晩夏の想い出〈せせらぎと鈴虫の音色と〉立秋を過ぎ昼間の暑さが収まる頃、夜には秋を感じられる涼しげな風が吹く。草むらからは秋の虫の声が日に日に増えていく……
晩夏の夕方、陽は落ち東の空には夜の帳に星が輝いてくる。この日の夜は村の豊作を願う祭りが神社で行われる。
「へへ、僕は祭りを楽しみにしていたんだ。お父もお母も一緒で嬉しいな。」
ニコニコと無邪気な笑顔を浮かび上がらせ、両親の手を握るカナデであった。カラコロと小さな下駄を鳴らしながら神社へ向かう。
「毎日稽古を頑張っておるカナデにご褒美だ。何か好きな物を買ってやろう。」
「……じゃあ飴食べたい」
「おっ、飴か分かった」
「あらあら、カナデは甘い物好きねぇ。」
神社の参道で飴を一つ買ってもらったカナデは嬉しそうに舐める。右手に飴を持ち、左手は父の大きな手を握り神社の境内へと進んで行く。豊作を祈る舞の披露を見て、笛や太鼓の演奏を聴き目を輝かせる無邪気な少年。少し疲れてきたのかカナデは眠そうにしていた。
807