煩悩『煩悩・・・ですか』
そこから端正な顔立ちの法師陰陽師がつらつらと語る。
『まぁ、諸説ありますが、人の感情が108あると言われており、そこから来ているのが「六根の説」です。』
『六根は、仏教において感覚と意識を司る六つの器官「眼(げん)・耳(に)・鼻(び)・舌(ぜつ)・身(しん)・意(い)」のこと。
六根は、人にとって重要とも言えますが、欲や迷いを起こす原因を生じさせるとも言われております。
六根で生じた感覚・状態を表すのが好・悪・平です。
良い(好)・悪い(悪)・普通(平)と判断します。
そこから、さらに「浄(覚り)」と「染(迷い)」に分けることができます。
浄と染も前世・今世・来世の三世を意味する「過去」「現在」「未来」を組み合わせて、煩悩を数えます。
よって計算すると「六根(6)×好・悪・平(3)×浄・染(2)×過去・現在・未来(3)=108」と、六根ではこのように、時間と感覚で108種類の煩悩が区分できます。』
『ひとえに欲と言っても全てが“悪”というわけでもございません。』
『例えば人の五大欲求とも言われている中での生理的欲求。食欲、排泄欲、睡眠欲。人は寝ず、食べずではおられませんので生きる為には必要でございましょう?』
『ですが、まぁ、さーばんとなる者。飲まず、食わず、眠らずでも魔力供給があれば姿を保てますが・・・』
『ンン・・・排泄欲、俗に言う“性欲”に代わるとも言われております欲は人並みにはございます故・・・』
そうして長い爪を持つ大きな手が包み込むようにマスターの頬を撫でる
磨かれた黒曜石の如き瞳に見つめられ残酷な笑みを浮かべた顔が近づいてくる、思わず身体が強張る。
──。
『ンっフフフフ!アハハハハ!そう固くならずともよろしい!』
噴き出すように道満が笑う
『ええ、ええ。戯れ言にて冗談ですとも』
『六根清浄、六根清浄・・・』
細められた黒き眼が怪しく光った気がした。
~了~