔術で」
    「横着するな馬鹿者」

    カルエゴはまた一つ大きくため息をつくとピッとシチロウの腕を軽く触れる。

    「重量操作(フラクタル)だ…え?なんで?」
    「風呂、いれてやる」
    「えぇ…じゃあ一緒にはいろ?」
    「元々そのつもりだ。効率がいいからな」
    「恋人とのお風呂に効率とか言わないで」
    「手は出すなよ」
    「出したくても体力がありませーん」
    「…あったら出てたのかお前」
    「さぁどうでしょう」





    シチロウが十分に脚を伸ばせる浴槽は二人が入るのには余裕だった。シチロウの体を魔術で支えながら長い髪の毛を丁寧に洗った後に、体をしっかりと洗う。適当に浴槽に入れれば、今度はカルエゴ用に置いてあるシャンプーたちを使って自身を洗う。すっかりワックスが落ちて幼くなった前髪をかきあげては、シチロウが溶けているその浴槽にカルエゴ自身も入った。それは当たり前のようにシチロウがカルエゴを後ろから抱きしめると、洗ったばかりの首筋に鼻を当てた。

    「疲れたか?」
    「まぁね」
    「で、目当てのもの見つかったのか?」
    「…うーん見つかったような見つかってないような?」
    「はぁ?」
    「見つけたけど、求めてるやつと違った」
    「そういうことか。結局一体何を探してるんだお前は」
    「えーナイショ」
    「なんだそれ」

    少し不貞腐れてお湯で遊ぶカルエゴを尻目にシチロウは心の中で溜息をついた。

    __言って…いいのかな。お願いしてもいいのかな

    当たり前のように嘘をついて、心中でシチロウは怯えた。あの卵の"正しい使いた方"を彼に頼んでいいのか、そんなことを伝えてしまっていいのか。自分のワガママだけで彼の人生を、そんなマイナス思考ばかりが頭を支配する。ぎゅっと強くカルエゴを抱き締めた。暖かくて、自分とは違う高級なシャンプーの匂いで、そして少しだけシチロウの家の匂いが混ざったそれを何度も嗅いだ。

    「(もっと、僕の匂いで染まって欲しいって思ったらダメかな)」
    「シチロウ、寝るなよ」
    「流石に寝ないよぉ」
    「じゃあ何か心配事か?」
    「え?」

    心臓が飛び跳ねた。先程までの嘘が全部バレたのかとシチロウは体を少し引く。そんな彼と違って、カルエゴは振り向き、火照った顔を傾かせた。

    「匂い、嗅いでただろ?」
    「うぐ…ごめん嫌だった?」
    「別に。ただお前がそれをする時は何か不安になってる時が多いからな。それで聞いただけだ」
    「そ…なんだ」

    知らなかった自分の癖に少しだけ恥ずかしくなって、もう一度シチロウはカルエゴの首筋に今度は目元を隠すように近づいた。

    「で?」
    「…何にもないよ。ただいい匂いだなって」
    「…ふーん」

    そんな素っ気ないシチロウの回答にカルエゴは少しだけ眉間にシワを寄せた。嘘だとカルエゴは気付きながらも、いい大人がそこまで深堀りするものではないと言葉を飲み込んだが、「言いたくなったら言えよ」と意味を込めて、シチロウの頭を撫でる。その意味をシチロウ本人もちゃんと理解しては、グリグリと返事をするように首元に額を擦り付ける。

    「……好きだよカルエゴくん」
    「何だ急に」
    「言いたくなって」
    「あっそ」
    「うん」

    ポンポンと優しくシチロウの頭を叩くと、「俺も」と呟いた。

    「(__あぁこの関係を壊したくない)」

    __幸せに溢れたこの関係。この時間。
    僕のただのワガママで壊すかもしれない。なら言わない方が

    きゅっとカルエゴを抱く腕に力が入る。そんな動きに本当にどうしたとカルエゴは首を傾げた。

    「(だけど、僕はそれを叶えて欲しいと思ってしまう)」

    _________________

    「……シチロウ、俺に話すことはないか?」
    「えッ……」

    例の物を見つけてから一週間。仕事を終えたカルエゴがいつもより足音を鳴らしては舌打ちをして、シチロウがいる生物学問に突撃するような勢いで入ってきた。その勢いと内容に肩を揺らしたシチロウは、態とらしく目線を逸らす。

    「……急にもう…どうしたの?」
    「お前の態度が気に入らん」
    「はい?」

    フンっと鼻を鳴らしてカルエゴはシチロウお手製のソファへと腰掛けると、その言葉にシチロウは目を細める。

    「最初こそは、お前が話すまで何も聞くつもりがなかったが、ここまで話されない上に、状況が悪化していることに俺は大いに不満だ」
    「ふ、不満って…」
    「_で、お前、俺に何を隠してる?」
    「なんにもないよ。あー、あれかな?内緒にしてた徹夜とか?」
    「バレてるわそんなもの」
    「ありゃ。なら何だろ?」

    はいっとカルエゴの前に魔茶を置いた瞬間、ヘラヘラと笑うシチロウの耳を思いっきりカルエゴは引っ張った。

    「俺にそれが通じると思うなよ?」
    「…………聞かない方がいい話かもよ」
    「はッ聞いてから決める」
    「何それ」
    「…………」

    じっとシチロウを観察すれば、小さく目元に影を落としている。そんな意味の無い建前に心中でため息を出しては、そっとカルエゴはその頬に触れる。

    「えっと……学校ではこういうのしないんじゃないの?」
    「今日、お前の家に行く」
    「僕今日もここだよ?」
    「先週から毎日家へ帰ってるの知らないとでも思ってるのか?」
    「あー……と」
    「俺は今日一時間だけ残業する。それからお前の家に行くからそれまでに覚悟を決めろ」
    「拒否権は?」
    「ない」
    「理不尽……」

    トンっと軽くシチロウの頭をチョップすると、カルエゴは残りの仕事を片付けるとだけ伝えると、生物学問準備室を出て行った。

    「………………言ってもいいのかな」

    _______________

    シチロウが森に調査へ行く朝、それに合わせてカルエゴはシチロウを見送った。
    いつも通りの大荷物に、準備の流れ、ただ違うのはシチロウの顔付きだった。
    いつも調査へ向かう時に見せるのは、子供のような無邪気で、それは楽しそうに現地へと向かうのだ。それが何だが、困ったように笑って手を振ってきたことにカルエゴは疑問に感じていた。何かある。そうに違わないと思うほどには。
    そうして調査から帰ってきたシチロウの態度で、カルエゴの中ではその疑惑は確定へと変わった。あとはシチロウからのきっかけを待つだけだと思っていたのに、それは一向にやって来なかった。
    それどころか、そのシチロウの悩みは悪化しているように思える。
    カルエゴとの距離を開け、隠れるようにして自分の家に帰っている。
    そうして何よりも

    「……俺になにか言いたいって顔に書いてる」

    はぁ……と一人職員室でカルエゴは溜息をついた。

    ___俺に言いたいこと?今更なんだ。何かアイツを怒らせるようなこと……いやあれは怒ってはいないな。だとすると何か重要な案件?仕事のことか??それとも魔王(イルマ)辺りの問題か?

    「…………」

    関係は上手くいっているとカルエゴは思う。何不自由なく幸せで、最高の距離感。
    不満を感じることは無い。けれどシチロウは違うのだろうかとカルエゴは頭を抱えた。

    「……まぁいい。行けばわかる」

    ________________

    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「いや何か言ってよ」

    約束通り、カルエゴは着替えてはシチロウの家に行くと、そこには見慣れないスーツ姿のシチロウがいて、カルエゴは思わず息を飲み込んだ。

    「か、覚悟決めろって言ったのキミじゃないか」
    「いや別にそんな気合い入れろという意味合いでは……」

    深緑色のジャケットに身を包み、会合でもあまりそういう格好をしたがらないシチロウが、今なぜか畏まっていることに疑問の種は更に膨れ上がった。髪の毛もしっかりとまとめたその姿に困惑したままのカルエゴの頬にシチロウは恐る恐る触れる。

    「?」

    少し触れただけで、普段のカルエゴとは違う優しい笑に変わることに喜びを感じた。どうした?と聞いてくる彼にシチロウはゆっくりと瞼を閉じる。

    「……少し待ってて持ってくるから」
    「持ってくる?」

    それだけ告げると、シチロウは部屋の奥へと入ってき、そうして何か魔術を解くような音だけが耳に届くと、慎重にこちらに歩いてくる。

    「……卵?」
    「そう、この間の探索で見つけたんだ」
    「お前が探していたやつか?」
    「うん」
    「俺に隠したということは何か貴重なものなのか?あぁ……管理のために家に帰ってたのか」
    「あはは……バレバレ。うん、とっても貴重で僕も空想のものだと思っちゃうくらいには珍しいものなんだ。見つけられたのは奇跡かもしれない。キミの言うと通り、割れてないか毎日チェックするためにお家に帰ってた」
    「へぇ…どんな生き物が産まれるんだ?」

    嘘をついていた事をひとつも咎めることなく、立ったままでは危ない、座ろうとカルエゴがソファを勧め二人で腰掛けた。

    「……この卵の中身の栄養素はかなり高くてね。薬としてもとても素晴らしいものなんだ」
    「ほう。なら調合用か」
    「…………ううん違う」
    「なら、やはり卵を孵すのか?」
    「……そうしたい、って思ってる」
    「もしかしてそれを育てるための休暇の願いを相談したかったのか?いいぞ調整してや…」
    「違うよ。いや…もしキミが了承してくれたら必要なんだけど……えっとね」
    「……あぁ」

    優しく大きな卵をシチロウは撫でると、すっと息を吸い込んでは真っ直ぐカルエゴを見つめた。

    「この卵の中身は何も無いんだ」
    「……は?」
    「あるのは形を成すための栄養素だけ」
    「おう?」
    「だ、だからね……」
    「……」
    「僕はこの中身をキミと、作りたいって思う」
    「中身を?どういうことだ」

    未だに話が見えないカルエゴの手をそっと取っては、その卵に触れさせた。冷たいでしょ?まだ生物にすらなってないんだと伝えるために。

    「………この卵にね、2人の魔力を注ぎ続けたら、この中でそれを生命エネルギーとして混ざって形成していて生物として産まれる」
    「……もしかして、子…供ができるのか?」
    「うん、そう。ここに僕とキミの魔力を注ぎ続ければ、この卵の中で僕たちの子供が産まれる」
    「!!」
    「…安定期に入るまでの5ヶ月間ずっと僕たちの魔力を毎日欠かさず、しかも大量に注がなくちゃいけない。それはとても大変な事だ」
    「………………」
    「キミの命の危険だってある。それから僕はキミの家系を……」
    「で?お前はどうしたいんだ?」
    「へ…?」
    「そんな格好までして、俺に言いたいことがそれな訳がないだろ?もっと一番言いたいことはなんだ」
    「僕……は」

    優しく微笑み、早く早くとカルエゴは強請るようにシチロウを見つめる。

    ___全然嫌な顔してない。
    いいの?だってキミのお家の事とか、一生僕に縛り付けることとか、色々さ……色々考えなきゃいけないことってあるじゃんか……ねぇ……ホント……キミは……

    大きく息を吸ってはシチロウは立ち上がり、そうしてカルエゴの前に跪いては、そっと左手を掴んだ。

    「僕は、キミと…カルエゴくんと家族になりたいです。だからッ僕と番になってほしい。僕はキミとの子供が欲しいです」
    「…………ほしい、ほしいばっか言いやがって」
    「え!」
    「なれッくらい言えんのか馬鹿者」
    「いや、え、あ……?痛ッ」

    トンッと少し強めに叩かれた頭を抑えて、見上げればクスクスとカルエゴは笑っていた。

    「いいよ。なってやる。番にも親にも」
    「え!!?あ、い、いいの!?だ、だってお家の事とか……!!そ、それに魔力を注いで出来る子だから家系能力はきっと受け継がない……し……余計に」
    「家のことなど遠の昔に話し合いは済んでいるしな」
    「え!!?は!!?は、初耳なんですけど!?」
    「いやお前と付き合った時点で、子孫を残す未来はなかったんだし、話すだろ」
    「そういう大事なことはちゃんと言ってよ!!!」
    「じゃあ今言った」
    「屁理屈!!」
    「で、あと他には何か気になることは?」
    「…………僕はバラムの名をキミにあげたいと思ってる」
    「わかった」
    「わ、わかったって……キミはナベリウス家で」
    「その代わり、俺はバビルスでのナベリウスを捨てる気は無いぞ」
    「え?」
    「職場では今まで通りだ。もちろん番犬としての立場もやめるつもりはない。その辺の話もちゃんと済んでいるから」
    「……準備良すぎない?」
    「ハッそりゃあ何年も求愛行動されてたら嫌でも意識させられる」
    「えッ!!?は、!?き、気付いて……」

    ニヤリと笑うカルエゴの顔に冷や汗とは少し違う汗がドッと出ては、顔中に熱が溜まっていくのを必死にシチロウは手で隠した。

    「実際にお前の種族と同様卵が出来たわけだし、ちゃーんと見せてくれるんだろ?お前が子作りのために用意した巣を」
    「なァンでぇ知ってるのォ……」
    「やたらと枝が増えてたから、気になって調べた」
    「プライベートデスヨ」
    「そういうのって見せて成立するもんだろ?見せないお前が悪い」
    「うぐッ……」
    「……それ抱いてみてもいいか?」

    シチロウ腕の中にある卵を何度も撫でる。

    「いいよ」

    もう一度カルエゴの隣に座ると、そっと卵のカルエゴの腕の中に託した。カルエゴには少し大きいその卵を抱き締めるように包み込む。

    「……そうか。叶わぬと思ったことが叶えられるのか」
    「え?」
    「いや、こっちの話だ」

    まだ冷たくて、まだ動かないその卵。
    カルエゴはそっと抱き締めたまま、自分の頬で卵を触れる。

    ___自分の子供が欲しいだとか、そんな事は考えたことはない。ただ、シチロウは子供が好きだから、きっといたら喜ぶだろうなとか、シチロウの家のような家庭は楽しそうだろうなとかそんな事は考えていた。
    そして何よりも俺がシチロウとの関係をもっと先へと進めたかったんだ。

    「……で、この卵が役目を果たせるまでの期間はないのか?」
    「一年以内に孵化させないと、中の栄養素は潰れ始めちゃう…らしい」
    「そうか。なら早く事を進めないとな」
    「……うん…ッ」
    「どうした?」

    シチロウの目から零れる涙をそっとカルエゴは指で拭う。何をそんなに泣くとバカにするようにカルエゴは笑った。

    ___断れたらどうしようとずっと不安だった。僕とキミとの愛情の差が怖かった。これはただの僕のワガママで、キミはそんな関係も子供とかも迷惑だと思った。
    けれど、キミがあまりにも幸せそうに卵を抱いてくれるから。

    「う……れいしいんだよ……ッ」

    __あぁ、幸せだ


    ______________

    「アンタに頼みがあります」
    「はい」

    かつて自分の生徒がいた家にカルエゴとシチロウは訪ねた。電話で会いに行くとだけ告げ、時間を作ってもらい、昔のように三人でテーブルを囲む。

    「で、要件は」

    少しだけ何故か嬉しそうに耳を動かしては、オペラは静かに訪ねた。

    「ぼ、僕とカルエゴくん婚約したんです」
    「え、今更…?」

    若干引き気味のオペラに苛立ちが込み上げてきたが、今から頼む要件のためにカルエゴはぐっとその怒りを唇を噛んで抑えた。

    「……で、婚約のサインでも?って話ではないですよね」
    「……………………シチロウとの子を作ろうと思います」
    「はい?カルエゴくんついに頭が…?」
    「一から説明するで一旦黙ってくれませんかね
    ッ!!」

    イライラを必死に押し殺し、息を吸って、シチロウとカルエゴは例の卵の説明をした。本物を持ってきて何かあってはいけないからと、シチロウは自分が参考にした図鑑を見せては、これを手に入れたこと、そうしてそれを実現したいことを必死に説明した。

    「5ヶ月間ずっと…とは?本当にずっと?」
    「はい。5ヶ月間魔力を一分でも絶えたらもうそこで卵は終わりです。一度始めれば途中でやめる=この卵が孵化することも、もう一度その卵を孵化そうとすることもできません」
    「……なのでアンタに協力してもらいたいと思い、ここに来ました」
    「…………」

    そう全ての説明を終えた後に、オペラはすっと静かに黙った。

    「あなた達の役目をお忘れに?」

    少し怒りが籠った声色にシチロウとカルエゴは唾液を飲み込み、「「忘れてません」」と声を揃えた。

    「卵を育てる間、学校をずっと休むつもりはありません」
    「5ヶ月間、三日ごとに交代で休みを貰いたい。シチロウが卵を育ててる間は私がシチロウの分の仕事をします。そうして交代するようにしたい」
    「……できるとお思いですか?そんな無茶な生活。それに片方がいるからと言って、互いに弱っていることは変わりませんよね?学校が弱体化するのがわからないのか」
    「だから先輩に助けて欲しい」
    「!」

    ただ真っ直ぐ「助けて欲しい」とカルエゴの口から出たことに驚いた。プライドの塊の彼が頼むということにオペラはフッと小さく笑った。

    「もう一度私がバビルスの教師になるというお話で間違いありませんか?」
    「!は、はい!そうです!!」
    「……いいんですか」
    「ただし条件があります」
    「……私たちで聞ける範囲なら」

    オペラは立ち上がると並んだ二人の頭に触れる。

    「必ず無茶をしないこと、他の先生方も頼ること。そして産まれたら抱っこさせて下さい」
    「!!…たく…」
    「はい!」
    「あなた達のことです、先にサリバン様には許可を頂いてるのでしょ?」
    「はい」
    「アンタに許可を得られれば、他の先生方にもお願いしにいくつもりです」

    じっと二人を見つめたあとオペラはしばらく考え込むと、あぁっと手を叩いた。

    「ラブラブマウントをしにですか」
    「違うッッ!!!!」
    「と、捉え方によってはそうかもしれない…ハハ……」
    「おいッ」

    ________________

    「仕事の振り分けはちゃんと終えられたな」
    「そうだね。……けどアレだね」

    カルエゴの家に着くと、一緒に連れて帰ってきた大量の荷物を見やって、シチロウはあははと笑った、

    「お祝い、何か恥ずかしかったね」
    「ッチ。面白がってるだけだろ」
    「えぇでも嬉しいじゃん」

    フンっと結婚のことに弄られたと勘違いして苛立っているカルエゴの背中をそっと抱き締めると、その腕にカルエゴは鼻を埋めた。

    「頑張ろうね」
    「あぁ」
    「あ、お家どうしようか!僕がこっちに来るでいいかな?」
    「いや、俺はお前の家に住みたい」
    「えぇ〜でも僕の家じゃ三人は狭いよ。キミの家じゃダメ?」
    「一応俺は嫁いだ身だからな」
    「え?」
    「それに子育てはお前の家のしきたりにしたいと思ってる」
    「し、しきたりも何も無いよバラム家には」
    「だからだ。そっちの方が自由そうだ」
    「うーむ……あ!じゃあ建てちゃう?三人で住める大きい家!もちろんここくらいは難しいけど」
    「いいな」
    「でも卵育てるのはキミの家でいい?」
    「お前が作った巣があるだろ」
    「いや……あ、るけど……えぇ本当に?」
    「あぁ。せっかく作ったのに使わないとな」

    やたらと驚き慌てるシチロウに首を傾げていると、シチロウの顔が見る見る赤くなってはその顔を自分の手で隠した。

    「……見られるの恥ずかしい」
    「…………バラム家の感性は独特だな。そういうものなのか」
    「そ、そりゃそうだよ!!!プロポーズだよ!?と、というか本当は子作りする場所でもあるし、つまりは……えっと」
    「プロポーズすでにしてるくせに何言ってんだ。…なら一度くらいはそっちとしても使ってみるか?」
    「…………ウン」
    「ンクッ…」
    「わ、笑わないでよッッ」
    「いやだってお前……ンク」
    「もう!!」
    「で、どこに作ったんだ?」
    「ぼ、僕の家の部屋に」
    「そんなものあったか?」
    「……薬品入れと嘘吐きました」
    「……あそこか」
    「ウン」

    フッと笑っては、カルエゴ振り返り、シチロウの首に腕を絡めた。

    「…あしたの休み、期待しておけ」
    「!!」


    __________________

    「えっと食材よし、缶詰もゼリーもある。飲み物もたくさん用意したし、体力回復の魔茶っ葉も多めに用意した」

    鍵を閉めていた巣がある部屋を何度も確認して、リラックスできるようにお香も焚いた。カルエゴ用に敷いたシーツはしっかりとシワを伸ばして、鼻を鳴らすと同時に家の鐘が鳴り鍵が開く音が聞こえてきたは、シチロウは早足で玄関へと向かった。

    「いらっしゃいカルエゴくん」
    「おまっ…髪」
    「えへへ、久々に切った」
    「なんだか懐かしいなその髪は」

    シチロウを見るなり驚きはしたが、カルエゴはすぐに肩を震わせた。

    「…ねぇ前切った時も笑ってたけど、そんなに変なのこの髪」

    あまりにもまた笑われていることに、すっかりなくなった刈り上げた部分を撫でると眉を歪ました。

    「んく…悪い悪い。で?なんでまた急にその髪型に?」
    「子育てには邪魔かなって」
    「気合いは十分と言うことか」

    今日は休日、一週間、仕事の引き継ぎやら何やらバタバタした生活を過ごしてやっとその日を迎えた。たった一週間、けれど待ち遠しく長く感じた一週間。この休日の二日間とプラス一日の有給の三日間。やっと卵へと力を向ける。最初の二日間は二人で頑張ると決めて、カルエゴは大荷物でシチロウの家へとやってきた。

    「性がつくようにお肉料理たくさん用意したから、まずそれを食べようね!!!あ!あとね新しいタオルも買ってね!それから!!」
    「わかったわかった。まず家に入らせろ」
    「あ、ご、ごめ」

    わかりやすく肩を落とすシチロウにカルエゴはまた笑う。

    「お前、テンション上がりすぎだ」
    「だって…」

    カルエゴの荷物を持っては部屋へと案内する。よくシチロウの家にカルエゴは来ているはずなのに互いに心が浮ついた。カルエゴは少し目線を泳がしながら家の中へと入ると、やっと静かに椅子へと座る。頬杖を付き、昼食の準備を始めては、すぐにそれをカルエゴの前に並べた。

    「…こんなに食いきれんわ」
    「今日はいつも以上に食べて欲しいもん」
    「まぁ…そうだな」

    真剣に見つめてくるシチロウに、んぐっと声を詰まらせては、黙って料理を食べ始める。

    「……何だか、変な感じがするね」
    「…そうだな」
    「楽しみなのと不安と…怖いとか。けど…幸せですごくグチャグチャしてる」
    「………………名前」
    「名前?」

    小さくカルエゴがそう呟くと、カバンの中から付箋だらけのノートを一冊取り出しては、それで顔を隠した。

    「………子供の名前、考えた」
    「!」
    「まだ性別すらもわからないし、ちゃんと産めるのかもわからないが…それでも…その俺は浮かれた」
    「見たいな」
    「ひとつに決めれなかった。だからお前に選んで欲しい」
    「うんッ」

    行儀はあまりよろしくないけれど、今日だけと、テーブルにノートを広げては名前を読み上げてはその文字をなぞって、食事をしながらコレがいい、アレがいいと笑いながら話す。

    「…む、難しい。どれも可愛い」
    「お前は何か考えてたものはないのか?」
    「えッ!!あー…と…ハチロウとか?」
    「……単細胞にも程がある」
    「自覚はありました…」
    「娘だった場合どうするんだ」
    「エギーちゃん?」
    「喧嘩売ってるのか???なぜアイツからのあだ名なんだッッ」
    「可愛いと思って…」
    「燃やすぞ」

    軽くシチロウはデコピンを受けると、ヘラヘラと笑ってはまたノートに釘付けになる。
    たくさんある名前と、一緒に書かれてる名前の意味。下に引かれた赤い線と、何度も書かれる"バラム"の文字に胸が熱くなる。カルエゴも同じ気持ちでいてくれてる。へにゃりと笑ってしまえば、眉間にシワを寄せられる。

    「なんだ」
    「ううん。えーと、この赤の二重線のやつ。キミの第一候補たちでいいんだよね?」
    「あぁ」
    「じゃあこれにしよ」
    「お前…もう少し真剣に」
    「だって、こんなにある愛情を選ばないなんておかしくない?僕はこの赤く書かれたやつがいい」
    「………わ…かった」
    「ふふ、顔真っ赤」
    「…るさいわ」
    「はぁーい」

    _______________

    「き、緊張してきた」
    「あ、あぁ」

    初めて見た時から更に大きくなった巣に少し驚きながら、巣に慣れていないカルエゴのためにたくさんのクッションなど置かれてることに少し笑ってそこへ座り込んだ。卵を抱えたシチロウは更に慎重に座っては、息を吐いたと同時にカルエゴがその卵を撫でる。卵を真ん中に置いて、さてどうするかと考え込んでいると、シチロウが軽くカルエゴの袖を引っ張る。

    「三人で寝転がろ。この子は真ん中で」
    「…それはいいな」

    すっと優しく寝転がっては、二人で卵を抱えるように手を添えて、そうしてシチロウの胸に寄りかかりカルエゴの頭に頬を添えた。

    「量は?」
    「んっと、最初三日間は重要で、一日の僕らの魔力を使い切らなくちゃいけないらしい。けれど三日間それを絶えちゃダメだから加減が中々だね」
    「なるほどな。それ以降は?」
    「中級魔術くらいをずっとかな?」
    「そんなものなのか?」
    「んーでも定期的に卵の様子みて大量にいる時もあるとか何とか」
    「医者に診てもらえるのが一番だな」
    「まぁ……分かるわけないよねぇ」
    「とりあえず連絡はしといたぞ」
    「そうなの!?」
    「あぁ…一応な。この卵以外にもそういう類のものは魔界にはあるからな。まぁコレは知られてなかったが、命として出来たあとは、医者に診てもらえるだろ。とりあえず一週間後、一応ここに来てもらうことになってる」
    「あ、相変わらず準備がいい…」
    「この卵のことはお前にしかわからないんだ。これくらいするさ」
    「ふふ、ありがとう」

    マスクを外して、ちゅっと音を鳴らしては額にキスを落とす。もう一度卵撫でては息を吸う。

    「…じゃあ始めよっか」
    「あぁ」

    そっと二人で手で卵を包み込む。
    何かを壊すイメージではなく、何かを作る。何かを生み出す。防御する。そんなイメージだけで魔力を放出しては、ゆっくりゆっくりと、子供の想像をする。体力を無くさないようにポツリポツリと会話しては、産まれてくるであろう子供の話をする。
    僕らの子供ならきっと元気一杯って感じな子ではなそうだね。シチロウに似て大きく育つだろうな。どんな髪色かな。どんな顔だろうな。いつかバビルスに入って僕らの生徒になるのかな。その時は更に厳しくしないとな。いつかアレがしたいなこれがしたいな。こういう子になって欲しいな。そんな野望の話をずっとしてはあっという間に三時間は経過した。少しずつ走った後のような体の感覚になったシチロウが、何度が疲れを取ろうとカルエゴの頭に顔を埋めた。

    「疲れてきたか?」
    「少しね」
    「俺と同じ量は出さなくていいぞ。すぐバテたらどうする」
    「配分は間違えないよ」
    「ならいい」
    「ただ…どうしてもキミに魔力量は負けちゃうから、カルエゴくんの負担は多いと思うのがちょっと悔しい」
    「それは俺に負けてという意味か?」
    「違うよー…不甲斐ないなって思っただけ」
    「その分お前に身の回りの世話をしてもらう」
    「あ!そうだね。そうしよう」
    「…冗談だ。予定通りお互いで助け合えばいい」
    「そうだね」

    頷くけれど、シチロウは心中で謝るように頭を下げた。きっとシチロウより魔力を使わせてしまうことが多いであろうことは予想していた。もちろんシチロウ自身もランク通りにちゃんとある魔力。けれどどうしても彼と比べると少ない。魔力重視のこの行いは、何かあった時に頼らなくてはならないのはカルエゴなのだ。だから卵に触れる手とは別にカルエゴの頭を抱き締める。

    「(その代わり、僕がキミを助けるからね)」

    _____________

    卵の模様と色が少し濃くなってきた頃、卵はカルエゴに任せてはシチロウは風呂を簡単に済ませては、夕食の準備をした。疲れが取れるように優しい野菜スープに、お湯を入れたらすぐ淹れれるように魔茶っ葉をセットして、きっとカルエゴは食欲を無くすから、用意していたパンを切り分けては自分の食事を始めた。

    「(…体力は僕の方が上なんだから、もっと沢山食べて、魔力の回復を少しでもしなくちゃッ)」

    大量の食事と、魔力回復を促す薬と栄養ドリンクを口の中に掻き込んでは頬を思いっきり叩く。

    「よしッ」

    飲み物のおかわりとゼリー飲料。濡れタオルを持ってはすぐに巣へと走った。カルエゴを驚かせないように静かに扉を開けると、少しだけ目を伏せて疲れ気味の彼が目に飛び込む。緊張の糸が張っては肩が上がったカルエゴを労わるように、浮かんだ汗を拭いてあげてはそっとカルエゴの手に重なるように卵に触れては、彼の頭を撫でた。

    「今、魔力出したよ。もう離しても大丈夫だからキミも休憩しておいで」
    「お前こそ、もう少し休んでいればよかっただろ。帰ってくるのが早すぎる」
    「やらなきゃいけないことは全部してきたよ??」
    「もう少し休めと…」
    「それはキミもでしょ」
    「…わかった。俺もすぐ済ませる」
    「だーめ、キミは最低でも僕より一時間多く休むの」
    「……………わか…た」

    そっとカルエゴが手を離す瞬間、彼の顔が強ばる。きっと少し前のシチロウと同様、この手を離す瞬間、不安と恐怖が一気にやってきたのだろと予想出来た。「大丈夫だよ」っと声をかければ、少しだけ眉間のしわが薄くなって、早足でカルエゴは部屋から出ていく。
    少し揺れる体を必死に動かす。魔力を空にするほどの量を必要で体を限界に追い込みが終わるまであと二日と五時間。今日はカルエゴが寝ずに卵の番をする。もちろんずっとという訳ではなく、シチロウも数時間おきに起きると言ってくれている。だからと言ってシチロウがいるからと安心してしまってはいけない。夜中のためにカルエゴは今休まなくてならないとちゃんとわかっているので、シチロウの言うことは素直に聞いた。
    リビングに行けば、既に用意された食事たちに感謝しながら、ゆっくりとそれを味わう。

    「(倒れてはいけない。しっかりと食べなくては)」

    いつもより多い食事を懸命に食べる。シチロウが用意してくれたものは体に染み渡り、魔茶は安堵すら与えてくれる。少し腹が目で見てわかるくらい膨れ満たされ、片付けを済ませては、ソファに体を埋めてクラシックを流して耳を傾けた。時計をセットして、温かいタオルで目元を覆っては身を任せる。
    どっと襲うのは倦怠感。高階級(ハイランク)と魔力に自信があるとは言え、約七時間も魔力を出し続けるのは体に負担がかかる。
    三日間を乗り切れば、魔力を空にすることはないだろうが。五ヶ月間疲労は取れることはないだろう。

    「(フッ…変わり者の悪魔でよかったな)」

    まだ見えない子供にそう聞かせた。
    あの卵がなぜ広まらなかったのかたった数時間で理解した。飽き性の悪魔たちにはこの行いはただの地獄で叶えられることは少ないだろう。
    夢中になりやすい研究癖のあるシチロウと何でもやり込むタイプのカルエゴ。それはそれは悪魔にとっては少し珍しいけれど、それは今とても感謝している。

    「(こんなに興味が惹かれることを他は知らないなんてな)」

    フッと目を伏せてカルエゴは笑う。
    愛した相手と手を取り合い、そして自分の力がまだ知らぬ未来を作り出す。それはとても面白く、産まれてくるのが楽しみで仕方がない。
    子供の未来を考えること、喜ぶパートナーのこと、まだ知らない感情を知っていくこと。それはどれほどまでに欲を掻き立てることを知らないだなんて勿体ないなと得意げになる。

    「(あぁ……楽しみだ)」

    _______________
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