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    ⚔️勝利の厚焼き玉子⚔️

    @bwgenryu

    曲擬の進歩絵や色々ぶん投げる所。自宅の世界観の話やキャラ、キャラにまつわるバックストーリーとか設定多め。
    ※独自の解釈で曲擬をしているため独特な世界観や設定で作ってます。

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    POIPOI 40

    リィミンの冒険編の物語。ドランとの出会いの話。
    その日の野営での会話とリィミンの秘密とは……
    ※4/3続き追加

    夜明けを告げる歌 どこまでも続く紺碧の海。白い雲が所々に浮かび水平線の彼方まで続く。穏やかな海風を受けながら帆を張った一隻の船が通り過ぎる。

    「島まではもうすぐね。この先の珊瑚礁に気を付けないと。」
    リィミンは操舵をしながら海図を確認し、時より双眼鏡で船の行く先を見ていた。海の色が深い青からエメラルドグリーンに変わる。それは陸地を囲む珊瑚礁に差し掛かったことを意味する。リィミンは慎重に舵をとり島の港を目指した。船の周りをカモメが飛び交い進路を共にする。暫く進むと港が見えてきた。
    「さぁて、船着き場は…、あっ、あそこだね」
    船着き場を見付け、ゆっくり船を進める。近付くと錨を海底へ下ろした。「ふぅ」と一息ついたリィミンは操舵室においてある大きな鞄を背負い、船を降りる。桟橋の杭に太いロープで船を繋留した。
    「辺りの島より大きい町だわ。数日分の水と食料は買えるわね。それに探検しがいある森もある。」
    首にかけたストームグラスで天気を確認し、町へと向かう。町には市場が開いており、色鮮やかな魚や海産物、野菜や変わった形の果物、様々な動物の肉や加工品が並ぶ。人混みを分けながら品定めをするリィミン。
    「あっ、これいいかも。干せば数日は持つし、腹持ちもいいし…。すみません、これ二つ下さい」
    魚屋の前で買いたかったものを見つけたリィミンは店員に話かける。
    「あいよ、これを二つだね。今日の朝獲れた新鮮な魚だよ。」
    店員はニコニコしながら魚を2匹木の皮で包み「はい」と渡す。受け取ったリィミンはお金を払い、にこりと笑顔を浮かべ「ありがとう」とお礼をした。
    「あんた…この辺じゃ見ない顔だね?観光客かい?」
    「ふふ、私は冒険家。船で海を渡り世界を冒険しているの。この島へは食料調達と探検の目的で来たんだ。」
    「ほぅ、冒険家かぁ。カッコいい女の子だね。……でも探検はおすすめしないよ。」
    「えっ、おすすめしないって?」
    「……あぁ、この島には森があるが森には『怪物』がいる。昼夜問わず金属の楽器を奏で踊っているが、頭には紅い角があり肩と足に蒼の鱗が生え、赤い目から鋭い眼光を放ち睨み付けてくる。この島の住民は誰もあの森には近づかない。悪いことは言わん。幾ら冒険家とは言え近づかない方が身の為だよ。」
    店員から語られたのは島にある森に住む『怪物』に関することだった。
    「だ、大丈夫ですよ。私今までも猛獣やモンスターに遭遇してますし、いざとなれば自慢の足で逃げますから…。」
    「やはり冒険家なんだな。無理はしちゃいかんぞ」
    「はい。お気遣いありがとうございます」
    森に住む『怪物』の話を聞いたリィミンは店員に手を振り、その場を後にした。少し買い足しをし、森に向かって歩く。賑やかな市場を離れると自然豊かな森が広がっていた。風に吹かれ木がざわめく音、小鳥の囀りが何処からともなく聞こえてくる。藪をかき分け道無き森を進んで行く。暫く進むとリィミンは足を止めた。
    「何かしら…?金属を叩く音」
    彼女の耳に入ってきたのは金属を叩く音だった。何かリズムを刻んでいる様にも聞こえる。先程聞いた『怪物』の話が頭を過る。だがリィミンは恐る恐る音が聞こえる方へゆっくり歩く。なるべく物音は立てないように慎重に藪や足元の枝に注意しながら近付いていく。
    「(さっきの話は本当だったの?)」
    こっそりと進んで行くと音は大きく聞こえてきた。森の中の少し開けた場所に出る。そしてリィミンは思いもよらない光景を目にした。
    「えっ、人間…?でも角がある…。紅い角、あの話と同じそれに蒼い鱗…もしかして竜人どうだろう、私と同じ位の歳かなぁ?」
    その場所に居たのは話で聞いた『怪物』と呼ばれていた者だった。だがリィミンには自分と同じ位の歳の子に見えた。
    「さっきから聞こえてた金属を叩く音は、抱えて持っていた楽器を奏でていたのかな?太鼓の様なドラムの様な…。もう少し近付いてみても大丈夫かな?」
    気になるリィミンは慎重に近付く。ところが彼女の気配を感じたのか演奏を止め、赤く鋭い眼光で睨み付ける。
    「……誰?」
    「…あっ、ご、ごめんなさい。演奏の邪魔をしちゃって…。何か音楽が聞こえたから……。」
    気付かれたリィミンは敵意の無い素振りをし、笑顔を浮かべる。だが少年は警戒心を強め赤い眼で威圧する。左腕に抱えた楽器を力強くバチで「ガガン」と打ち鳴らす。周りの空気がビリビリと振動し、リィミンに伝わる。
    「…うっ、……何これ?あの子は、音を武器に…するの?」
    全身に響く強力な音波。リィミンはふらつくが何とか持ち応え、青い眼で少年を見つめた。
    「大丈夫…、私は貴方に敵意はないの。大丈夫、大丈夫だから…。」
    リィミンはニコリと笑顔を浮かべると、胸に手を当て大きく息を吸い『歌』を歌い出した。その声はどこか力強く、優しい気持ちに溢れていた。少年はバチを構え、再び楽器を使った攻撃をしようとしている。だがリィミンの歌声が彼の心に届いたのか、少年の鋭い目付きは緩み始め、牙を見せていた口元は少しずつ口角が上がっていく。完全に敵意は無いことを示すかの様にリィミンは少年にゆっくりと近付く。すると少年は目を閉じ、手にしたバチで楽器を叩き始めた。先程とは違う優しい音階を奏で、リィミンの歌に合わせるかの様にリズム良く鳴らす。
    「ふふ、ありがとう。綺麗な音色の音階を合わせてくれて」
    「…君の歌、僕の心に響いたんだ。まるで水平線から昇る夜明けの太陽の様に温かい歌……。さっきの音色は君へのお礼だよ。」
    少年は赤い目でリィミンを見つめた。
    「私の歌……貴方の心に届いたようね。嬉しいわ。」
    「君は僕を見ても怖がらなかった…。この島の人間じゃないのか?」
    「うん。私は食料調達と探検したくて船で渡ってきたの。貴方の噂は市場で聞いてふと気になってて……。」
    「じゃあ、島の外の人間もしかして島の外の世界を知っているのか」
    「ふふ、私は船で海を渡り世界を冒険しているの。何かあった?」
    「あぁ君の話色々聞きたい。いいかい?」
    少年はリィミンの右手を優しく掴み走り出した。リィミンも必死になって少年についていく。少し走ると砂浜に出た。
    「急にごめんな。座れる所ここがいいと思って。波の音聴きながら君の話が聞きたいな。…ちょっと座って待っててくれる?」
    少年は小走りに森の中に入って行った。その少年が戻ってくる間、リィミンは倒れたヤシの幹に腰を掛け、荷物を下ろし一息付く。暫くすると少年が森から戻ってきた。
    「お待たせ。今朝採ってきたヤシの実をこの近くに集めていたから…。わはは、ヤシの実ジュースだよ。喉乾いていると思ってさ。」
    「わぁ、ありがとう。ふふ、何か飲みたいとは思っていた所だったの。」
    「よかったぁ。殻は急いで空けたけど多分大丈夫だよ。」
    少年は持っていたヤシの実をリィミンに渡した。殻に空いた穴を口に付け実を傾ける。
    「ゴクッゴク…。ふぅ、美味しい。浜辺で飲むヤシの実ジュース最高だわ。」
    「喜んでくれて僕も嬉しいな…ゴクッ。」
    海風が浜辺の木々を優しく揺らし、木漏れ日がキラキラと二人を照らす。
    「…あぁそうだ。まだ名前言ってなかったよ、僕はドラン。体を見れば分かるけど、僕には竜人の血が流れていて角や鱗が生えているんだ。」
    「私はリィミン。『ある物』を探して旅をしている冒険家兼航海士なの。…ドランを初めて見た時に竜人なのかなと思っていたけど、そうだったんだね。でもドランは怖くはないよ。」
    「ほ、本当島の人間は僕を怖がって誰も近寄っては来ない……。僕を怖がらない人間はリィが初めてだよなぁなぁ、この島の外の人間達って僕を怖がったりしないかな?」
    「リィって…まぁいいか。んー、この世界には人間以外にもドランと同じ竜人族もいるし、色々な種族がいるよ。普段から町でも見かけたりするからドランがいても怖がらないわよ。」
    「うぉぉ、本当か……島の外の世界、いつか行ってみたいと僕は思ってたんだ。漁で乗る小さな船じゃ大海原の波に沈められてしまうから……。」
    ドランは少し悲しそうな顔をした。
    「ふふ、ドランは島を出てみたいのね。……もし、良かったら私と一緒に冒険しない?」
    「えっ…いいのか?」
    「うん。一人で冒険の旅してきたし、船の操縦もしてきた。もしドランが付いてくるなら私のサポートしてもらいたいの…。」
    リィミンは島の外に出たいと思うドランを冒険のパートナーとして誘ってみた。その話を聞いたドランの表情は先程より明るくなり、期待を膨らませたようににこりと笑った。
    「僕は外の世界をリィと見て回りたい僕の知らないこと、見たことのないことがいっぱいで楽しみなんださっきリィが言ってた『探し物』も一緒にさがしてみたいわはは、僕は力ならあるからサポートは任せろ。」
    「えへへ、ありがとう。頼もしいわ。……そういえば、島を出るということだけど家族は?」
    「……僕に家族はいた。けど、父ちゃんは漁の時に巨大なサメに襲われて亡くなった。母ちゃんはハリケーンの時に僕を守って家の下敷きになった…。」
    ふと空を見上げて何かを思い出すドラン。彼は背中に背負っていた楽器を再び左腕に抱えた。腰に差していたバチを一本取り出し、優しい音色を奏でた。
    「…ドラン?」
    「わはは、この楽器は父ちゃんが持ってた楽器なんだ。太鼓みたいでドラムの様な打楽器。七つの窪みで違う音階が出せるんだ。…僕は何年も練習して『音』によって心を癒したり、さっきみたいに攻撃に使うことができるようになった。」
    「お父さんが持ってた楽器だったのね。私、この優しい音色好きよ。心に響く優しい音色…。」
    「僕はこの音色を奏でて父ちゃんや母ちゃんに届けていた。それに踊って僕の元気な姿を見て欲しくてな。」
    「優しいのね。島の住民は怖がっていたけど、ドランが楽器を奏でる意味に『本当の意味』があった…。空にいる両親に届けたい音色と踊りだったのね。」
    「リィは分かってくれて僕は嬉しい。僕は違う音色を作って、今度は世界に届けたい。楽しくなれる明るいメロディーを」
    「きっとドランの作るメロディーは気分を明るくさせる。世界に届くよ、きっと。」
    リィミンはにこりと優しく笑う。連れてドランもにこりと笑った。二人は暫くの間お互いの話をしていた。波の音と風の音、二人の笑い声……ゆったりとした時間が流れる。
    「んー、どうしよう。」
    「どうした?」
    「私、この森も探検したかったけど買ったものがあるし、それにドランをどう船まで連れていくか迷っているんだ。」
    「探検したかったんだね…。でも僕の為にかんがえてくれてるの嬉しいよ。僕は沖までいつもの漁の船で待ってるから、リィは君の船をこの沖まで出したら落ち合える。これなら僕のことは気付かれない。」
    「えっ、いいの?じゃあ、私は船を出すからこの沖合いでドランを迎えに行くよ。」
    「わはは、そうしようか」
    「うん。」
    リィミンとドランは各々出航の準備を始める。リィミンは来た道を元に戻り、再び市場に出た。人混みを避けると桟橋に繋留している船の縄を解き、急いで船に乗り帆を張り、錨を上げ舵を取って沖合いに出る。太陽の位置からドランが待ってる場所を割り出し、舵を取る。風向きも問題なく10分もしないうちにドランが待ってる場所に着いた。
    「おーい、リィ」
    彼女を呼ぶ声が聞こえる。ドランは大きく両手を振った。リィミンはドランの声に気付くと操舵室を出て船の錨を下ろした。
    「ふふ、迎えに来たわよ。これが私の船『プレアデス号』」
    「おぉぉ、僕の船より大きいこの船で海を渡ってきたんだね。…リィ、頼みがあるけど、僕の船も一緒にいいかい?これがあれば浅瀬を移動する時に便利だよ。」
    「えへへ、勿論いいわよ。じゃあロープを投げるからその船に括り付けて。ドランが私の船に乗ってきたら一緒に引き上げようか」
    「あぁ、分かった。」
    リィミンは二本のロープを投げドランに渡し、ドランは自分が乗っている船に括り付ける。そしてドランはリィミンの船に備え付けてある縄梯子を登り甲板に降り立った。二人は力を合わせてドランが乗ってた船を引き上げる。海水を含み少し重たくなってはいたが、息を合わし何とか甲板に乗せる。
    「ふぅ、……これでいいかな?」
    「うん。わはは、ありがとうなリィ。……それにこれからは宜しくな。」
    「ふふ、こちらこそ宜しくね、ドラン」
    二人は飛びきりの笑顔をしながら固い握手を交わした。
    「今から今日の夜を過ごす島へ向かうわ。私は船の操縦するから、ドランはマストの上か操舵室の上から見張りをしてくれるかな?」
    「おっ、早速別の島に行くんだね。見張りなら任せろ。リィの為なら僕は頑張るよ」
    「お願いね」

    リィミンは次の島に向けて舵を取り進路を変える。マストの上に登ったドランは、今まで過ごした島を名残惜しそうに見つめた。生まれ育った故郷に別れと感謝を告げる様に、七つの音階で感謝のメロディーを奏でた。そのメロディーは海風に乗って故郷の島に届く。

    さて、リィミンは新しい仲間のドランを迎え入れ、プレアデス号の舵を切りながら今夜野営する次の島へと向かっていた。見張りを任されたドランはマストから移動し操舵室の上にいるらしく、時より心地よい音楽を奏でている。
    「また、違うメロディーだわ。ふふ、きっと嬉しいのね。」
    ドランが奏でるメロディーを聴きながらリィミンは舵輪を操作する。海は穏やかに波を立ち、帆は膨らむ程度の風を受け船は進む。3時間程経った頃、ドランは何か合図をするように楽器を単音で叩き始め、操舵室にやってきた。
    「なぁリィ、左の方に島が見えてきたぞ。」
    「あぁ、10時の方向に見える島ね。私達あの島に向かうのよ。」
    「へぇ、あの島かぁ。僕がいた島より小さいけど何かあるのかな?」
    「ふふ、あそこは無人島。人は住んでいないの。食料は積んであるから野営に使う分はドランが持ってきた小舟に積んで島に向かうよ。食料以外にもテントや必用な物を乗せていくわ。」
    「人のいない島なんてあるんだ。わはは、僕のあの小舟が早速役立つのは嬉しいよ。」
    「そうね。今までより小さい島や暗礁がある海岸を渡って行けるのはありがたいわよ。ふふっ、あの島へ向けて取舵10時の方向へ。」
    リィミンは舵輪を回し船の進路を変える。ドランはその様子を食い入る様に見つめていた。リィミンは海図とコンパスを確認し、時よりストームグラスでこの後の天気を予測する。太陽は傾き光の色が少しずつ変わってゆく。遠くに見えていた島もすぐ目の前に見えてきた。
    「ねぇ、そろそろ島に近付いてきたから船を停めようと思うの。ドランに錨の下ろし方を教えるから私に着いてきてくれる?」
    「うん。勿論だよ。力仕事なら任せて」
    「ふふ、ありがとう。」
    リィミンはドランの手を引いて操舵室を出て、船の左舷前方へ移動する。そこには取手が付いた装置が置いてあった。
    「リィ、これは?」
    「これは錨を上げ下げする装置。取手を持って車輪を回せば錨が海底へ落ちるの。ドランの力ならすぐに下ろせると思うわ。」
    「へぇ、便利な装置だな。よし、力仕事なら任せろ」
    「左回りで回せば錨は落ちるよ。」
    リィミンの言われた通りドランは取手を持ち、左へぐるぐる回した。
    『ドボン』と錨が海中に落ちる音がした。更に回し錨が海底に達すると砂地に食い込み、船の速度が落ち始める。
    「おっ、船の速度が落ちてるぞ。」
    「ありがとう。暫くしたら船は停まるからついでに帆も畳んで島へ渡る準備しようか」
    「意外とやることあるんだな。リィは一人でこれやってたのか?」
    「そうよ。始めは時間かかって大変だったけど慣れちゃった。」
    「そうか…、リィは凄いな。」
    ドランはニコリと笑った。二人は船の中央にあるメインマストに移動した。リィミンはマストにまとめてある縄をほどく。
    「この縄を一緒に引っ張ってもらえる?」
    「勿論」
    「せーの」
    二人は呼吸を合わせるかの様に縄を力いっぱい手繰り寄せ引っ張る。帆の下にある横木は段々上へと上がってゆき、最終的に上段の横木で止まった。手繰り寄せた長い縄はマストに巻き付け、金具で止める。船の後方にあるサブマストも二人で縄を引っ張り畳む。
    「ふぅ、ありがとね。二人だと早いわ。」
    「僕も一人でできるように頑張らなきゃ」
    そして甲板に置いてある小舟を縄で海に降ろす。後方の船室からリィミンは野営に必要な道具が入った幾つかの鞄を持ってくる。
    「これを小舟に積むけど何個か持って欲しいけど、いいかな?」
    「わぁ、いっぱいだね。うん、勿論いいよ。一番重いのはどれかな?」
    「わぁ、えと、テント等が入ってる鞄かな。」
    「よし、任せてよ」
    ドランはリィミンに言われた鞄を軽々持ち上げ、船の側面の縄梯子を難なく降りてく。小舟に置くと再び甲板に上がってきては鞄を持っていく。リィミンも幾つか鞄を持ち小舟に置く。全部の鞄を移すとドランはオールを持ち、島の海岸に向かい漕いでいく。
    「流石ね。ドランの力は本当に強い。」
    「わはは、ありがとう。力仕事と漁は僕に任せてくれ。」
    「頼もしいね。私は嬉しいな。」
    「リィのサポートは僕が頑張る。安心してくれ」
    無邪気な笑顔を浮かべながら力強くオールを漕いでいくドランを見て、リィミンも思わず笑顔になる。話しをするうちに小舟は浅瀬に着いた。ドランは海の中に入り、小舟に付けてある縄を引っ張り砂浜に上陸させた。
    「ありがとう。…さて、どこにテント張ろうかな。今日は満潮じゃないからあの辺りでいいかも。あそこまで鞄を持って行こうか。」
    「あそこか。よし、荷物持ちは張り切るぞ」
    砂浜と森の境界辺りにテントを張ることに決めたリィミンは小舟から鞄を降ろす。だがドランは張り切り二つの鞄を担ぎ、テントを張る場所へと歩いていく。二人して2往復程で鞄を移し終え、早速テントを組み立てる。テキパキと骨組みを組み立てるリィミンと、地面に杭を木槌で打ち込んでいくドラン。布を張り、金具で止め、ロープを地面に打ち込んだ杭に止めテントは完成した。
    「うぉぉ、今日はこの中で寝るのか」
    「うん。意外と広いから私とドランがゆったり寝転べる広さよ。この辺りは暖かいから薄い布団で大丈夫ね。……さてと、テント設置できたから夜ご飯の準備しなきゃ。」
    「…もしかして薪いる?僕森で集めてくるよ。」
    「えっ、いいの?じゃあお願いしようかな。私は船から持ってきた食材の調理をするね。」
    「あぁ、分かった。わはは、いっぱい集めてくる。」
    ニコニコと笑顔を浮かべながら森へ入っていく。リィミンは箱から肉や野菜、調味料を取り出し手際良くナイフで切っていく。昼間買った魚も捌き別の箱の中に吊るしていく。水平線に太陽が沈みゆく時間になり、ランプに火を灯す。ドランが帰ってくる間、彼女は夕日を見ながら休憩していた。20分するとドランは森から戻ってきた。両手にいっぱいの薪を持っていた

    「わはは、お待たせ。これだけあれば足りるかな?」
    「えっ、凄い量の薪これドラン一人が拾ってきたの?」
    「あぁ、いつもやってたから慣れてるぞ。」
    ドランは地面に持ってきた薪を置いた。リィミンは「ありがとう」とお礼を言うと調理に使う為に半分程持っていく。焚き火台に燃えやすいように組み上げ、火を付けて鍋の中に具材を入れて調理していく。
    「リィの作る料理ってどんな味がするのかな?僕楽しみ。」
    「あら、ありがとう。私は色々な国を回ってきたし、料理のレパートリーも沢山よきっとドランも気に入るわ。」
    和気あいあいと話しながら調理していくリィミン。肉や野菜を入れ、調味料を足していくといい香りがしてきた。焦げないように混ぜる。
    「…ん、この匂いは、カレーかな」
    「ふふ、当り」
    スパイシーなカレーの香りが鍋の中から外へ広がる。リィミンは布の敷物を敷き、皿を二枚取り出す。更に鞄の中からパンも取り出した。
    「それじゃあできたから皿に盛るわね。」
    リィミンはお玉で鍋の中をぐるりとかき混ぜ、カレーを皿に盛っていく。自分とドランの分を盛るとドランに渡し、スプーンとパンも同じく渡していく。ドランは目を輝かせ嬉しそうな表情を浮かべていた。
    「わぁ、美味しそうだな。わはは、僕お腹空いたよ。」
    「ふふ、それじゃあ食べようか。このパンはカレーに付けて食べてもいいのよ。…頂きます」
    「おぅ、そうなのかわはは、僕も頂きます」
    焚き火台で燃える炎に照らされながら二人は夕食を食べる。
    「…んん、美味しい……カレーを食べたのいつぶりだろう。…リィの作ったカレーは、美味しい幾らでも食べられるよ。」
    「ありがとう私も久しぶりに誰かに料理を振る舞ったから嬉しいよ。…それに、誰かと一緒に食べるのもいつぶりかな。」
    「…リィも?」
    「うん。この旅に出てから殆ど一人でご飯食べてたから…。ふふ、こうして誰かと料理を食べるの嬉しくてね…。」
    「僕も母ちゃんを亡くしてから一人で漁をしながら食べてきた…。なんだかリィの気持ち分かるよ。」
    「……ドラン。でも今日からは私達は仲間でありパートナーだよ。もう一人じゃないよ」
    リィミンはにこりと笑いドランに見せた。その笑顔に安心したのかドランもにこりと笑う。朗らかな雰囲気の中、食事は進みドランはカレーを2杯おかわりして満足げな表情を見せた。夕食が終わると鍋と食器を片付ける。焚き火台に薪を足しながら食後の団欒の時間を取る。パチパチと薪が爆ぜる音が聴こえる中、ドランは一緒に持ってきた太鼓を美しい七音を打ち鳴らし、癒しの音を奏でる。
    「…そういえばリィってあの船の操舵上手かったけど、ずっと一人で旅していたのか?」
    「ふふ、そうよ。でも船で旅に出たのは3年前…14歳の時から。島や大陸で町に寄った時に人に会う以外一人だったわ。」
    「ん?リィって今17歳なの僕より2つ下なんだね」
    「えっ、ということはドランは19歳なの同い年かと思って普通に喋っていたけど。」
    「わはは、年なんて関係ないよ。僕は気にしないさ。」
    「ふふ、そうね。旅のパートナーなら気軽に話せる方が私は好きよ。」
    「それもそうだね。…そうだ、あの時リィは『あるものを探してる』って言ってたけど、リィが旅してるのも関係しているのか?」
    「あぁ、あれね。……私が探してるものは、この世界の始まりからあらゆる記憶が記されているという『アカシックレコード』というもの。少ないヒントを元に世界を回っているけど謎が多くてね…。」
    「『アカシック…レコード』?へぇ、世界のあらゆる記憶が記されてるものかぁ。この世界には僕の知らないものがいっぱいあるんだな。どんな物なのかな…。」
    「…この世界の何処かに存在しているのは確か。でも辿り着くまでは謎を解き明かして進むしかない。んふ、でも私は必ず辿り着けると信じているんだ。」
    「わはは、僕はリィのパートナーとして応援するぞ。」
    「ありがとう」
    いつの間にか空には満天の星が瞬く。闇夜の海岸に焚き火の炎が揺らぐ中、ドランが奏でる太鼓の音色と意気投合しながらお互いのことを語る二人の喋り声と笑い声が聞こえた。
    「んー、そろそろ寝ようか?」
    「そうだなぁ、僕も色々あったしちょっと疲れたかな。…あのテントで寝るの?」
    「うん。一応ドランの分の毛布も持ってきたし私達二人なら十分な広さだよ。ドランが寝転がっても余裕はあるから。」
    「それなら安心だね。僕には角あるし、どうかなと思ったからさ。」
    「そうね。…ランプに火を灯すから焚き火は消すわよ。」
    水の入った大きなボトルを重そうに抱えて、リィミンは焚き火台の火を水で消す。ランプの明かりだけが辺りを照らす。リィミンはランプを持ち、ドランと共にテントに入る。
    「おっ、意外と広いなぁ。」
    ドランはテントに入るなり、背負っていた太鼓を下ろし上着を脱ぐ。バチを差していた腰巻きも外し楽な格好になった。リィミンも紫色のケープを外して畳み、首に掛けているストームグラスペンダントも外し、鞄の側に置いた。毛布を二枚取り出すと一枚をドランに渡す。
    「大体野営の時はこんな感じで寝るよ。最初は寝にくいかも知れないけど、そのうち慣れちゃう。」
    「僕なら大丈夫だよ。こんな感じな所で寝てたからさ。」
    「そうなのでもこれからは船で寝ることもあるし、ドランの為に買ってあげなきゃね明日買い出しついでに買おうか。」
    「うぉっ、ホントかわはは、リィに感謝しなきゃ。ありがとう」
    ドランは無邪気な笑顔をリィミンに向けた。
    「それじゃあランプ消すよ。」
    「うん。」
    「今日はありがとね。おやすみ…。」
    「わはは、おやすみ、リィ。」
    ランプの火が消えると辺りは暗闇になった。天の川が輝く夜空に時より聴こえる波の音。自然の子守歌を耳にしながら、リィミンとドランはぐっすりと眠りについた。

    翌日――
    「ふぁぁぁぁ…」
    西の空にまだ星が輝く夜明けの時間。東の空は紫から薄い青に変わり少しずつ明るみを増していく。そんな中リィミンは上半身を起こし、大きなあくびをしながら背伸びをする。
    「…ん、リィ…?」
    「ドラン…。起こしちゃってごめんね。」
    「わはは、大丈夫。リィは早起きだね。」
    眠たい目を擦りながらドランは上半身を起こす。
    「なんて言えば言いんだろう…。私ね、世界中何処にいても必ず夜明けには起きてしまうんだ。家族では私だけ、だけど遠い祖先に私と同じ様な人がいてね…。」
    「へぇ、リィとその祖先の人に同じ様なことが?」
    「早い話それかな。…毎日夜明け頃になると何処からともなく不思議な音が聴こえてきてね、それは鳥の囀りや口笛の様な音…。昨日、ドランに歌ってあげたあの歌はその様子を表したものらしくてね。」
    「今はリィしか聴こえない音かわはは、どんなのか聴いてみたいよ。」
    「そうね。ドランが聴いたらきっと気に入るわ。…ねぇ、外に出て夜明けの海を見ようよ。」
    「ん、いいね。じゃあ楽器持って演奏するか」
    二人は寝る前に脱いだ上着やケープを着たり羽織ったりして外に出る準備をした。リィミンはストームグラスのペンダントを確認し、天気を予報して首から下げる。
    「それじゃ行きましょ」
    リィミンの合図と共にテントを出る。清々しい夜明けの空気を吸いながら砂浜へ向かう。薄い紫と青が混じる色の海面に白い波が立って心地よい音を立てる。
    「んー、今日も天気いいわね。風も問題無いし、航海には最適だわ。」
    「僕いつもは太陽が昇ってきた頃に起きるから、夜明けは初めて見るよ。…んー、ちょうど空の色がリィと同じだ。ほら、紫と青みがかった空。」
    「ドランは太陽が昇ってきた頃に起きるの元気っ子だね。……ん、ドラン今のその言葉ありがとう」
    「おっ」
    リィミンはニコリと笑顔になる。
    「ふふ、今の言葉で嬉しくなったから話すけど、私の名前は夜明けの別名『黎明』から名付けられたの。ある東の国の言い方では『リィミン』…と。」
    「へぇ、そうなのか黎明って言葉初めて聞いたけどいい響きだ。そうか、リィの名前にはそんな秘密があったのは僕驚いたよ」
    「ふふ、嬉しいわ。さっき話した不思議な音も夜明けに聴こえるし、私自身何か秘密がある気がしてワクワクするのきっと『アカシックレコード』に記されているはずだわ。」
    「色々な謎がある訳か…。リィなら自分の秘密を解き明かせるはずだよ僕も一緒にその謎を解いて行きたい」
    ドランはご機嫌な様子で太鼓を鳴らす。美しい七音は波の音と徐々に明るくなり始めた空に響く。水平線の彼方から太陽が昇り始めると、温かい日差しが二人を優しく包む。ドランは音階を変え明るいビートを刻むとリィミンは即興で歌い、新しく迎えた朝を祝福する様だった。
    「さぁ、今日も元気にいこうか」
    「わはは、そうだね。昨日言ってた場所に行くんだろ?僕もワクワクしてきた」
    「ドランにとって新しい冒険の始まりね。朝ご飯食べたらテントや荷物を片付けてプレアデス号に戻るわよ。」
    「おぅ」


    こうしてリィミンとドランの新たな冒険が始まった。リィミンが探している『アカシックレコード』の謎、夜明けに聴こえる不思議な音……解き明かす謎は幾つもあれど、パートナーとなったドランとならきっと解いていけるであろう。
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