マイフェアレディメアが何やらおかしなことをしている。
と、いうのもずっと手で耳を天井に向けているのだ。
本を読むときも、作業机で書き物をしていても、ベッドでごろごろしている今も。
「…メア、何してるの?」
「耳動かす練習のついでに、癖を直してる。」
耳を動かす練習というのは、俺が軽率に息子のイヴォカの耳の動き様がかわいいねと言ったばかりに、メアがかわいいと言われたくて耳を動かす練習を始めたことの話だろう。
癖とは、あまり動かないことじゃないのかな?でもこの言い方だと違うのかも。
「癖?」
「俺耳がずっと寝てる癖あるだろ」
「そうだね」
あぁ、言われてみれば確かにそうだ。
メアの耳はずっと伏せっている。表情があまり豊かでないのも相まって、最初はずっと機嫌が悪いのかと気をつかったりもしたけれど、一緒にいるうちに意識せずずっとそうなっているのだと気づいた。
それが当たり前になっていたので、すっかり頭から抜けていたのは黙っておこう。
「どうせならその癖も治しておこうと思った」
「え!もったいない!」
「は?」
「え~だって…。メアちょっとこっちおいで」
思わず声を上げてしまった…。取り繕おうとメアを自分の膝の上に呼ぶ。
素直にメアは俺の膝の上に乗って、向かいあうように俺の顔を見てくれた。
その頭に手を乗せて、あまり力をかけないように撫でる。
耳を立てる意識を入れていたメアの耳は、手に合わせていつもの位置にぺったりとした。
「ほら、耳立ってると頭撫でるときは手が引っ掛かるけど、耳がペタッとしてると気にせず撫でれるから」
「ふぅん」
気のない返事をするメア。
頭を撫でられるのは心地いいから、きっとそっちに集中しているんだろう。
ぎゅ、と目をつむっているメア。短いながらもよく動く尻尾が嬉しそうに俺の膝を叩いている。。
胸の奥から暖かい衝動がこみ上げてきて、思わず抱き寄せる。
「じゃ、いいや」
「うん。いいと思う。」
腕の中からメアの手が生えてきて、俺の頭を撫でつけるように動かし始める。
前に俺が撫でられるのが好きだと知られたときから、事あるごとに頭を撫でてくれるようになったのだ。
こうやって、メアが俺の好みに合わせようとしてくれるのがとても愛しいのだ。