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    14februaryyy

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    14februaryyy

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    バディコ時空土斎
    冬コミの新刊サンプルです。

    以前べったーにあげてた(現在非公開)ものに色々加筆したものを本にしました。
    中にも記載ありますが、短編集となっております。今回はその中から以前の公開分と土斎っぽいとこを抜き出して載せております。最初の二編が以前公開してたやつです。(この二編のみ全文公開してます)

    〆にコロッケそばを一つ本編のない後日談(前)鬼との出会い(過去編)とある休日の話 本編のない後日談(中)鬼の自覚 ☆注意書き☆
    お酒は節度を守って、適切な飲酒量で!
    酒は飲んでも飲まれるな、です。

    斎藤の一ちゃんが、お酒を飲んでやらかす話が幾つかありますが、お酒を飲んでいても守るべきラインは守りましょう。
    あと、人にお酒の強要は厳禁です。飲み過ぎる前に止めようね!


    ※本作はCBC礼装『バディ・コップ』の先輩後輩が聖杯を追って奮闘する本編の番外編短編集です。
    ※土斎をメインに、バディの後輩君やぐだ鯖達がわちゃわちゃ出てきます。
    ※本編がある体で話が進んでいきますが本編はありません。

    ※実在の人物、団体とは一切関係ありません。ふわっとお読みください。


    本編のない後日談(前)
    さんさんと当たる太陽がまぶしい。
    思わず、一度開けかけた目をきつく閉じ、腕で覆う。ぼんやりと、今は十時くらいだろうかと当たりをつける。

    ――まぶしい。

    腕で隠しても瞼の裏に明るさを感じ。十時くらい――それにしたってまぶしい。――ここ、こんなに明るかったっけ。
    明るく照らす日の光は容赦がなく、逃れるように寝返りを打つ。
    ――もしかして既に昼近い?―――体内時計の正確さには自負しているし、そんなにずれてもいないって思うんだけど――
    動いたことでずれた毛布を手繰り寄せ、再び戻ってきた眠気に身を任せつつ考える。
    東向きだけど、真向かいにマンションがあるから――だから、あまり陽が入って来なくて――。ふいに触れた枕を抱き込むように抱える。――まあ、大体あまり帰ることのない寝床だ。――日差しがよく入る、なんてそんな日も――あるのかもしれない。


    もう一度、寝返りを打つ。顔に当たる光は変わることなくまぶしい為、毛布の下に潜り込む。ふわふわのそれは更に眠気を誘う。
    ――そういえば。自分の寝床にしては――随分とスプリングが柔らかい。体を優しく包み込むその感触は、まどろみに揺蕩う状態で――何とも心地好く。もう一眠りしても良いかとさえ思えてくる。
    それに。触り心地の良いシーツからは――何だか懐かしいような安らぐような――そんな匂いもして―――

    瞬間。頭を掠めた警告に従い、思いっきり目を開く。が。僅かに遅かった。

    「よお、起きたか」
    あれだけまぶしかった日の光は、目の前の人物によって遮られ、ついでのように囲われたその体によって起き上がることも叶わず。ただただ正面にある、その男の顔を見つめることしかできなかった。
    「…………」
    どうしてもう少し早く気付かなかったのか。
    採光の良い南向きの明るい部屋も、スプリングの効いた寝心地の良いマットレスも、洗い立ての肌触りの良いシーツも。全部全部、眼前にいるこの人の家以外あり得ないというのに。
    「………………」
    じっと見つめたところで、その先の表情が動くことなどなく。
    そんな男に逃げ道も抵抗する手段も塞がれて。その上、眼光鋭いその瞳に射ぬかれてしまってはもうどうしようもなかった。
    「………………」
    「………………」
    ぱちぱち、ぱちぱち、と。
    まばたきを繰り返すうちに、この状況が好転したりしないかな~と願ってみるが。そんな事など全く起きず。
    致し方なく観念し、目の前の鬼に挨拶をする。
    「…………おはよう、ございます……」
    「おう。はよう。」
    そう言って。ようやく俺を囲っていた鬼の表情が動いた。それはそれは愉しそうに――或いは可笑しそうに――笑みの形を作り。
    男はそのまま、ゆっくりと顔を降ろしてくる。――そのあまりにも綺麗な笑みがこちらに向かって来たことに動揺し、思わず目をつぶってしまう。そして――

    「っ痛」

    バチンと大きな音がして、額に衝撃が走る。
    ――いや、これ、地味に痛いんですけど。

    「勝手に入り浸ってんじゃねえ」
    額を押さえながら耐える俺など気にも留めず、こちらの上から退いた男――俺の上司でもある鬼、もとい土方さんは小言を続ける。
    「来る時は連絡入れろと言っただろ。」
    この部屋の家主の言葉は尤もではあったが。
    「――あんた、なんでここにいるんですか。」
    あまりの痛さに涙目になっているが気にしない。
    確かこの人、まだ別件で署に缶詰状態だった筈だ。同じ部署の山南さんに聞いたんだ、間違いない。――だからちょうど良いと思って、滅多に使わない合鍵を使ってここに泊まったというのに。
    「お前が非番になったと聞いてな。強引に休みを取った。」

    しれっと。
    目の前の鬼はそう宣った。

    ――え。何してんの、まじで。
    思わず、馬鹿じゃないですか? と、叫びそうになった口をつぐんで閉じる。
    「長らく別行動とらしてた部下の仕事が片付いたんだ。報告を聞く義務くらいあんだろ。直接聞いてくると言って帰って来た。」
    ベッドのそばに立つ上司は、そう言ってこちらを見据えて笑う。口角を上げて笑うその表情はとてもとても格好良かったが、かなりの極悪具合だった。
    つか、それよく近藤さんが許したな?――いや、あの人なら許すわ。面白がって、爆笑しながら許可を出す姿が目に浮かぶ。(なあんで、止めてくんねえのかなあ)
    「まあ、有給が大量に残ってるってのもあったがな。――たまには消化しろ、だとよ。」
    仕事の鬼のこの人が滅多に休むことなんてないから、まあ確かに。どんな理由でも休ませたい、ってことなんだろうけど。(だとしても、時と場合ってのがあるでしょうよ)

    「……さいですか。」
    はーっと、思いっきり息を吐き、そう答える。
    珍しく悪態を隠さないこちらに何を思ったのか。じっとこちらを見つめる視線には無視を決め込む。
    「………………」
    「………………」
    不意にその視線が途切れた。
    「――取り敢えず、起きろ。何か淹れてやっから。」
    がしがしと。頭をかいた土方さんはそれだけ言って。寝室であるこの部屋の入り口へと向かう。ようやく起き上がろうとするこちらには一瞥だけをくれて。――そのこちらを見据えた瞳の色が気にならなくもなかったが、目を閉じてやり過ごす。
    どうやら上司手ずから世話を焼いてくれるらしい。
    「じゃあ――」
    いつも通り珈琲を貰えます?――そう頼む言葉を遮るように、ローテーブルの上に放置されていた、真っ黒いスマホが鳴った。




    ◇ ◇ ◇




    とあるファミレスの一角。
    「お休み中のところ、本当に申し訳なかったです。でも、お陰でとても助かりました!」
    にこにこと。それはもうにこにこと。満面の笑みで、目の前の後輩はお礼を述べる。――あのいつもの邪気のない人好きする笑顔を惜しみなくこちらに向けて。
    「いいよ、別に。困ったときはお互い様でしょ。」
    それにへらりと笑って返し、テーブルの上にあるメニュー表へと視線を落とす。――へえ、季節のオススメメニューに――なんてあるんだ。
    「いえ。受けたご恩はきちんとお返しします。」
    案内された四人掛けのテーブルの向こう側。そこに座る後輩は背筋を正して、きっぱりとそう口にする。
    「いや、別に返さなくても良いけどね」
    ――僕、権限振りかざして、ちょちょっとこの後輩を現場からかっさらってきただけだし。そんな大したことはしていない。
    季節限定メニューをひっくり返し、その裏側を眺めながら、相変わらず義理堅い後輩に苦笑を返す。
    ――まあ、だいたい、たまたました人助けからあんな事に巻き込まれる、なんて――。そっちの方がよっぽどでしょうよ。僕だったら­そんなもん、人助けだけして、とっとと逃げ出すところなんだけど。
    ――それを笑って受け入れてしまうこの後輩はつくづく人が良すぎる。
    人が良すぎるせいでちょっとした事件に巻き込まれる、とか。とんだお人好しだなぁとは思うが。

    ざわざわとする店内。軽快な音楽と時おり鳴るブザー音に混じって、がやがやと話す雑多な人の声が聞こえてくる。メニュー表を眺めながら、ついでのように周囲をざっくりと見渡す。
    さすがにお昼時ともなればそれなりに活気があるようで。
    ――結構、混んでるねぇ。
    とある事件(って程でもないけど)から後輩くんを救出したその足で、そのままここに腰を落ち着けることになった訳だけど。――割りとリーズナブルで、どこにでもあるチェーン店を選んだのは、ゆっくりと話を聞くためと、この人が良すぎる後輩の胃袋を考えてだったが。思ったよりも混雑している店内に、少しだけ辟易する。
    ゆっくりと悟られないよう息を吐き。知らず入っていた肩の力を抜いて、ようやくメニュー表から目を離す。
    向かいに座る後輩くんは、相変わらずいつも通りのお人好しな笑顔を携えたまんまで。
    「――取り敢えず、何か頼む?」
    お腹空いてるでしょ――と言って、後輩くんに差し出したメニュー表は、右隣から現れた黒い腕に掻っ攫われた。

    「――――おい。」

    ずーーーーーーっと見ない振りと気付かない振りをしていたが、さすがにそろそろ限界だったようだ。隣から半端ない圧力をかけまくっていた真っ黒い腕の持ち主――土方さんが、容赦なく鋭い眼光を俺に向けてくる。
    「あーっと、彼がご報告した例の件を一緒に追ってる後輩くんで――」
    多分、呼び掛けたのはそういうことではないのだろうが、丸っと無視して、後輩くんを紹介する。あの部屋で受けた着信の後から、ずっと後ろを着いてきたこの人にはもう分かりきってることではあると思うが――それはそれ、これはこれ、である。
    「パーシヴァルと申します。先輩にはいつも助けられてばかりでして……本当に感謝しかないです!」
    にこにこと。それはもうにこにことした、満面の笑み。この仏頂面の怖い鬼の前でも、この後輩の笑顔は崩れることなく。むしろ何か増してない? ってくらい、人好きる笑顔が溢れだしてるんだけど――
    「――で、この方は土方さん。俺の――」
    「先輩の恋人さんですよね! お噂通りの素敵なお方です!」
    「――――は?」
    うわっ良い笑顔。――じゃなくて、何言ってんのこの子?!
    俺の混乱なぞ他所に、後輩くんは今日一番の、それはそれはとても良いきらっきらの輝く笑顔を浮かべている。
    それを呆然と眺めなてる俺の横から――敢えてずっとその存在を無視してた横から――空気が緩む気配を感じ取る。
    「あれ、違いました? 先輩よく電話されてたじゃないですか。」
    きょとんとした顔を傾けて。俺の疑問に、後輩くんは律儀に説明をしてくれる。
    「いつも聞いたら『恋人』だって仰って。」
    確かに――確かに、現場での報告は下手なことを言えないから、そういうフリをすることはしょっちゅうあったけど――
    「全部は違うと思いますけど、先輩、いつも表情柔らかだったかなら。本当に恋人さんなんだろうなって思ってたんですが――」

    ――違うんですか?

    あのきらきらの笑顔をトドメのように向けられて。
    俺は思わず頭を抱え込む。

    それを多分――ほんの一瞬の出来事だったから、多分――笑って聞いていた隣の男が、口を開く。
    「――ああ。恋人の土方だ。こいつがいつも世話になってる。」
    チラリと指の間から覗いたその表情は、男前な微笑みを携えた、社交辞令で良く見る普通のものではあったが。その目がいつも以上に喜色に満ちていることを見つけてしまい―――ものすごくいたたまれない。
    「あ、いえ。こちらこそ、お二人の休日の貴重なお時間をお邪魔してしまい本当に申し訳なかったです」
    「いや? 困ったときはお互い様だろ。それよりこいつが――」
    「あ、すみません店員さん! 注文とってもらっても良いですか?」
    「…………」
    何か言いかけた土方さんを遮って、ちょうど運良く通りかかった店員さんを呼ぶ。これ以上、この空気に堪えかねた俺は、無理矢理注文を頼むことで、この状況から逃げ出すことにした。


    鬼との出会い(過去編)
    上手いか下手か、なんて関係ない。勝つか負けるか、それだけが全ての命運を決める。それだけが勝負の世界においての絶対的なルール。変えることのできない理。そう大事なのは『勝った』か、『負けた』か。――決して、上手いかどうかじゃない。
    上手いから『勝てる』――なんて、そんな生易しい世界ではないのだから。


    ◇ ◇ ◇


    新入生を歓迎するようにあれだけ咲き誇っていた桜も、気付けばすっかりと青々とした葉に成り代わり、初夏の日差しを隠す木陰を作るようになった頃。
    裏門に程近い、特別棟の傍に植えられている木々の下で、斎藤一は胴着を着たまま涼んでいた。初夏と言っても、それなりに汗ばむ陽気のため、日向となる屋上よりかはとこちらを選んだのだったが。時折、風が通り抜ける以外、音も人気も薄いこの場所は快適以外の何物でもなく。次からはここに来てサボろうと心に決める。
    涼を運ぶ風がまた通り抜ける。木に凭れながらその涼しさを感受する。程好い静けさに、心地好い気温。昨日はサボらず参加したからその疲れも合わさって、うとうとと、少しだけ眠気がやってくる。目を瞑ると、木の影が作り出す暗さも手伝って、余計に眠りに誘われる。――どうせサボるつもりでここに来たのだ。このまま寝てしまっても良いか、と、そのまま意識を委ねる。
    風が吹いたのか、木々が揺れる。さわさわと木の葉の掠れる音がする。――ゆったりと、時間が流れてく。

    「おい」

    唐突に、声をかけられた。
    あまりにも突然の出来事に、斎藤は慌てて自身の目を抉じ開ける。
    目の前には、こちらを見下ろす鋭い眼光をした男が一人。並んでみないと分からないが、つい最近成長期で一気に伸びた自分よりも、男は明らかに背が高そうだった。
    見下ろしてくる鋭い視線を受け止めるため、見上げている首が痛い。
    ――座ってても分かるとかどんだけあんだよ。そう心では悪態をつきながらも、緩むことのない鋭い視線に怯まず返し続ける。気を抜いたらその眼力だけで負けてしまいそうな威圧感。斎藤は見たことなんてないけど、その形相をまるで鬼のようだと思った。
    ――この人、いつからここに居たんだ。足音なんてしなかった。それなのに。いくら眠りの世界に誘われていたと言っても、そう簡単に気配にまで疎くはならない。だというのに。なんなんだこの人。
    「お前、こんなところでサボりか」
    「そういう貴方は。――ここは関係者以外立入禁止の筈ですが。」
    昨今の時勢を鑑みて、学校内への立ち入りについては大分厳しくなっていた。ましてや、今日は土曜日。休日にやってくる外部の人間なんてますます怪しかった。こんな裏門に近い場所に居るのも余計に。――確かに、正門の方は守衛のおじさんが居たが、裏門は特に誰もいない。しっかりと門が閉められているから、人を置く必要がない。という判断なのだろうが――そんなもの、乗り越えて侵入しようという人間には格好の場でしかない。
    まあ、かくいう斎藤自身も、裏門に人がいないと知っていたから、サボりの場所としてここを選んだのだか――
    「俺はここの関係者だ。ちゃんと許可証も持ってる。」
    ほら、――そう言って、男は首から提げていたカードケースを見せてくる。〝許可証〟と確かに書かれたそれは、きちんと手続きを踏み、この学校に訪れた人間であると示していて。
    「それに、俺はお前の先輩でもある。――ここでサボってんのか」
    ぎらりと。こちらを刺すように目の前の男は眼光を深める。
    ――〝先輩〟ねえ。そういえば誰かが――確か沖田ちゃん辺りが、そんな事――何個上かの先輩が練習を見に来るっていう――言ってたっけ。斎藤はそんな事を記憶の中から引っ張ってくる。
    「俺はあんたみたいな先輩、知りませんけど」
    まあだからと言って。従ってやるつもりは全くないけど。更に眼力の増した目を睨み返しながら、斎藤はそう返答をする。――つかこの人なんなの。うちのOBとか以前にどう考えても一般人じゃないでしょ。――その鬼のような風貌とか色々と。いや、逆にOBじゃないのに関係者札下げてるとか、怪しさしかないけど――
    「お前に見覚えがなくても、俺はここの卒業生で元剣道部員だ。剣道部の副部長もやってたんだが――まあ、ともかく。それはつまり、お前の先輩ってことだろうよ」
    「…………」
    ――唖然。なにその理論。
    斎藤は、自分の知る常識からかけ離れたその理屈に、しばし呆然と固まった。
    ――生憎とこちらは実力社会で成り上がってきたもんで、上下関係なんて、くそくらえ――なんですけど。大体、強いやつが上に立てるもんでしょ。弱いやつなんて――こうして、フケるのが、精々関の山ってやつで。
    「部活には行かなくて良いのか。――斎藤」
    びくりと。呼ばれた名前に反応し、つい肩が上がりそうになる。が、必死で押さえ込む。――どうして、俺の名前を――――
    「目の下に隈、ウェーブかかった鬱陶しい程に量がある、肩までの髪の毛。それとこっちを睨む目付きの悪さ。容姿についちゃ、沖田から聞いてたまんまだからな。すぐに分かるだろ。」
    沖田――その名前にも少しだけ反応しそうになるのを全力で押さえ付ける。――ああ、なるほど。この人、沖田ちゃんの知り合いってワケね。――だから、どうした。って感じではあるけど。
    「んな睨むな。俺ア、たまたまここを通りかかっただけだ。近藤さんが先に行ってるから、ちょっとだけ遠回りして体育館に向かってただけでな」
    がしがしと。きれいに整えられた髪を崩すように頭を掻いた目の前の男――沖田の知り合いらしい剣道部OBの男――は、あろうことか、何故かそのまま、斎藤の――俺の目の前に座り込みやがった。
    さわさわとさっきからひっきりなしに木の葉を揺らす風が吹き抜ける中、木々が作り出す木陰に覆われた芝の上に、何の躊躇もなく座り込む。よく見れば――その厳つい雰囲気と容姿が邪魔をして気付かなかったが――、男は上着こそ無いが着ているものはスーツのそれのようで。白いYシャツに黒いスラックスの格好だというのに、戸惑いなく、所々禿げて土が覗く芝生で胡座をかいている。
    俺だって黒い袴だからと気にせず樹の根本に座り込んでいるが。意外と土汚れというものは、黒い布地でも目立つもので。――そんなこと、一切気にする素振りを見せず、目の前の男は風を受けて涼んでいた。
    「俺が在学中も、ここは良い穴場だったが。樹がでかくなったから余計に涼しいじゃねえか。」
    そのまま目を閉じて黙り込む。これは完全に涼む体勢だ。組んだ足の膝の上に肘を付き、男は風を受ける。

    一呼吸、二呼吸。――しばらくしても微動だにしないその男に、斎藤は、警戒して強張っていた肩の力を抜く。
    向こうが特に何もせず、ただそこに居るだけなら、こっちはこっちで好きなようにするだけだ。無視だ、無視。
    ――そう決め込んで、目を瞑ろうとした瞬間。

    「怖いのか。」

    たったの一言。目の前の男が言葉を投げてくる。
    ――その言葉に。反応したら負けだと脳内は訴えてくるが。

    「…………何が。」

    条件反射。目も開けず、言葉を投げ掛けてきたこの男の事なんて、無視すれば良かったのに。――つい、口が付く。
    「――負けんのが、怖いんだろ」
    見開いたその両目と共に。男からまっすぐな鋭い言葉が投げ返される。
    ――確かに怖かった。一度の敗北なんて、気にしたって仕方がないと思うかもしれない。だけど。一度負けるということは、次も負けるかもしれない――その次だって、負けるかもしれない。〝勝てる〟と、そう思えない限り。それは無限に続く、抜け出すことのできない負のイメージの連鎖となって。振り払えない限り、ずっとまとわり続ける重い枷となる。だから、怖かった。
    ――だけど。

    「――だとして。それを何であんたに言われなきゃなんねえ」

    赤の他人である、名前の知らねえあんたに。
    今日会ったばかりの、あんたに。
    「赤の他人だから、だろ。俺はテメーの実力なんて、これっぽっちも知らねえ。知ってんのは、サボってる癖に生意気な態度ばっかとるガキってことだけだ」
    「あんたなあ――」
    思わず、声を荒らげる斎藤を他所に、男はその鋭いまんまの冷静な言葉を被せてくる。
    「勝てねえ――そう思ってる内は、いつまで経っても勝てねえぞ」
    「――!!」
    「弱えか下手か、なんて関係ねえ。勝ちゃ上手くて強えんだよ。――それに最初から勝とうともしねえ奴が、勝てるわけねえだろ」
    「――――」
    「……そうじゃねえと示してえんだったら――勝ってみろ。」

    「勝負くらい、受けてやる」

    言われた事は、腹が立つくらいの正論で。でも。この時、大人ぶっていたが、結局はガキであった斎藤には。腸が煮え返り、ぐるぐると抑えきれない怒りとも付かない感情が渦巻いて。
    どうする――と。投げ掛けてくる相手のその反応すら、鬱陶しい。――冷静に、こちらを見つめてくるその目が、とてつもなく苛々する。
    あまりの苛立ちさに、手が出そうになる衝動を抑えつけ。――斎藤は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。
    二度、三度。
    吸っては吐いてを繰り返す。

    「………………あんたに勝てば良いんだな」

    何度かの深呼吸のあと、斎藤はゆっくりと瞼を開き。まっすぐに相手を見据えながら、やっとその勝負を承諾する。

    「――ああ、勝ってみろ」
    にやり、と。目の前の鬼のような男は笑った。 







    ――結局。
    結果からすれば一勝二敗のこちらの負けだった。胴着のまんまサボっていた俺を伴って、剣道部が練習してる体育館へとやってきたこの男は。有無を言わさず〝近藤さん〟というもう一人のOBに声をかけ、あっという間に試合ができるよう整えてしまった。
    『三本勝負な』と、そう言って借りた胴着をつけ、お面の向こうで不敵に笑ったこの男を。叩きのめせたのはたったの一回だけで。――それも、三本目で漸く。
    フツーは向こうが二勝した時点で終わりでしょ。――いや、この場合、先に三勝した方が勝ち? って、もうこれ以上僕はできないんだけど。――体育館の床の上、伸びきったまんま心の中で悪態を付く。
    三本目、それだって何とか辛勝したのだ。一本目と二本目で打ち続け、打たれ続けながら見つけたこの人の〝癖〟を逆手にとった、やっとの一本。体力も気力も頭脳も全部全部フル活用フル回転させて。漸く掴み取った勝利だったから。精魂つきるって正にこんな感じ。――なあんて、へらへら心の中で考えつつも、伸びきった体は起き上がることもできない程に疲れきっていて。
    ――勝ってもコレって、ちょっとダサすぎじゃない? とか思わなくもないんだけど。でも。
    「やればできるじゃねーか」
    寝っ転がる俺の傍らに、対戦相手だった男が立つ。声を掛けてきたその表情は、体育館を照らすライトに当たって逆光となり、よく見えないけど。喜んでると分かるその声色に。こちらも口角が上がるのを、隠せそうもなかった。――たったの一勝。それをこの人がものすごく喜んでくれている。その事実が、高揚していた俺の心を更に弾ませて。

    「…………あんたに二回負けましたけどね」

    内心の喜びとは裏腹に、どうしても素直になれず、つい口からは悪態がこぼれる。多分、目も口も既に緩みっぱなしで、全然説得力なんて無さそうだけど。声だって、そこに喜色が混ざらないようぶっきらぼうに返したが、端々には残ってるのがバレバレで。
    ――後に、沖田から『斎藤さん、あの時喜び過ぎてめちゃくちゃ気持ち悪かったですよ』と、再三言われ続けるくらいには隠せてなかったけど。
    「そりゃおめえ、こっちだって面子っつーのがあるからな。――そう簡単に勝たせる訳ねえだろ」
    にやりと、あの口角を上げた意地の悪い笑みで返される。――ああ。これがこの人の癖、なんだな。その笑顔を何度となく向けられ続けることが、どうしてかとても嬉しかった。――格好良いなあ、なんて思ってしまった俺は多分、勝てた事で相当気が緩んでいたらしい。

    「だから、その一勝。誇れよ」

    そう言って、差し出された右手を掴み。男に引っ張られながら、俺は上半身を起こす。
    力強い大きな右手だった。分厚くて、ずっと刀を握り続けていると分かる、そんな右手。自分の手のひらの薄さに、まだまだなのだと思い知らされて。――多分、きっと。俺はこの時自分の行く道を、将来の事を、決めてしまったんだと思う。

    ――この男に付いていきたい、と。この人の下で、この人を支え続けたい――、と。

    『お前、卒業したら俺の下に来いよ』
    そう誘われるのは、この後――起き上がった俺の頭を掴み、容赦なく髪の毛をぐっちゃぐちゃに掻き回された後――だったが。その前に多分、俺自身は決めてしまっていたんだと思う。


    漸く一段落着いたことで、駆け寄って来た沖田ちゃんからの、「土方さん!」というその言葉で初めて名前を知った――より正確に言えば、その後まじで勧誘するつもりだったらしく渡された名刺にてきちんと名前を知った――その男に、運命を委ねることを。


    これが俺、斉藤一と、俺の後の上司、土方歳三との出会いだった。 


    とある休日の話
    〔駅着いたけど、沖田ちゃんどこいんの?〕

    片手で器用にスマホへと文字を入力しながら、男はきょろきょろと辺りを見渡す。そこそこ大きめのターミナル駅の改札口は、様々な人であふれかえっていた。送信ボタンのタップと共に、トーク画面に文字列が並んだことを確認し、男はスマホの照明をオフにした。
    薄いブルーのジーンズに、バンドカラーの白いシャツとミルクチョコレート色のセーターを合わせ、その上から黒いダウンを羽織ってしっかり防寒をした男――斎藤一は、混雑する駅の改札のそばで待ちぼうけにあっていた。
    今年一番の寒さを日々更新している毎日ではあるが、公休日でもある今日は、かなりたくさんの人が出掛けているようだった。――みんな元気だね~と、斎藤は思いながら、スマホとは反対の手に持っていたカップの蓋に口を付ける。買ってからそれなりに時間は経ったものの、まだまだ熱さの残るそれに息を吹き掛け、一口飲む。
    ――甘い。
    メニュー表に書かれていた、季節限定というその言葉に惹かれてつい買ってしまったが。斎藤は少しだけ後悔する。口の中が随分と甘ったるい状態になってしまったからだ。――なんだったっけ。確か、ホワイトチョコが入ってて、なんたらなんちゃらとか。――ああ、そういえば。そろそろそんな時期だっけ――と、斎藤が思い出していたところで、右手にずっと持っていたスマホが光ったのを視認する。ロックを解除した画面に、先程のトーク画面を呼び出すと、そこには相手からの折り返しのメッセージが入っていた。


    〔どこら辺にいます?〕

    それ、さっき僕が聞いたことなんだけどな~と思いながら、斎藤はキーボードを呼び出し素早く文字を打ち込んでいく。

    〔言われた通り、南口改札の前〕
    〔目の前にあるショップの横〕

    立て続けに連投し、向こうからの返信を待つ。投稿時間の下に既読の文字が付いたから、こちらの場所は把握してると思うんだけど。そこまで斎藤は思って、じっと画面を見つめる。――そもそも、待ち合わせ時間に三十分くらい遅れると連絡が入ったから、近場にあった某有名コーヒースタンドで飲み物を買って暇を潰していたというのに――そして、買ったものの着いたと連絡が来たから、一口も飲めずにカップを抱えたまま、また駅前に戻ってきたというのに――、さっきから斎藤が見渡す範囲内に、探し人は見当たらない。どこにいるのかを聞きたいのはこちらの方なのだったが。
    と。暗くなりかけていた液晶が光り、新しいトークが追加される。


    (中略)


    本編のない後日談(中)
    次からはそちらのベルを押して、お呼びくださいね――と、にこやかに言って、店員さんは去っていく。それに、すみません、次は気を付けます――と、へらりと笑って返して、メニュー表を片付ける。強引に進めた割りには、皆ちゃんと頼んでくれたので、滞りなく注文できたのは良かった。あとは、兎も角。料理が出てくるまでどう過ごすか、なんだけど――。
    「あ、お水とか取ってきますね!」
    そう言って、立ち上がった後輩を止める暇もなく。彼はドリンクバーのある方へと歩いていく。
    まあ、こういったファミレスには何度も足を運んだから、大丈夫だとは思うけど。後輩くんに任せることを申し訳ないと思いつつも、だからって、右隣に陣取って、俺の出口を塞いでるこの男と彼を二人っきりにさせるのも嫌だったので。仕方ないからここはパーシヴァルに一任しよう。――何を言い出すか分からないし、何を聞こうとするかも分からないし。あの後輩から、この鬼が何も情報を得ることが出来ないように、見張っていないと。
    その為なら、今、ほんの少しの間。この人と二人っきりになることくらい、甘んじて受け入れよう。結構、いやかなり嫌だったけど。鬼の視線はさっきまでと違い、幾分か和らいでいるし。むしろ、少しだけ機嫌良さそうだし。
    ――なんで良いのかは、ちょっと考えたくないけど。


    ◇ ◇ ◇


    パーシヴァルが取ってきてくれた水を飲みつつ、目の前の光景を眺める。相変わらずすごいというかなんというか。四人掛けのテーブルいっぱいに載せられた皿、皿、皿の数々。この半分以上は、向かいに座る後輩が頼んだものだ。――いや、だからここに来たんだけどね――。ステーキにグリルチキンにハンバーグとベーコン。白身魚のソテー。マッシュポテトにサラダにスープ、それからライスが二皿。いつ見ても、すごい光景だな~と感心する。
    まあ、横の人も結婚食べるんだけどね。残りのほとんどがこの人の分だし。鶏の竜田揚げの和食御膳に天ぷらに刺身に、それから焼き魚にたくあんに。食べるな~ほんとに。
    僕? 僕は、季節限定のこの牡蠣天ぷら付きせいろ蕎麦で問題なく足りる人間なので。
    いや、だってこれ見てるだけで十分お腹いっぱいになるからね!? 別に僕が少食って訳でもないしね!? ただ、一緒になって食べる気がないってだけで……
    「ほら斎藤。半分やるから天ぷら食え」
    「先輩、このハンバーグ美味しいんで半分あげますね」
    まるでタイミングを示し合わせたように、二人とも僕に料理を薦めてくる。いやいや、要らないよ?
    「遠慮しちゃダメですよ、先輩。ただでさえ細いんですから、ちゃんと食べないと!」
    「ほぉ、気が合うな」
    「いや、大丈夫だって、僕はこれで十分――」
    「あ、やっぱり先輩は普段から食べてないんですか?」
    「ああ。言っても聞かねえ。から、無理矢理食わせてる」
    「心配になりますよね、先輩の食生活。この間なんてコーヒーで十分とか言って……」
    「確かに。仕事中の朝はほとんど食わねえな」
    「そうなんですね……」
    「安心しろ、休日は食べるように色々用意してる」
    「それは良かった! あ、あの……」
    「なんだ?」
    「――いや、俺の話聞いてる?」
    こっちの話なんか聞いちゃいない。どうやら二人の中で話が合ったようで、僕を置いてそのまま会話が進んでいく。話題が話題なだけに、ちょっといただけなかったりするけど。――まあ、いいや。食生活に関しては今更どうこう足掻いたところで全部知られてる訳だし。押し付けられる前に食べ終わっとけば良いでしょ、とりあえず。
    未だに僕の食生活で盛り上がってる二人をよそに蕎麦を啜る。蕎麦の香りと山葵が鼻を抜ける感じがとても良くて。結構うまいな、これ。
    「あ、先輩あげたハンバーグもちゃんと食べてください!」
    「こいつの言う通りだ、斎藤。食え」
    「いや、だから、十分ですって!」


    (中略)


    鬼の自覚
    「……俺にも優しくしてくださいよ」

    べろべろに酔っ払った赤い顔をして。目の前の部下はそう宣う。
    ――瞬間、走った衝撃を。多分、この部下は一生知ることなぞないのだろう。そう思った。



    ◇ ◇ ◇



    広い会議室の一角で。真剣な表情をして聞き入るその姿を見つめる。方々に跳ねた短髪に、ひょろっとした体躯。それを黒いスーツに包み立つ男――斎藤は、山南からの情報を真面目に聞き入っている。
    意志の強いまっすぐな目。それが、方々に跳ねた短い髪では隠せないからか、はっきりと顕になっていて。俺の目に、しっかりと映る。
    ――以前の肩程まであった髪の毛を懐かしく思う。あの鬱陶しい程のウェーブ掛かった髪は、その表情をよく隠していて。勿体ねえなと、何度か思ったが、その間から見え隠れする消せてねえ鋭い眼光も、あれはあれで悪くなく。良かったのになあ。気付いたら邪魔だからとバッサリと切り落とし、今の短髪が定着していた。
    まあ、それはそれで悪くねえんだが。

    その目元には出会った時と変わらず隈の残ったものであり。
    どこまでも真面目で隙のないこの男の、意志の強い、鋭い視線が隠されることなくはっきり見えんのは、それはそれで良いもんだ。
    ついつい口元が笑みを形作る。

    人が足りないからと駆り出された他所の捜査ではあるが、きっとこいつは関係なく解決の一手を導くのだろう。
    何時だって二つ返事それだけで、こちらの仕事を完璧にこなすこいつなら。全く問題ねえ。

    「斎藤」

    そう声をかけ、俺はこいつへの指示を出した。



    ◇ ◇ ◇



    「付き合わせて悪かったな、斎藤」
    「……いえ」
    向かいの席に座る斎藤は、静かにそう言って、頭を下げた。
    「お陰で良いもんが選べた。礼を言う」
    「なら、良かったです」
    まっすぐと斎藤を見つめ、そう伝えれば。斎藤は、目を伏せて簡潔にそう返事をしてくる。態度も言葉も何もかもが淡々とし、素っ気ねえが。少しだけほっとしたような雰囲気に、珍しくこいつも緊張していたんだなと思った。

    とある百貨店の、とある甘味処で。二人掛け用のテーブルに通された俺たちは、向かい合って席に着き、午後の一時を過ごしていた。
    世話になってる、とある老師への手土産を買いに、ここへはやってきた。毎年毎年、この時期になると、茶請けになるようなもんを買ってその師の元に訪れているのだが、何年も続けてりゃ、そろそろネタも尽きる。――そう、沖田に溢せば、『斎藤さん、お菓子詳しいですよ』と珍しく為になるようなことを言い。ならばと、さっそく斎藤を連れ出し、選ぶのに付き合ってもらった。
    沖田の言う通り、こいつは菓子に詳しく。こちらがどういうもんがほしいかを聞いた上で、丁度良い塩梅のもんを見立てた。無理矢理連れ出してきたことに少し怒ってんのか、斎藤は終始堅い態度のまんまであったが。仕事はきっちりとこなすところは、普段と変わらねえなと、つい、顔が笑みの形を作る。そんなこちらの様子に、ますます態度を堅め、斎藤は眉間に皺を寄せ、淡々とした態度を保ち続けた。
    こいつがあんまりにも頑な態度のまんまだったので、そのままお開きにしても良かったのだが。だからってなあ。それで帰させんのは無理矢理連れ出した身としても、こいつの上司としても面目が立たねえ。そこへちょうど目に留まったこの甘味処に、少しだけ人混みに疲れたと言い訳をし、こいつへの付き合わさせた謝礼も兼ねて、俺は休憩と称して、斎藤を引っ張り込んだ。


    (後略)


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    14februaryyy

    DOODLE響伊
    着物セする響伊ちゃんの導入話
    (※着物セはしません)

    だらだら書いてたら長くなったので、とりまここだけ放出しときます。これの話の先に以前投げた制約付けた話が来ます。
    今回はセッシーンはないです。今後投げるかは未定です。
    『伊織って女王様みたいなとこあるよね』
     そう榊が言っていたのは何時のことだったのか。あまり記憶にないが。確か何かの個展で灰島と組む機会があって、その際によくそうこぼしていた筈だ。
     卒業してしばらく経つが、榊も榊なりに色々なアーティストと組んでいたから、『一級品な皇帝様と組めるなんてラッキー』なんて、最初こそは喜んでいたが。個展の準備が終わる頃には大分げっそりとしていて。なかなかの見物だった。普段はのらりくらりと、どんな相手にも適度な距離感を保ち、余裕綽々を地で行く男でも。灰島伊織という男は鬼門であると知って。──少しだけホッとしたのを覚えている。榊程の男でも振り回されるなら、俺が振り回されるのも仕方がないということだ。……別に、俺が人とうまく関係を構築できないのが原因ってわけじゃない。あいつが規格外なだけだ。そう自分に言い聞かせることが出来るわけだし。──そうだ、俺は悪くない。全部あいつのせいだ。そうやって責任を押しつけて、逃げられる。──そう思っていた。
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    14februaryyy

    MAIKING土斎
    スペース組ネタ
    ※スペ土×斎ではないです
    ※冒頭のみ

    土さん誕生日お祝いに置いときます🎂
    本当は年末にペーパーになる予定だった残骸です。
    これの続きというかオチはあるのですが、間がないので取り敢えずここまで。どっかで形にしたいな~~とは思ってます。
     一瞬、何が起こったのか分からなかった。僕はさっきまで目の前のスマートフォンをいじってた筈で。それ以上でもそれ以下でもなく。ただ目を開けたら、世界が一変していた。それだけで。現代社会に居た筈なのに、気付いたら知らない別世界に居る、とか。そんな小説じゃないんだから。
    「いや、ほんと。どういうこと?」
     眼前に広がる光景に、ただ目を丸くする。

     スマホが光った先で、異世界転生、なんて。とても洒落にはならないんだけど。



     それは本当にいきなりだった。
     特に変わったことがあった訳でもない。例えばこういう場合に(もちろん現実ではなく物語の中での話だが)よくありがちな、スマホ画面に何か変わった表示があったとか、余所見をしていて轢かれそうになったからとか、そういう事象が直前に起こった訳でもなく。ただただ目の前のスマホをいじっていた、それだけだったのに。
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