バナナのように甘い恋「僕のバナナ買ってくれませんか?」
「・・・は?」
たまたまパトロールの休憩中に、コンビニで買ったバナナを食べながら道を歩いてると、横のキッチンカーから声をかけられた。
きょろきょろと周りを見渡すが自分以外は道を歩いていない。
声のする方へ目を向けるサニー。
そこには、紫色の可愛らしいワゴンのバックドアを開いて市場のようにカゴにたくさんバナナを並べている露店があった。
車の窓には画用紙が貼ってあり、
『あまいバナナ 1本100円
バナナジュース 200円』
と手描きであろう可愛らしいイラスト付き。
そして、ちらりと店主を見てみると綺麗な黒い長髪の─ノースリーブからちらりと見えるしっかりした肩幅と平らな胸元から、きっと男性ということがうかがえる。
「あ、急に声をかけてスミマセン・・・」
サニーがじろじろと彼を見るものだから、店主は申し訳無さそうに謝る。
「いや、こちらこそすみません。自分に話しかけられたと思わず驚いてしまいました。」
食べかけのバナナをそっと買い物袋にしまうと、キッチンカーに近づいた。
「このバナナはご自身で?」
「あ、はい!小さいんですけど、そのぶんとっても甘いんですよ。」
サニーが反応してくれたことが嬉しかったのか、ぱぁぁと表情を明るくさせる店主。
「傷ひとつなくてとても綺麗ですね。貴方の丁寧な仕事が伝わってきます。」
綺麗な黄色をした少し小ぶりなバナナを見て、サニーは感想を彼に告げる。
「・・・・・・。」
返事が返ってこないと顔をあげると、店主は驚いた様子でこちらを見ている。
「あれ、俺なんか変なこと言っちゃいましたかね。」
無礼でもしてしまっただろうかと少し焦るサニーに、彼は声を被せる。
「いえ、違うんです!まさか、そんなところまで気づいて頂けると思わなくて・・・」
嬉しそうに頬を染める彼にサニーの胸がトクリと高鳴るのを感じた。
「俺の実家がネギ農家なんですよ。昔手伝ったりもしてたから、生産者の気持ちがよくわかるんです。」
「そうだったんですね!・・・あ、今少しお時間ありますか?」
「あー、はい、少しなら。」
サニーはパトロールの途中だった為、連絡がこればすぐ出動しなければいけなかったが、ありがたいことに今は無線は静かなままである。
店主はひとつバナナを手に取ると、牛乳と氷と共にミキサーにかける。
「これ、よかったら飲んでみてください!」
「え、あ・・・」
財布を取り出そうとするサニー。
「お代はいりません!褒めていただいたお礼です。あ、これ、僕の名刺なんですけど。」
ジュースと一緒に名刺を渡される。
【Yammy no banana 生産者 闇ノシュウ】
「闇ノ、さん」
「あっはい!そうです。んへへ。」
名前を呼ばれて嬉しそうにするシュウ。
自分も名刺を差し出そうかとポッケを漁った瞬間。
『ブリスコー、近辺で事故発生。駆けつけてくれ』
無線が鳴り響いた。
「あ、お仕事ですね、いってらっしゃい」
「すみません・・・また来るので、その時に俺の名刺渡します!これ、ありがとうございます!」
そう伝えて、ジュースを片手にサニーは現地へ向かった。
「ぶりすこー、さん。んへへ」
シュウはキッチンカーの中で一人ニヤけていた。
実は、何度か近辺をパトロールしている彼に一目惚れしたシュウは、彼が毎回バナナを食べていることを知っていた。
今日も近くを通ったので、思わず声をかけてしまったが、まさかの自分のバナナをこんなにも褒めてくれるなんて。
「はやく、明日にならないかなぁ。」
そっと、並んでいるバナナ達をよしよしと撫でた。
それからサニーは定期的にシュウのキッチンカーへ訪れてくれるようになり、二人の仲もすっかり良くなったある日。
「そうだ、シュウ。」
「ん?どうしたのサニー。」
キッチンカーの裏に彼専用に用意した折りたたみ椅子を置いて、そこでいつものようにバナナを食べるサニー。
真面目な表情でシュウを見つめる。
「キッチンカーだけじゃなくてさ、もっとたくさんの人にシュウのバナナを知ってほしいんだ。」
「もちろんそうなれば嬉しいけどどうしたらいいのさ、僕は一人しかいないし。」
「俺の実家のネギを直売しているところがあるんだけどそこでシュウのバナナも一緒に置いてもらえないかと思って。」
「え!もし可能ならぜひお願いしたいな。」
シュウは嬉しそうに笑う。
「・・・あと、シュウ自身のことなんだけど」
「ん?」
「個人的に、俺と取引しません?」
「バナナ買い取ってくれるの?」
「ははっ、違うよ。君自身がほしいんだけど、俺のモノになってくれないかな?」