辺獄にも星は輝く「─さよなら、だ!」
『ま、まて、まてェッ!』
『末だ、拙僧には奥の手がッ・・・・・・ ─!』
あぁ、つまらぬ、つまらぬ。まだこの遊戯を続け快楽を貪り一切を嘲弄してやりたいのに──
『嗚呼・・・・・・ 何時の世で、あろうと・・・・・・ 』
『悪事とは・・・・・・ うまく、運ばぬ・・・・・・ もの、です、なァ─』
───気がつくとそこは闇だった。
堕ちているのか、浮上しているのか、上下左右前後も解らぬ自分の手元すら見えない闇。
そも自分は“人”の形を保っているのかさえも判然としない。
『暗き闇底、いや、底なのかも定かではない、か・・・』
《死後さばきにあう》仏の教えだとして極楽浄土に行ける訳も無し、天国などもっての他。地獄の業火に焼かれるのもまた一興─
『天国でも地獄でも無し、まさに“辺獄”といったところですなァ!』
独り呟き高笑いもするがその身は唯唯、闇に揺蕩うばかり。
『ふん!神なぞ、幾柱も喰らい、血の如く赤黒き赤銅の月を降ろし、暗黒太陽を臨界せし儂にこのような闇など生ぬるい。人理漂白を成そうとした身、この程度の闇も此方が飲み込んでくれるわ!』
《人理漂白》
ふと思い出す。己を見据える者の姿を。
『カルデアの、マスター。あの女、橙の様な髪色、萱草色(かんぞういろ)に近しい瞳─。
藤丸立香といったか、まことに面白き小娘よ・・・』
──ひとつの点があった。
『あれは・・・星・・・?』
一際輝く一等星ではないけれどまるで一番星の如く孤高に瞬いている。
陰陽師として幾度となく星見をしてきたがあの様な星は見たことがない─。
遠きようで近く、近きようで遠く。蜘蛛の糸のように細きなれどそこから伸びる一条の光。
その光の線を辿り手を伸ばせば届きそうな気がして─
小さくか弱き星なれど何処か眩しく輝くその星よ、嗚呼─。
─辺獄にも星は輝く─