縺れて拗れてヒヤシンス「何かオイラに言うことないのかよ」
「……出掛けるなら煙草買ってきて」
ふざけた台詞に沸騰した怒りは、可哀想な玄関ドアにぶつけられた。叩きつけるようにドアを閉めて家を飛び出してきたのがもう先週のこと。あれから何度見ても、携帯には通知ひとつ無い。電話も無ければメールの一通も寄越しやしない。ふらっと立ち寄った喫茶店で、オイラは何十回目か分からない溜息を漏らしていた。
マスタードは謝罪というものが出来ない。「ごめん」のたった三文字を、今まで一度だって口にしたことがない。それでも今日まで付き合ってこられたのは、オイラが毎回折れてやってたからだ。愛用のペンを勝手に使われて勝手に失くされたときも、二人で食べようと買ってきた高いアイスを一人で二つとも食べてしまったときも、バーで引っ掛けた女の子と酔った勢いで一晩の過ちを犯したときだって。のらりくらりとお茶を濁すばかりで断固として謝らないアイツを結局こっちが許してやったのだ。
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