A_Iファルガーは、未来からやってきたサイボーグである。
過去へやってきた彼は、鬼であるヴォックスと出会った。
ヴォックスは生意気なファルガーと最初は対立していたものの、何年も彼と人間の真似事をしているうちに段々と心を開いた。
ヴォックスは昔は人を愛したこともあったが、鬼と人間では命の長さがあまりにも違いすぎた。
何度も何度も別れを繰り返し、ヴォックスは人を愛すること、添い遂げたいと思う気持ちに蓋をした。
そこにファルガーが現れた。
彼はヒトではなかったため、人間以上に長い時間を過ごすことができた。
プログラミングで喜怒哀楽を表現していたので、ヒトと差異のない程度に意思疎通することができた。
それに慣れすぎたせいで、感覚が麻痺していたのだろう。
彼となら、ずっと側にいられるかもしれない、と錯覚したのが間違いだった。
ファルガーもまた、鬼の半永久的な寿命に勝つことはできなかった。
初めて彼と出会ってからどれほど経ったであろうか。
数百年はとっくに過ぎているかもしれない。
お互いの仲良くなった人間たちも皆早くに寿命を迎え、機械に囲まれた日常も廃れ果て、世界が静寂に包まれ始めていた。
最近ファルガーの動きが少しずつ、鈍くなってきた。
動く度にギシギシと音が鳴り、フリーズすることも多くなった。
何もない世界で、2人はやることもなく、ただ隣に座っていつものように過ごす。
ヴォックスはただそれだけでもよかった。
誰かと長い間一緒にいられるのがこんなに心地の良い物だとは。
そう思った最中、隣から声が聞こえる。
「なぁ、ヴォック_ス」
「なんだ、ファルガー」
「お前、は、愛を、知っているか」
ヴォックスは目を見開いてファルガーを見つめる。
まさか彼からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「_愛なんて、とっくの昔に置いてきたよ」
事実である。
ヴォックスはもう誰も愛さないと、自身に誓ったのである。
「そう、か。俺は、生まれた時からサイボーグだ_から
愛とは_なにか、しらな、い
しかしお前と、こう・してすごしている、と。
胸のアタりが、故。障した ように、熱をもつのは、
ど、う_して、だろう、ナ」
エラー音のような、ノイズの混じった声。
あぁ。お前も知ってしまったのだな。
ヴォックスはそっとファルガーを抱きしめる。
「さぁ・・・それはきっと故障じゃないか。
俺には修理できないよ・・・。さぁ、ゆっくりおやすみ。」
ファルガーの瞳からだんだんと光が消えていく。
周りは今にも崩れそうな瓦礫に囲まれ、一つの影は腐敗したソファに座っていた。
膝には冷たい鉄の塊が置かれている。
影は鉄の塊に手をのばし愛しむように撫でる。
「愛しているよ、ファルガー_」
今にも消えてしまいそうな吐息は虚空に溶けていった。