やらかい、それ彼女が熱を出した。
『ごめんね、今日のデート延期になって』
ルカのスマホにメッセージが届く。
綺麗にセットした髪の毛なんて気にせずに、急いで電車に乗ってシュウの家へと向かった。
途中のコンビニでゼリーとスポーツドリンクとアイスを買った。
貰ってから初めて使う、合鍵。
シュウの誕生日に自分の家の鍵をプレゼントしてみたら、律儀に次の自分の誕生日には彼女の家の鍵をプレゼントされた。
まぁ自分一人で彼女の家に行くことが少なかったので(デートの帰りにそのままお邪魔することはあった)今日までこうして使われることがなかったのだが。
鍵を貰っていてよかったな、と思いながら、緊張で少し震える手で鍵穴にさしこむ。
一応家に行くことを連絡したのだが、既読がつかなかったので眠っているのかもしれない。
カチャリと開くドア。
「─おじゃまします・・・」
小声で家に入り込むルカ。
周りからみたら少し怪しい人に見えるかもしれない、けどまぁそれは彼氏なので堂々とするべきか。
シュウが眠っているのであれば起こさないように、と思い足音をあまり立てないようにフローリングを進む。
リビングのドアを開けるがそこには誰も居らず。
ひとまず買ってきた食料を冷蔵庫につめこんだ。
寝室を静かにノックする。
「シュウ・・・?ルカだよ?」
ドアに耳をひっつけて中の様子を確認するが、返事も物音も聞こえない。
そっとドアをひらいて足を進めると、ベッドが膨らんでいるのでシュウが眠っているようだった。
ゆっくり近づくと、スゥスゥと聞こえる寝息。
ルカはベッドの隣の床に座り込んだ。
じっとシュウを見つめると、窓からの光でシュウの頬が赤くなっていることがわかる。
ひとまずシュウが起きるまで、側にいたい。
ベッドの縁にもたれかかって静かにスマホでゲームを始めた。
「っ、はぁっ・・・」
「・・・シュウ?」
しばらくすると、シュウが苦しそうに声を出す。
息が荒い。
先程よりも顔も赤くなっているように感じる。
「・・・」
眉間にシワを寄せてしんどそうだ。
ルカは持っていたスマホを放り投げて、ベッドに乗り上げた。
「シュウ?大丈夫?」
身体に触れると火傷しそうなほど熱い。
額からは汗が吹き出していた。
「はぁっ・・・、ん、る、か?」
ゆっくり瞼が開かれ、潤んだ瞳と視線が重なる。
「ッ─」
相手は、病人で。
心配しないとなのに。
弱りきった恋人の姿にぐっと胸が苦しくなるルカ。
ダメダメ!ふるふると顔を振って邪念を追い払う。
「あちゅい・・・るか・・・」
「うん、きっと熱が上がってきたんだ。汗がでたらきっと下がるよ!」
自分も子供の頃よく熱をだしていたので、汗をかいたら熱が下がるよと言い聞かせられていたのをシュウにも伝える。
ポッケに入っていたハンカチで軽くシュウの顔や首元の汗を拭う。
「服も、着替える?持ってこようか?」
汗で湿ったままの服を着ているときっと冷えてしまう。
新しい部屋着を用意しないと。
「ん・・・」
シュウが辛そうに指差す先にはクローゼット。きっとそこに服が入っているのだろう。
彼女が自分で取りに行くのは無理そうだ。
「あける、よ?」
コクリとシュウが頷くのを確認してクローゼットを開く。
綺麗に畳まれたシャツやスボンなどがクリアボックスに仕舞われている。
ぱっと見たところ下着などはなかったのでルカは少しホッとした。
上下の服を取り出すとシュウに差し出す。
「タオルとってくるから、待ってて」
シュウの家には何度か泊まったことがあるので浴室にタオルがあるのは知っていた。
それをひとつ拝借すると寝室へと戻る。
「シュウ・・・タオルとってきたよ。自分で身体拭いて着替えられる?」
彼女に問いかけるが、はぁはぁと苦しそうに荒い呼吸が聞こえるだけ。
ほっとけば今にもまた眠ってしまいそうだ。
流石にそのまま眠らせるのも良くないだろう。
「・・・着替えさせる、よ?」
とりあえず上の服だけでも。
ルカはグッと唇を噛みしめると、シュウを抱きかかえ自分の胸元にもたれかからせた。
ふたりは付き合ってしばらく経つが、かなり健全なお付き合いを続けていた。
ピュアなところもあるが、お互い童貞処女なのである。
そういうことはしっかりと同意をもってからしよう、と付き合い出した頃から約束をしていた。
できるだけ、シュウの身体を見ないように薄目を開いて顔を横に反らしながら、纏っているスウェットを脱がせる。
タオルで身体を拭き出すルカ。
背中から前に手を回して、そこでルカはあることに気づいてしまう。
脱がせたスウェットの下が、シュウの素肌だということ。
「?!?!?!」
え?オンナノコって、ブラジャー、するんじゃないの?
タオル越しの手に、柔らかい感覚。
「んっ・・・」
ぴくんと揺れるシュウの肩。
ルカの視界がぐるぐる回る。
やばい、自分が熱を出しそうだ。
荒くなる鼻息を抑えて、ぎゅっと目を瞑り新しいシャツを被せる。
ズボンまで変えてあげられる余裕は全くなかった。
「おおお俺、ちょっとコンビニで飲み物買ってくる!シュウは寝てて!!!」
バタン!と大きな音を立てて寝室を出ていくルカ。
そのままズルズルと床に腰を落とす。
「はぁぁ〜・・・」
顔を両手で隠してため息をつく。
ぐぐ、と一部に血液が集中する感覚がする。
ドクドクと心臓がうるさい。
しばらくシュウの顔が見れないかも。
そう思いながら思わず持ってきてしまったシュウの脱いだスウェットをじぃと見つめるルカだった。
その後無事に熱が冷めたシュウがリビングに起きてくると、ソファで眠っている彼氏の姿。
んへへ、とニヤけるシュウだが、自分のスウェットが床に落ちていることに気づく。
服を変えた記憶がないので、きっとルカが手伝ってくれたのか、と思うがふと肌に触れる服の感覚に違和感を覚える。
首元から自分の身体を覗くとガッツリと素肌が目に入る。
「っ!!!」
急いで浴室からブラジャーをひったくって装着するシュウ。
目を覚ましたルカがしばらく自分と目を合わせてくれず、後日彼が知恵熱を出すのはまた別の話。